特集インタビュー

世界で戦う「理系」グローバルマネジャー	理系の強みを活かして 何事にも挑戦するマインドが グローバルマネジャーへの道を開く 除村 健俊 氏 株式会社リコー 人事本部 副本部長 兼 グローバルHRセンター長

日本企業の海外進出が加速するなか、技術者にもグローバル化への対応が求められているが、その一方で、グローバル人材育成の遅れも指摘されている。自らが技術者であり、日本IBMではプロジェクトマネジャーとしてグローバルな体制で製品開発を統括し、現在はリコーでグローバル人材の発掘・育成・活用に携わる除村健俊さんに、技術者のグローバル化の現状と理系グローバルマネジャーに必要な素養やスキルについて伺った。

プロフィール
除村 健俊(よけむら・たけとし)
米国Brown大学大学院 Computer Science学科卒。日本IBMでThinkPadのプロジェクトマネジャー(PM)として、多国間にわたる開発体制のなかで製品開発を統括。米国IBMよりPMとしての最高賞を受賞。2008年、株式会社リコー入社。PMの育成や関連人事制度導入を経て、現在、グローバルHRの責任者として全世界のリコーグループでのグローバル人材の発掘、育成、活用を担当している。

目次

  • コミュニケーション能力
  • 日本と外国の橋渡し

成功体験に甘んじず、さらなるグローバル化が必要

 日本IBMでは日本と海外の複数拠点で構成された製品開発プロジェクトチームを牽引し、現在はリコーのグローバルHRの責任者として、世界5地域のHRを連携させながらグローバル人材の発掘や育成に注力する除村さんは、まさに第一線で活躍し続ける「理系グローバルマネジャー」だ。
 そんな除村さんは、日本企業のグローバル化の動きを、過去から現在にわたってこう分析している。
「実は日本がアメリカのフォロワーとして追いつき追い越せと言っていた時代のほうが、日本企業のグローバル化が非常に進んでいました。世界中に出ていって、モノを売って、欧米に追いつきました。自動車でもテレビでも半導体でも、日本がアメリカに勝ってしまった。ところがこの『成功体験』のせいで、自己満足というか現状に甘んじてしまったのではないか」
 その間に台湾や中国、韓国などの新興国・地域が、日本を尻目にどんどん世界に進出した。かつて日本がアメリカを追い越したように、いまは新興国が日本を打ち負かす勢いで世界のマーケットを席巻しているのである。
「気がついてみたら負けているという状況で、『このままではいけない』『もう一度“グローバル”というところに回帰しなければいけないんだ』という意識が、日本企業の間に高まってきているように思います」
 国内市場が飽和し、新興市場に向かわざるを得ないという状況も、再びグローバル化を急がせる大きな要因だ。だがその一方で、日本企業に大きく立ちはだかるのが、英語によるコミュニケーションの壁である。
「これは特に『島国』日本に固有の問題だと思うのですが、母国・外国のギャップが大きく、コミュニケーションの壁がある。グローバルに事業を展開しなければいけない状況なのに、コミュニケーションツールとなる英語がうまく使えない。このままではグローバル化から取り残されてしまうのではないか、という焦りがあるように思います」

英語を使わざるを得ない状況に追い込む

技術開発、人材育成の最前線で「理系グローバルマネジャー」として活躍を続ける除村さん。技術系のグローバル人材の不足を指摘しつつ、チームを成功に導くことのできる英語力獲得に必要なのは「経験」だと断言する。

技術開発、人材育成の最前線で「理系グローバルマネジャー」として活躍を続ける除村さん。技術系のグローバル人材の不足を指摘しつつ、チームを成功に導くことのできる英語力獲得に必要なのは「経験」だと断言する。

 こうした状況下にあって、企業はのどから手が出るほどグローバル人材を必要としている。特に、メーカー等がグローバルに製品開発や技術開発、現地生産を進めようとする場合、技術系のスタッフが不可欠だ。
「新入社員のTOEICスコアを見ると、以前より上がってきているとはいえ、文系より理系のほうが低いという現実があります。プロジェクトをグローバルに進める場合、特にリーダーとして全体を統括するような場合は、それなりのスキルとマネジメント能力が必要になり、“そこそこの英語力”だけでは対応できません。そういう意味では、技術系のグローバル人材は非常に不足していると思いますね」
 では、理系グローバルマネジャーに求められる、チームを成功へ導くことのできる英語力やコミュニケーション力はいかにして獲得できるのか。除村さんは「経験に尽きる」と断言する。
「英語も経験から学ぶことが非常に多いと思います。そのためには、英語を使わざるを得ない状況に自分自身を追い込むか、あるいは会社がそうした環境を用意するか、でしょう。最近は英語の公用語化という動きもあり、日本も徐々に変わってくると思いますが……」
 現状を憂うる除村さんだが、そんな除村さんがいまでも忘れられない経験があるという。IBMに入社して数年たった「まだ全然英語ができなかった」ころのことだ。
 「アメリカで開催される社内の論文発表会に行ってこいと言われたのですが、英語ができないから行きたくないと上司に直訴しました。ところが上司は私に背中を向けたまま何にも言ってくれない。それで仕方なく行くことにしたわけです。でもそれが良かったんです。いざ発表というとき、英語に自信がないものだから最初に『Sorry for my poor English』と話したところ、後方にいた人が『I can hear you!』と叫んだので、みんなが笑った。これでその場が和んで、私もどうにか話すことできました。そういう経験というのはなかなか得難いですよね」
 その後、米国留学やThinkPadのプロジェクトなどを通じて、英語を使わざるを得ない機会が増えるにつれ、除村さんの英語力は向上したという。
「留学では誰もが大変な苦労をしていると思いますが、私も最初は環境になじめず、とにかく歯を食いしばって勉強して、乗り越えることができた。やはりその経験は何ものにも代え難いですよね。また、ThinkPadのプロジェクトではよく海外出張しました。ほとんどひとりで行かされたので、いろいろ失敗もしました(笑)。でも、社会のなかでいろいろな経験をするというのは、本当に重要なことだと思いますよ」

理系の強みを活かしつつスキルを拡げる

アメリカのプロジェクトマネジメントの専門家と仕事をしたことでプロジェクトを進めるにはシステマティックな方法論があることを学んだという除村さん。その経験が自らのキャリア形成の方向性を決意するきっかけになった。

アメリカのプロジェクトマネジメントの専門家と仕事をしたことでプロジェクトを進めるにはシステマティックな方法論があることを学んだという除村さん。その経験が自らのキャリア形成の方向性を決意するきっかけになった。

 もともと半導体電子回路の設計を行う技術者だった除村さんが、PMの道を歩むようになったのは、ThinkPadのチームに参加してからだ。
「たまたまアメリカのプロジェクトマネジメントの専門家と一緒に仕事をすることになったのです。それまで、プロジェクトは力業で進めればいい、属人的にやればいいと考えていて、システマティックにできるものだとは考えていなかったんです。ところが実際に学んでみて、プロジェクトとはこう進めるのか、方法論があるのか、ということを初めて知りました」
 除村さんは「プロジェクトマネジメントを自分の専門にしよう」と決心した。それが自分の社外価値を高めると同時に、会社に貢献することにつながると思ったからだ。除村さんはThinkPadのプロジェクトを進めながら、プロジェクトマネジメントを学び、PMの国際資格であるPMP(Project Management Professional)を取得した。当時(1997年)、PMPを取得した日本人は10人に満たなかった。
 また、ThinkPadのフラグシップといわれているTシリーズの責任者を務め、米国IBMよりPMの最高の賞である「Project Management Center of Excellence Award」を受賞した。
 ThinkPadのPM時代は、海外のチームメンバーと毎日のように電話会議を行ったという。
「英語で議論していると、ディベートというよりけんかに近いような口論になってしまう場合もあります。そんなときには日本語で考えている余裕など全然ないので、英語で考えてそれを相手にぶつける。英語力を上げるには非常にいい経験でした」  
 技術開発プロジェクトの場合、英語でのやり取りにおいては、多くの専門用語が飛び交う。だが、その専門用語さえ分かっていれば、会話の内容を理解しやすいというメリットもある。
「一般的な世間話や経済の話題は苦手でも、専門分野の話なら、使われている単語から内容がほぼ分かってしまう。だから技術系の場合は英会話が苦手という人でも、けっこう内容を理解できると思いますよ。そこを出発点にして少しずつ経験を積んでいけば、英語は必ず上達します。また、こちらの言いたいことを正確に相手に伝えるためには、ロジカルに話せるかどうかが重要です。その点、理系の人は物事をロジカルに考える訓練を受けているので、強みになると思います」
 加えて、グローバルなプロジェクトのPMになるには、まずはメンバーとして国際的なプロジェクトを経験することが必要だという。そこで認められて初めてリーダーへの道が切り開かれる。
 「ただし、リーダーという立場になると技術だけを見ていれば良いというわけにはいかない。人のマネジメントとお金関係のマネジメント能力が必要になります。これはプロジェクトがグローバルかどうかに関係ありません。特にPMになると、そうしたマネジメント能力が非常に重要だと思います」
 その点では企業側からの支援も求められるだろう。リコーの場合は、マネジャーとして赴任する人を対象に「グローバルマネジメント」という研修を用意しており、各国の法制度や文化・考え方の違い、労務関係や労働法、給与や福利厚生の考え方なども教育しているという。

若いときの経験が5年後、10年後の実力差となる

 除村さんは現在、リコーの人事本部でグローバルHRの責任者を務めている。経営のグローバル化を加速していくために、日本だけでなく世界中からグローバル人材を見つけ出して育成するという仕事だ。一見、IBM時代の仕事とは異なる分野のように見えるが、除村さんによると「いままでの経験が実は生きているんです」と言う。
 それは何故か。まず、グローバルHRは日本とアメリカ、ヨーロッパ、アジア、中国という5極を結ぶネットワークであり、電話回線を結んだ会議が頻繁に行われる。チェアマンを務める除村さんにとって、IBM時代に培ってきた英語力・コミュニケーション力は欠かせない武器となる。
 また、グローバルHRの体制構築・運用にあたっては、全体をマトリックスの構造にして統制するなど、製品開発プロジェクトの考え方を活用した。人事課題を解決するためのシステムを作り上げて運用するという除村さんの仕事の進め方は、IBMのPM時代と変わらないものなのである。
「スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式での祝辞で『connecting the dots(点と点をつなげる)』という話(現在の経験が将来とどうつながるかは分からなくても、振り返ってみるとつながるものである。将来とつながると信じて自分の心に従って進んでほしいというメッセージ)をしましたが、まさにそのとおりだと思います。過去の経験が、いまの仕事に確実につながっているんですから」
 だからこそ、グローバルビジネスでの活躍を目指す若い技術者達には「どんどん挑戦してほしい」とエールを贈る。
 「自分から動かなければ、誰も助けてくれません。だから自分から動く、思い切って飛び込む、そういった積極性が大事です。若いときの経験は5年、10年たったときに明確に実力の差として表れてきます。本当に、『若いときの苦労は買ってでもしろ』です」

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