特集インタビュー

料理人として大きな成功を収めた森本正治さん。 「アイアン・シェフ」として大きな名声を得ると同時に、 和の鉄人として創り出すその革新的な料理はさまざまな批判を浴びた。 現在、世界12店舗に加えて、新たな出店計画を進めている。 渡米から30年経った今も挑み続ける森本さんの流儀とは?

森本正治 氏 もりもと・まさはる レストラン「MORIMOTO」オーナー 1955年広島県生まれ。高校卒業後、寿司職人として修業し、喫茶店経営、仕出屋、保険代理店業などさまざまなビジネスを経験。84年、寿司ブームにわくアメリカへ。ニューヨークで「ソニークラブ」の和食料理長を経て、「NOBU NY」の総料理長を務める。2001年、フィラデルフィアに「MORIMOTO」1号店をオープン。日本では人気テレビ番組『料理の鉄人』の三代目「和の鉄人」、アメリカでは“Iron Chef America”の鉄人として名を

目次

  • 料理・食べ物
  • 海外で働く

和食への「広く入りやすい入り口」を用意する

一晩に500人はお客さんが入るというニューヨークの店舗。ゴージャスな内装のなかでふるまわれる「MORIMOTO」流の料理に、ニューヨークのグルメも舌鼓を打つ。

 カリカリに焼いたトルティーヤの生地に、甘辛いウナギのタレをぬってまぐろの刺身を乗せる。ブラックオリーブ、プチトマト、レッドオニオン、ハラペーニョをトッピングしてアンチョビソースを加えた「ツナピザ」——ニューヨーク、フィラデルフィア、マイアミ、ハワイ、インドのムンバイやニューデリーなど、世界に12店舗を展開するレストラン「MORIMOTO」の人気の一品だ。
 「寿司バーがあるのでジャパニーズレストランにカテゴライズされますが、そのカテゴリーに入らない料理もたくさんあります。ニューヨークの店であれば、お客さんは一晩に500人くらい。そのうち日本人は10名程度。日本人が求める和食にも対応しますが、メニューには載せていません。どこを狙うか。9割以上を占める現地の人が生の魚に抵抗があるのであれば、間口を広げる必要がある。間口を広げるには、彼らがわかっていることを説明書きや名前に入れる。そういう意味で『ツナ』というのは非常にとっつきやすいですね。トマトだったりアンチョビだったり、彼らになじみのある具材が乗っているけれど、魚は生。和食が初めてでも、食べるとほとんどの人が好きになりますよ。
 最終的にはシビマグロの赤身を2、3年物のしょうゆとわさびで食べてもらいたいけれど、これを最初から出したら拒否反応を示されます。そうならないために何をしていくか。うちの店に来て『こんなの和食じゃない』と言う日本人もいますが、それをやったら流行らないし、僕は『これは和食』と言ったことは一度もない。食べてもらうために間口を広げる。間口を広げていけば、そういうアレンジになってくるし、食べたら絶対においしい。おいしくなければ世界に広がっていきませんから」
 そう語るのは「MORIMOTO」のオーナーである森本正治さん。アメリカでは「アイアン・シェフ」として、日本では90年代に人気を博した料理対決番組『料理の鉄人』の「和の鉄人」としてもその名を知られる。

共通コンセプトをもたない徹底した「現地化戦略」

 ニューヨークの店舗は、建築家の安藤忠雄氏が初のレストラン内装設計を手がけたことでも有名だが、「近いところではニューヨークとフィラデルフィアとは160キロしか離れていないけれど、街としての歴史も住む人の気質も違うから、当然、店舗デザインもメニューもぜんぶ違います。コンセプトはないに等しい。現地の人、そこの店に来る人のためにつくるのがMORIMOTOの料理」だと言う。
 出店準備は、その地域で最高の魚を誰よりも早く仕入れるルートを確保することから始まる。各店舗のスタッフはすべて現地採用。オープン前のスタッフトレーニングには2カ月余りを費やす。エリアによって規則も保健基準も防災基準も、そして人材育成のアプローチも変わる。
 「例えばハワイ。ハワイの人はのんびりしている。4時に約束すると4時に家を出ます。ドリンクを出すのにも15分くらいかかります。で、『ここはハワイだから』と悪気なく言う。だからといって、彼らのことを『レイジーだ』と言うとものすごく怒ります。決して怠けているわけではなく、そういう気質や文化だということなんです。ハワイの人は自分たちの歴史に誇りをもっています。そこでこちらが『レイジー』という言葉を使ったら、分裂して現地スタッフとの間に溝ができるだけ。とはいえ、ハワイの場合、お客さんの半分は日本人だから、日本のサービスを求められます。妥協点を見つけるために、彼らの対応スピードを少しずつ上げると同時にフォローする人間を配置します」
 メニューはスタンダードとスペシャルとで構成され、後者はそれぞれの土地で創作される。「抜擢したシェフが何系だったかによって変わります。フレンチ出身であればフレンチのアレンジに。イタリアンならイタリアン。何でもいい。土台がしっかりしていれば、タイ人が料理長でも、タイ風のアレンジでもまったく問題ないです」。MORIMOTOでは、最初からやることを決めたりしない。森本さんは、どこで、どんなスタッフで、どういう食材が入るのかが分かったうえで、現地の人にとって最高の料理を披露するために、いわばコンダクターとして指揮をとる。

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