海外駐在だより 暮らしてわかるその都市の素顔

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今回は

ニューデリー(インド)

名前:小梶一敏(男性・41歳)/ 駐在地:ニューデリー(インド)/勤務先:ブリヂストン/現地での職務: 営業・マーケティング/家族構成:子ども4人含め6人家族/現在の駐在地に赴任した時期:2011年8月/趣味:マラソン

生活編

地上10階でも侵入してくる猿を撃退するため、アパートの管理人が連れてきてくれたボス猿「ラグー」。よく訓練を受けている。

地上10階でも侵入してくる猿を撃退するため、アパートの管理人が連れてきてくれたボス猿「ラグー」。よく訓練を受けている。

 一昨年の夏にこちらに赴任してきてまず驚いたのは、何といってもその人の多さ。ニューデリー市内はもちろんのこと、街中から外れて田舎道に入ってもとにかく圧倒されるほどの人、人、人。表現は悪いですが、「どこからこんなにたくさんの人が湧いて出てきたのか」と思ったほどでした。そして通りでは、ウィークデーなのに道端に立った(座った)ままボーッと何もしないでいる「路上の哲学者」のような人を多く見かけます。彼らはいったい何をやってお金を稼いでいるのか、夜暗くなって帰る家はあるのか、そもそもこの場所に立ったまま何をしているのだろうか。実は、ニューデリー赴任後1年半経ったいまでもその謎は解けないままです。

 また、田舎ではもちろんのこと市内でもあちらこちらで人間と動物たちが共存している姿に驚きました。野良牛、野良豚(イノシシ)、野良犬らが我が物顔で道路を闊歩し、ヤギや羊たちは夕方になると人間に導かれながら大集団で帰路に着く。その光景とバックにそびえる近代的なビル群とのコントラストがなんともチグハグで、まさにインドならではの光景だと感じています。

 動物といえばこんなことがありました。年末年始の休暇を日本で過ごしてアパートに帰ってみると、まるで強盗でも入ったかのようにキッチンが荒らされていました。地上10階の我が家には、外から泥棒が上がってこれるわけはありません。キッチンにつながっている小さなバルコニーのガラス戸が半開きの状態だったので、休み中に大嵐が通過して突風で台所の食料が飛ばされたのかもしれないと思っていましたが、実はその犯人が「猿」だったことが翌朝判明したのです! 掃除中のメイドさんが背後の物音に振り返ってみると、キッチンの床に一匹の猿がメイドを凝視したまま座っていたのだそう(笑)。その後3回も同じ猿による侵入(未遂)事件が重なり、アパートの管理人が退治用に「ラグー」と呼ばれる訓練を受けたボス猿を連れて来てくれたところ、そのいたずら猿は怖がってもう来なくなりました。ちなみに、アパートの管理人さんが「ラグー」に支払った報酬(?)はいくらだったのでしょうか(笑)?

 「インド=すごく暑い国」というイメージをもつ人が多いと思いますが、確かに夏は東南アジアや日本の夏とも比較にならないほどの「灼熱地獄」になります。一方で、内陸に位置するニューデリーは北緯28度、そして住宅の暖房設備がきちんと整っていないせいもあり、冬は逆にとても寒くなります。現に12月末から1月中旬にかけての最低気温は2〜3℃前後まで冷え込みます。そんな気候のせいか、人々は冬になるとお風呂に入る(シャワーを浴びる)頻度が極端に減り、エレベーターや車内といった密室空間で鼻をつんざくような強烈な体臭に困惑することも。アパートのメンテナンスの人に靴を脱いで自宅にあがってもらったところ、靴下から放たれるその強烈な匂いを嗅いだ我が家の娘が発したコメントが忘れられません。「誰かがどこかで納豆を落として拭いてないんじゃないの?」。

 食事に関してですが、インド人の半数近くが「ベジタリアン」だと思われるほど肉と魚を食べない民族であるという気がしています。また個人の信仰によっては、火曜日だけは肉を食べず菜食主義を貫く人、あるいはもともとベジタリアンでプラス「○曜日は朝から断食・断酒」と決めている人なども周りに普通にいます。ですので夜の接待などでは、その人の食の嗜好に合わせたきめ細かいレストラン・曜日選びが必要になり大変です。

 またインドの郵便事情は非常に悪く、例えば日本から出されたはずの年賀状や手紙が届かないケースがとても多いのです。そこで当方から日本に重要な書類を送る際には必ずDHL, Fedex, UPSなどの国際キャリアを使うようにしています。

 インドでは映画がやはり「娯楽の王様」。私達家族も週末になるとときどき映画館にボリウッド映画を観にいきます。チケットは一人200ルピー(300円)程度と日本の映画館よりかなり割安。面白いのは、インド人は知っている歌が映画で流れると我慢できずにみなで音楽に合わせて歌いだすこと。ヒンディー語は理解できないのですが、歌と踊りで喜怒哀楽を豊かに表現するインド映画の奥深さや文化・風習の違いを体感しながら、インド人の観客たちと一緒に盛り上がって楽しんでおります。

 私はジョギングが趣味で、インド赴任前のマレーシア駐在中には常夏という恵まれた環境で月間200km近く走っていましたが、ニューデリーではそうもいきません。先述したように道路には野良豚・犬・牛らが闊歩し、車やバイクの運転マナーも極めて悪いことから外を走るのはリスクが高く、ひたすらジムのマシンでフルマラソン出場という目標に向けて鍛えています。照準は約1年後のStandard Chartered銀行主催のムンバイ国際マラソン。コース設定やインド人のランニング中のマナー、給水ポイントで出される水やスポーツドリンクの質など、どんな大会運営なのかが興味深いところです。

仕事編

ショッピングセンター前の道路で堂々と昼寝する牛。現地のインド人達もこの光景にどこ吹く風、の様子。家族とお買い物途中にばったり。

 インド人の時間に対する感覚にはいまでも戸惑うことが多い。約束の時間に来ないというのは日常茶飯事で、「行けなくなった」という事前連絡もなしに「単に来ない」ということもままあります。そもそも「約束した」という意識や、「相手の貴重な時間を無駄にした」という罪の意識が希薄(人によっては皆無)のよう。その都度「またか」と諦めるしかなく、来なかった場合でもその場で仕事を片付けられるようノートPCをもっていったり読みたい本を携行したりと、裏切られて損した気分を味わわないですむように未然の策を講じています。最近では、「今日はあの人が約束どおりに来る確率は○○%かな」などと自分の心のなかで賭けをする余裕が出てきました(笑)。当たった場合は「よし、インド人を見る目ができてきたぞ!」、外れた場合は「まだまだインド人の心を読むのは難しい。手強い相手だ!」と思うようにしています。また、レポート等の提出納期は本当のデッドラインより少なくとも2~3日前に設定し、途中経過を頻繁に確認するようにしています。

 「控えめで自己主張をしない日本人 」に対して、「自分が優位になるよう、ズケズケ自己主張をするインド人」という典型的なイメージがあるかと思いますが、当たっていると言わざるをえません。同じインド国内でも、州によって、または南と北で人の気質に程度の差はあるようですが、基本的には自分の非を認めたがらず自己正当化を延々と続ける性質があると感じています。赴任当初は本当に腹の立つことが多く、同じ境遇で働く日本からの駐在員の方々にさまざまなアドバイスをもらいました。インド人の根本的な気質・性質は変えようがないので「仕方がない」と諦め、最低限譲れないライン(諸条件)を決めたうえで彼らの仕事のやり方に合わせながら物事が前に進むよう取り計らっています。必要に応じて、ときには相手が諦めるまでこちらも延々と同じことを理路整然とロボットのように言い続けることもあります(感情的にならずクールに)。ただ一方で、商売絡みでは顧客のプライドを傷つけないよう配慮することも大事なポイントだと思っています。

 インド人の仕事のやり方として「見切り発車もよし」とする風潮が強くありますが、個人的には「時間をかけて綿密にプランを練って練って練りまわして、失敗するリスクを極限にまで排除したうえで次のステップに進む」というある意味日本的な「完璧主義的」な仕事の進め方はあまり好きではありません。現場では日々動きがあり、昨日の仮説が今日は成り立たないという状態になることなどビジネスの世界では日常茶飯事です。そのような状況で完璧な道筋など決められるわけもなく、日本の会社もインド人的な見切り発車型でスピーディーな(ある意味「お気楽」とも思われる)経営手法を取り入れる必要があると感じることも多い。方向が間違っていたと分かった段階で軌道修正をかける「ランニングチェンジ」はインド人の得意技で、日本企業もそういった彼らの気質に関しては見習うべき点が多くあると感じています。

 今後は既存の事業領域においてさらなる新規顧客を開拓し、事業基盤をつくったうえで現地法人を設立することを目標においています。

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