特集インタビュー

幻のコーヒーを求め、世界を駆け巡ってきた川島さん。現地の人でさえ入らないジャングルに入り、これまで何度も稀少品種のコーヒーを発見してきた。ついた称号は「コーヒーハンター」。世界でただひとりの肩書といってもいい。ただ発見するだけでなく、生産者とともに高品質のコーヒーを育て、消費者に本当の美味しさを知ってもらうことで、コーヒーの価値を高めていくことが使命だと川島さんは言う。「コーヒーで世界を変えたい」。その強い信念がいまも川島さんを突き動かしている。

1956年珈琲焙煎卸業の家に生まれる。18歳で単身エルサルバドルに渡り、国立コーヒー研究所に入所。内戦勃発後も同国に残りコーヒーの研究を続ける。81年にUCC上島珈琲創業者の上島会長(当時)に見いだされ入社。ジャマイカ、ハワイ、インドネシアで農園開発を手掛ける。99年にはマダガスカルで絶滅危惧種マスカロコフェア種、レユニオン島(インド洋上のフランス海外県)でブルボン・ポワントゥ種を発見し、保全に成功。2008年に独立し、(株)ミカフェートを設立。高品質を追求した「グラン クリュ カフェ」を発売する。

目次

  • 想い・情熱
  • 新興国事情

コーヒーはフルーツ、鮮度が命。
世界初のコーヒーセラーで豆の品質を管理

コーヒー豆の鮮度にこだわりを見せる川島さんは「あまり認識されていませんが、
コーヒーはフルーツです。ですから、鮮度を保つことはとても大切なことなのです。」と語られました。

コーヒー豆の鮮度にこだわりを見せる川島さんは「あまり認識されていませんが、コーヒーはフルーツです。ですから、鮮度を保つことはとても大切なことなのです」と語る。

 洗練されたレストランやブティックが点在する東京・元麻布に川島さんのカフェ「ミカフェート元麻布本店」はある。コーヒーの愛飲家も一目置くこのカフェには、世界で唯一のコーヒーセラーが存在する。セラーのラックには小分けに真空パックされた生のコーヒー豆が並んでいて、注文が入ると生豆は丁寧に焙煎されて、シャンパンボトルに詰められる。
 「焙煎後のコーヒー豆は炭酸ガスを大量に放出します。この炭酸ガスが抜ける際に、コーヒーの命でもあるアロマ(香り)も逃してしまうのです。市販のコーヒーパッケージでは、放出される炭酸ガスの圧力で袋が破裂しないように小さな穴があいていて、そこからアロマが逃げてしまう。そこで、コーヒーの鮮度とアロマを保つため、いろいろな容器で試してみましたが、コーヒーから出るガスの圧力に耐えられるシャンパンボトルにたどりつきました。“コーヒーのためにできることはすべてやる”。これが、『グラン クリュ カフェ』ブランドのコンセプトです」
 シャンパンボトルの栓を開けると、ポンと音がして芳醇なコーヒーの香りが漂う。川島さんがコーヒーの品質を保つためにたどりついた唯一無二の手法だ。
 品質へのこだわりは、これだけではない。海外からの運搬方法についても独自のノウハウをもつ。一般的なコーヒー豆のイメージといえば、麻袋や樽に詰められた映像が目に浮かぶ。しかし、それではコーヒー豆の品質を著しく低下させてしまうと川島さんは言う。
 「なぜ麻袋を使うかというと、安くて軽いからです。しかし、麻袋はにおいが強いうえに温度にも影響されやすいので、通常コーヒー豆は海上輸送しますが、その間コンテナの温度は60℃以上にもなります。それでは急激に品質を落としてしまうんです。ミカフェートの豆は特殊なプラスチック袋に詰めて、直接麻袋に触れないようにしてにおい移りを防ぐと同時に、湿気からも豆を守っています。そして鮮度を保つため、『グラン クリュ カフェ』の輸送方法はすべて空輸。それ以外のコーヒーも温度管理ができるコンテナで海上輸送しています。それからブルーマウンテンについては樽で輸送されることで有名ですが、これは生産国ジャマイカの法律で決められたものです。樽も麻袋と同じで品質管理には適していません。僕は、1年間かけてジャマイカのコーヒー公社と交渉しました。品質を維持するためには何がベストなのかと。そして、史上初めてジャマイカから樽以外で輸入することを許可されたのです。あまり認識されていませんが、コーヒーはフルーツです。ですから、鮮度を保つことはとても大切なことなのです」

生産者と消費者の架け橋になる

「これまで世に知られていなかったコーヒー豆を探すこと、おいしいコーヒーを作っている農園を探すこと、
そして生産者と一緒になっておいしいコーヒーを作ることが、コーヒーハンターの仕事である」と川島さんは言う。

「これまで世に知られていなかったコーヒー豆を探すこと、おいしいコーヒーを作っている農園を探すこと、そして生産者と一緒になっておいしいコーヒーを作ることが、コーヒーハンターの仕事である」
と川島さんは言う 。

 コーヒー豆の鮮度にこだわりを見せる川島さんだが、コーヒーハンターとしての真骨頂は絶滅種といわれた品種の発掘、そしてコーヒー栽培にある。
 川島さんは高校を卒業して、単身、中南米のエルサルバドルにある国立コーヒー研究所に入所し、内戦に巻き込まれながらもコーヒー研究に没頭し知識を身につけた。その後入社したコーヒー会社では、ジャマイカ、ハワイ、インドネシアといったさまざまな国で農園開発に携わり、コーヒー栽培のノウハウを身をもって体験し、より良い栽培法を開発している。
 そして、良い品質の豆があると聞くと世界のどこへでも飛んでいった。特に絶滅種といわれているコーヒー豆に強い探求心をもち、マダガスカル島では低カフェインの絶滅種「マスカロコフェア」をジャングルの奥深くで発見している。このとき、同行した現地のガイドが、川島さんのことを“コーヒーハンター”と名づけた。まるで、コーヒー界のインディージョーンズのようだ、と。
 しかし、絶滅種のコーヒー豆を探すことだけが、コーヒーハンターとしての使命ではないと川島さんは言う。マダガスカル島の東方に浮かぶレユニオン島で、幻の豆と呼ばれた「ブルボン・ポワントゥ」発見の立役者となったときは、その栽培方法から焙煎まで、コーヒーが商品として完成するまでのすべての工程に心血を注いだ。その間、7年もの歳月がかかっている。コーヒーを完成させたいという想いとともに、これがこの島の主要産業に発展すればとの想いもあり、島を挙げてのプロジェクトにかかわったのだ。
 コーヒー会社を辞め独立してからも、コーヒーへの情熱、ビジネスのスタイルは変わらない。コーヒーハンターとしての仕事は、これまで世に知られていなかったコーヒー豆を探すこと、またおいしいコーヒーを作っている農園を探すこと、そして生産者と一緒になって、よりおいしいコーヒーを作ることであると言う。
 「生産国の人達は、自分達のコーヒーの栽培方法は知っていますが、他の国や地域で行われている栽培方法は知りません。少し栽培方法を変えれば、もっと品質の高いコーヒーができるのに、自分達のやり方が一番だと信じ込んでいる農園も少なくない。栽培方法だけではなく、消費者がどんなコーヒーを求めているかも知りません」
 その点、川島さんは複数の国の農園開発の経験から生産者の現状を知り、栽培方法も熟知している。加えて消費国のマーケットも知っている。
 「生産者と一緒になって品質の高いコーヒーを作り、そのコーヒーの品質に見合った価格で仕入れ、その価値を認める市場をつくる。お互いがwin-winの関係になることこそが、私の考えるサステイナブルなコーヒーなんです。この本質を伝え、“生産者と消費者の架け橋になること”。それがコーヒーハンターとしての使命です」
 そしてコーヒーハンターとして大切なことが、コーヒーの歴史を知ること。誰がいつコーヒーをその国に持ち込んだのか。それが分かれば品種が分かる。例えばキリマンジャロ。いまはタンザニアで採れるコーヒーのほとんどがキリマンジャロコーヒーと名乗り、大量生産が進んだため「以前とは味が違う」と愛飲家の間では不満があった。それが歴史をたどると、キリスト教イエズス会の宣教師がインド洋のブルボン島(現在のフランス海外県レユニオン島)からブルボン種を持ち込み、タンザニアのキレマという村の教会の裏庭に植えたのが、キリマンジャロコーヒーの始まりだということが分かった。
 「さっそくキレマ村に行き、その教会周辺の小農家から集めたコーヒーで生産を始めました。初めは品質が安定していませんでしたが、これも長年かけて現地の人達と一緒に納得できる品質に仕上げました」

交渉では、歴史、宗教、文化を理解して、現地の人になりきる

交渉はお互いの志の確認作業でもあるため、少しでも理解できないことがあれば
あやふやにせず明確にすることも大切。

交渉はお互いの志の確認作業でもあるため、少しでも理解できないことがあればあやふやにせず明確にすることも大切。

 いまも、年の3分の1以上は海外の農園を巡っている。すでに契約している農家には、最低年に2回、収穫期と精選期に行って品質のチェックを怠らない。さらに新しい農園を探して世界中を駆け巡る。タイ、ミャンマー、ラオス、ペルー、ルワンダ……。数え上げたらきりがない。いったい良い農園は、どのように見つけだし、どのように交渉しているのだろうか。共通しているのは開発途上国の山岳地帯ということ。特に契約の判断、交渉には、想像を超える苦労があるのではないだろうか。
 しかし、川島さんは「農園の良しあしは、5分、その農園を見渡せばわかります」と、こともなげに答える。「農園主も5分、10分話せば、一緒に仕事ができるパートナーかどうか判断できます。苗床や畑のつくり方、機械のメンテナンスの具合などを見れば、その農園の技術力や、農園主のコーヒーにかける情熱が分かります」
 そのうえで交渉のポイントは、その国の歴史、宗教、文化を熟知することだと川島さんは言う。例えばインドネシアでは農園によって宗教が違う。また、どこの国の植民地だったかによっても考え方が変わってくる。そうした現地の人の心情を理解し、現地の人になりきる。
 「うちのスタッフに農園で撮った僕の写真を見せると、僕の顔が国によってぜんぜん違うと言うんです。それだけ、その国の人になりきっているんでしょうね」
 英語とスペイン語を話す川島さんだが、それ以外の言語の場合は、必ず英語が話せる現地の人を通訳に雇うという。歴史的、文化的背景が分かったうえで通訳してもらわないと、行き違いが必ずでてくるからだ。
 農園の力量を見極め、現地の人になりきった川島さんが最後に確認するのは、川島さんが目指すサステイナブル・コーヒーの志を理解してくれるかどうか。農園主には、より良いコーヒー豆を作りたいという向上心があるかどうか。
 「契約条件がどうかというよりも、農園主の情熱があるかどうかが大切です。他の農園や国のコーヒーの作り方を熱心に聞いてきたりする農園主は向上心があります。僕の交渉はお互いの志の確認作業でもあります。少しでも理解できないこと、伝えられていないことがあれば、あやふやにせず明確にすることも大切です。意思の表現はひとつではない、何通りもある。英語もスペイン語も意思を伝える大事なツールです。ただ、語学に関して言うと、母国語がきちんとできないとダメです。海外で日本のビジネスパーソンにもよく会いますが、日本語で何を言っているか分からない人は、英語でも何を言っているか分からない。読み書きができても相手に伝わらなければ意味がない」
 そんな交渉を続け、信頼関係を築いてきた。ときには契約書すらない場合もある。それでも、農園主に裏切られたことは一度もないと言う。川島さんは、一度契約した農家からはコーヒーを品質に見合った価格で買い続ける。また、独占契約もしない。
 「僕と契約した農園が品質の良いコーヒーを作り出すと、周りの農園が作り方を真似して、そこも良いコーヒーを作るようになる。それでいいんです」

コーヒー文化はもっと豊かになる

コロンビア・フェダール農園にて。

コロンビア・フェダール農園にて。

 世界唯一のコーヒーセラーなどオリジナルのビジネスモデルをつくりあげた川島さんだが、特許の申請などは特にしていない。世界でもっと品質の高いコーヒーが生産され、それを楽しむコーヒー文化が広がれば、それでいいのだという。
 「普段飲むコーヒー、記念日に飲むコーヒーといった具合に、その品質に合わせて飲み方を変えて楽しむ文化が広がればいい。ワインと同じです。コーヒーも同じ銘柄でも採れた年、農園や畑によっても味は微妙に変わります。市場が成熟していけば、そうした違いが分かる人も増えてくるでしょう。最近、コンビニでもコーヒーが売られるようになりましたが、これもコーヒー文化が広がる喜ばしいことだと思っています。まだ世界のどこかに、僕に発見されたがっているコーヒーがある、出会いを待っている農園主がいる。そして、コーヒー文化が豊かになる。コーヒーで世界を変える――。僕は本気でそう思っています」
 コーヒーハンターの旅はまだ終わらない。

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