NBA選手になるという夢が、生きた英語を身につける原動力になった
〜プロバスケットボール選手 渡邊 雄太さん
公開日:2025年10月15日

NBA選手を目指し、高校卒業後に単身渡米した渡邊雄太さん。NCAA 1部(全米大学体育協会の最高レベル)の名門大学のチームで活躍し、卒業後は念願のNBA選手に。アメリカのチームでプレイするためには「英語力は不可欠」という渡邊さんに、現地でどのようにして英語を学び、磨いていったのか、お話を伺いました。
渡米してすぐに訪れた大きな試練
英語学習はいつから始めたのですか?
高校2年生のとき、アメリカに留学しようと決めてから、少しずつ英会話を勉強し始めました。「机に向かって勉強するだけじゃつまらない。もっと楽しく学べる方法はないかな」と、留学経験がある方に相談したら、「好きな映画やドラマを見ると、すごく勉強になるよ」と教えてもらいました。その方が紹介してくれたのが、『ルディ / 涙のウイニング・ラン』(Rudy)というフットボール選手の映画。スポーツという共通点があったのと、話もむちゃくちゃ面白かったので、何度も繰り返して観ましたね。
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『ルディ』デジタル配信中 株式会社ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント |
その映画を教材にして、どうやって勉強していたのですか?
最初は日本語字幕で観ながら内容を把握する。次は英語字幕に切り替えて、英語での言い回しを文章でチェックしたり、出てきた単語で知らないものを調べたりしていくうちに、字幕なしでも観られるようになりました。
教科書や参考書だけの学習では得られない生きたフレーズがわかるのが、映画で英語を学ぶメリットだと思います。好きな映画であれば、飽きずに英語学習を続けられるので、おすすめです。
アメリカ留学をスタートしてから、事前学習の成果は感じられましたか?
それが、日本で学んできたことがもう少し役立つと思っていたんですが、いざ周りが英語ばかりの環境になると全然足りなかったですね。最初にプレップスクール(大学進学のための準備校)に留学したのですが、授業が聞き取れない。入部したバスケットボール部のチームメイトが何を話しているのかも全然わからない。クラスメートに話しかけられても応答できなくて、相手が諦めて去っていく経験もしました。
また、渡米したばかりの頃に一番困ったのが、お店での注文です。コーヒーを買いたいだけなのに、カフェでの注文の仕方がわからない。「これをください」っていうのは「プリーズ」をつければいいのかな、とか、いろいろ考えてもわからないので、結局、「this, this!(これ、これ!)」ってメニューを指して、何とか注文していました。多分、ものすごく失礼だったと思うんですけど(笑)。
苦労続きだったのですね。モチベーションはどうやって維持されましたか?
はい、当初は驚くほどに英語が通じないし、聞き取れなかった。日常でも試合でもコミュニケーションが取れず、毎日大変なことばかりでした。それでも英語学習をやめなかったのは、小学生の頃からの「NBA選手になって活躍したい」という夢があったから です。
バスケットボールは、戦略を確認し合ったり、指示を出し合ったり、コート上で絶えずコミュニケーションを取るスポーツです。夢を叶えるために、「英語で話せること」は絶対条件でした。だから、何が何でも英語を上達させる必要がありました。
「完ぺきを求めすぎない」ことが生きた英語力につながる
ほぼ英語力ゼロの状態からどうやって英語を身につけていったのですか?
僕が留学したプレップスクールには、日本人の学生も何人かいました。でも、「日本語を喋っている間は英語は上達しないだろう」と考えて、「聞く」「話す」力を身につけるために、できるだけ英語を話す友達と一緒に過ごし、とにかく彼らが話す言葉や単語を聞いて、自分からも積極的に英語で発言するようにしていましたね。
「読む」「書く」に関しては、初心者向けの授業を受け、基礎から学びなおしました。ただ、授業を聞いているだけでは定着しないので、その日、学んだことをしっかり習得するために、寮に戻ってからも必ず復習していましたね。
「聞く」「読む」「話す」「書く」の4技能をまんべんなく学習されていたのですね。英語力を伸ばすためには、4技能の習得が必要だと思いますか?
もちろんです。たとえば、授業でものすごい量のレポートを書いていましたが、書くためには当然、参考文献などを読む力が必要です。どう表現していいかわからない単語は調べることで、後に新しく身についた単語やフレーズとして、会話に生かせます。そうすることで、語彙数も増やすことができて、だんだん話すのもうまくなっていく。結果、友達との会話が増えて、相手の言葉を聞く力も鍛えられていきます。
こんな風に、「聞く・読む・話す・書く」の4技能がそれぞれ補完し合って、英語力が伸びていくのは自分の経験からも間違いないと思います。
プレップスクールのバスケットボール部のチームメイトも英語学習をサポートしてくれたそうですね。
チームメイトの中でも、特に仲のよい友人が一人いました。彼は、僕が話を理解できなくても、根気よく何度も話しかけてくれました。僕の話していることがわからないときも、「こういうことが言いたいのかな?」とニュアンスをくみ取り、辛抱強く話を聞いてくれて。彼のおかげで、下手な英語でも恥ずかしがらずに話すことができました。こうして、大好きなバスケットボールをやりながら、生きた英語表現をたくさん学ぶことができました。
英会話で心がけていたことはありますか?
完ぺきを求めないことです。英語を話すときについやってしまうのが、頭の中で日本語から英語に訳してきれいに話そうとすることです。でも、これをやろうとすると、僕の場合は文法や単語の正確さを考えてしまい、言葉に詰まってしまうなと感じていました。
だからこそ、「うまく言えないのは当たり前」という気持ちで、まずはとにかく話すことを意識していました。そのおかげか、少しずつ単語やフレーズがスムーズに出てくるようになりました。
インプットだけでは上達しないのは、バスケも英語も同じ
プレップスクールを卒業後、見事NCAA 1部に名を連ねるジョージ・ワシントン大学へ進学され、全米の強豪校との試合に臨まれていますね。試合後にインタビューされる機会もあったと思いますが、英語によるインタビューのために準備していたことはありますか?
試合後のインタビューは同じような質問が多いので、ほかの選手のインタビュー映像をたくさん見て、答え方を勉強していました。ただ、試合の状況や結果次第で当日の質問内容は変わるので、最初の頃は、質問と答えを数パターン準備してインタビューに挑むようにしていました。
そのルーティンが功を奏し、大学4年生の頃にはそれなりにスムーズに返答できるようになっていたと思います。それでも今に比べると下手な英語ですが(笑)。下準備をせずに、どんな質問にも答えられるようになったのは、NBA選手になって、インタビューされることがぐっと増えてから。英会話は数をこなせばこなすほど、上達していくのだということを実感しました。
アウトプットの機会が増えて、一段と英会話力が磨かれたのですね。
何事もそうですが、インプットするだけでは絶対、上達しない。バスケットボールでも、いろいろな技術があるのを知っているだけでは力を発揮できません。技術があることを知るだけでなく、実際に練習し、試合でアウトプットするからこそ技が身につき上達します。それは英語も同じです。こういう単語や文法の使い方があるとか、こんな言い回しがあるとか、知識として持っているだけでは、いざというときに出てきません。
だからこそ、英会話力を上達させるには、コミュニケーションの場面に限らず常に英語を発話する習慣を作っておくといいと思います。
僕が実際にやっていたのは、英語で独り言。考え事や思ったことを英語でつぶやいて、言葉に出せるように練習していました。
英語が上達して嬉しかった思い出はありますか?
大学を卒業し、NBA選手になってから、プレップスクール時代いつも僕の英語学習を助けてくれた友人をNBAの試合に招待しました。彼と過ごしていた頃の僕は、知っている単語をただ羅列し、ジェスチャーを交えながらなんとかコミュニケーションを取っているレベルでした。
それが6年ぶりに会ったら、僕が流ちょうに英語を話せるようになっていて(笑)。彼は「すごく上手になったね!」と、驚きながらもほめてくれました。
そのとき、「ああ、毎日、英語学習を続けているうちに上達したんだな」とはっきりと実感できて、とても嬉しかったのを覚えています。英語がまったくできない当時の僕に付き合ってくれていた彼にも、改めて感謝しました。
英語学習のスタートに「遅すぎる」はない
英語が上達することでプレイにどんなメリットがありましたか?
チームのみんなと、スムーズにコミュニケーションを取れるようになったことですね。
英語がうまく話せなかったプレップスクールの頃は、チームメイトに「こう動いてほしい」とか「これをやってほしい」と思ってもなかなか伝えられませんでした。相手に言われたとおり動くだけだったこともあり、自分が思い描いたプレイができず、歯がゆい場面も多々ありました。
NBA選手になってからはチームメイトに英語で作戦を伝えたり、動きの指示を出せるようになったりと、自分の英語が上達していることを実感するとともに、練習や試合でもとても動きやすくなって、プレイの幅が広がりました。ほかのチームメイトとの連携がスムーズになったことで、個人の選手としても、チームとしてもよいプレイできるようになりました。
今は日本でプレイされていますが、英語が話せてよかったと感じることはありますか?
今、僕が所属しているチーム『千葉ジェッツ』の監督はオーストラリア人なので、いつも英語で話しています。英語が苦手な選手はプロの通訳を介して話していますが、たまに監督が言っていることと翻訳のニュアンスが「ちょっと違うな」と感じることも。そのせいで、選手側は言われていることが理解できずに、困っているような場面も見かけます。
だからこそ、外国人の監督や選手たちの言っていることをダイレクトに理解し、応答できることは、よりよいプレイを行うために重要だなと感じます。アメリカで11年間プレイし、バスケットボールと共に磨き続けた英語力が、日本でプレイするうえでも生きていますね。
今後、英語力を生かしてやりたいことはありますか?
僕はNBA選手を目指してアメリカに行きましたが、最初は本当に英語で苦労しました。その経験を何らかの形で生かしたいと考えています。選手としてキャリアの節目を迎えたら、僕と同じようにバスケットボールで留学したい子どもたちに、英語でバスケットボールを教えることができたらいいなと思っています。
今、英語学習をされている方にメッセージをいただけますか。
英語を身につけることはキャリアの選択肢を増やすことにつながります。自分の未来の可能性も、確実に広がっていく。これは、渡米直後にまったく英語を話せなかった状態から、英語を生かし、NBA選手としてアメリカでプレイする夢を叶えることができた僕の実感です。
何かを始めることに「遅すぎる」はありません。英語は早いうちから勉強するのに越したことはないですが、30代、40代、50代、いつから始めても、絶対に遅いことはありません。自分が「英語を学びたい!」と思ったときが、その人にとって一番早いタイミング。英語に興味を持ったら「今から勉強しても……」なんて思わずに、英語学習を始めてほしいですね。
英語は、勉強し続ければ必ず上達しますから!
渡邊 雄太(わたなべ・ゆうた)さん
1994年生まれ、香川県出身。香川県の尽誠学園高校を卒業後、NBA選手を目指して渡米。NCAA 1部所属のジョージ・ワシントン大学に進学。在学中にAtlantic10ディフェンシブ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤーを受賞。2018年、メンフィス・グリズリーズと契約し、日本人2人目のNBA公式戦出場選手に。その後、日本人最長の6シーズンに渡り複数のチームでNBAのキャリアを重ね、2024年に帰国。現在はB1リーグの千葉ジェッツに在籍。
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