特集インタビュー

最新鋭の飛行経路設計システム「PANADES」の開発に携わり、タイを皮切りに東南アジア6カ国もの航空管制当局へのシステム採用に道を開いた山城かすみさん。いかにして異文化と渡り合い、現地のニーズを吸い上げ、提案し、日本のアドバンテージを生かすことに成功したのか。「学ぶことは尽きない」と語る若き技術者のASEAN体験に迫る。

山城かすみ 氏 株式会社NTTデータ  2006年に理系の大学院(理工学研究科・地球惑星科学専攻)を卒業し、株式会社NTTデータに入社。研究開発職として人工衛星画像の補正や解析技術の開発を行う部署に配属される。入社3年目に、航空経路設計システム「PANADES」の開発部署に異動。その後、航空交通流管理関係のシステム開発に携わる。「PANADES」や航空交通流管理パッケージソフトの東南アジアへの展開に伴い、2011年から2014年にかけて、タイ、インドネシア、ベトナムで、ユーザーヒアリング、プレゼンテーショ

目次

  • 日本の強み
  • 異文化理解の方法

日本の技術でつくる、東南アジアの“空の道”

PANADESの描画イメージ。

 人や貨物を満載した飛行機が忙しく離発着する空港は、成長を続ける東南アジアの活力ある姿そのものだ。発展する経済を背負って飛ぶ無数の翼と、その安全を守る各国の管制官や空港関係者達を、日本の技術がサポートしている。
 NTTデータが開発したPANADES(パナデス)は、飛行経路を設計するためのシステムだ。航空機の性能、空港や航路周辺の地形や建造物、天候などをもとに、最も効率的で安全な飛行経路を設計するために活躍し、さらに飛行時間の短縮や燃料の節減はもちろん、飛行の安全性の向上やCO2排出量の削減にも貢献するという。
 もともとNTTデータには日本独自基準の飛行方式設計システムの開発実績があったが、2008年より国際基準に準拠したパッケージソフトの開発に着手し、2011年にタイの航空交通管制公社との契約が成立。ベトナム、ラオス、インドネシア、カンボジア、ミャンマーが、現在までにPANADESを導入している。
 開発に携わった山城かすみさんは、PANADESを「空の道を設計するソフト」と説明する。
 「飛行機というのは、搭載しているGPSの情報や地上の無線施設からの電波を捕捉することで自機の位置を把握して、指定されたルートをたどって飛んでいます。それでも機器の性能や誤差で若干のズレは出ますから、あらかじめ横にも縦にも多少の幅をもたせたエリアを、“道”としてつくっておくのです。PANADESの導入で、飛行経路の設計は容易になり、どの道を使うのがベストか、管制官も判断しやすくなります」

描画を他のツールへ取り込んで表示したイメージ。

 航空業界自体が急速に成長している東南アジア諸国では、安全性の向上は喫緊の課題だ。航空管制の信頼性向上は特に重要とされ、選ばれたのがPANADESだった。山城さんも開発担当者として、何度も導入の現場に立ち会っている。
 「インドネシアでは、運輸航空総局と運輸省教育訓練庁に対する日本の技術協力プロジェクトへの供与機材として、PANADESの運用が始まりました。現地ではそれまでAutoCADを使って経路設計を行っており、1つの経路を設計するのに1カ月という時間がかかっていたそうです。それがPANADESの導入により、わずか1週間で質の高い経路設計が可能となったのです。飛行経路の設計士や関係者からは口々に、“Wow!”とか、“Excellent!”とかいった声が上がっていました。みなさんの笑顔は今も鮮やかな印象として残っています」

距離が近いこと、きめ細かい対応は、文句なく日本の強み

提案に訪れたタイで、クライアントのAEROTHAI社、現地グループ会社のスタッフと。

 東南アジアでのPANADES運用は、初めはODA(政府開発援助)の一環として導入され、その後、個々の航空局との間で契約が延長される形が多い。しかしタイのように、顧客への直接販売で始まるケースもある。
 「2008年に大阪で開催された国際会議にブースを出し、タイやインドネシアの方にPANADESの紹介をしました。それからやり取りを続けたのち、タイでプレゼンテーションをする機会を得たのです。私にとっては、それが直接販売の経験です。同時に、人とつながることで、仕事が広がっていく面白さも実感しました」
 PANADESのような専門家向けのソフトでは、開発担当者が直接説明に当たることが多い。営業担当や現地のグループ会社の担当者とともに、あるいはひとりで、山城さんは、タイ、ベトナム、インドネシアといった国々に足を運んだ。プレゼンテーションや提案、納品、ユーザーヒアリング、ユーザー研修、セミナーと、出張の目的は毎回さまざまだが、海外のクライアントと直接触れ合うことで、その国特有の事情やニーズが、はっきりと見えてきた。
 「東南アジアの国々は、2つの異なる発展段階にあるように思います。ミャンマーやベトナムなど、まだ十分にインフラが整備されていない国々では、PANADESだけでなく、空港整備も、地上の無線施設や管制システムも、トータルで求めていることが多いのです。
 これに対して、シンガポールやインドネシア、タイなどは、すでにインフラはひととおり整っています。だからPANADESだけあればいい、あるいは、PANADESの特定の機能だけほしいという要望もあるわけです。東南アジアとして、全部ひと括りにすることは不可能です」
 成長著しいとはいえ、東南アジア諸国の経済力は、日本と比べればまだ小さい。日本向けの高額なシステムを使ってもらうには、反対に相手が必要としない機能は省き、手が届く価格を実現するといった工夫も不可欠だ。
 一方、ヨーロッパやアメリカの競合企業も、虎視眈々と東南アジア市場を狙う。そのなかで、日本企業としての強みは何だろう?
 「地理的なアドバンテージは確実にありますね。日本は東南アジアとの時差が小さいので、連絡やサポートがスピーディです。当社のグループ会社は各拠点にありますが、必要なら本社からでもすぐ出張できます。
 製品自体に関しては、欧米の場合、最初からいろんな機能がたくさん付いていて、あとはユーザーが好きに使って、というスタンスのものが多いです。反対に、私達はお客様と一緒に運用フローを考えながら、個別に提案をしていきます。結果的には、そうしたきめ細かい対応が、評価されていると思います」

  • 1
  • 2
  • 次へ

関連記事

ページの上部に戻る