「伝えたい」という思いが、AIには生み出せない英語表現力を磨く
〜エンジニア・研究者・作家 大塚 あみさん
公開日:2025年10月15日

エンジニア、研究者、作家、そして会社代表として幅広いキャリアを持つ大塚あみさん。国際学会で論文を発表し、複数の賞を受賞。自著はベストセラーになるなど国内外で華々しい活躍をみせています。今はお仕事に英語が不可欠だという大塚さんに、どのように英語力を磨いたのか、海外と関わる仕事をする上での英語との向き合い方、必要性について伺いました。
目次
英語学習の入り口は「ゲームを楽しみたい」という気持ち
大学時代から現在に至るまでのご活動の経緯を教えていただけますか。
大学4年生のとき、授業中にChatGPTで作ったオセロゲームが教授の目に留まり、論文を書いて学会で発表することになりました。その発表内容が認められて行った招待講演にて、論文と講演内容が評価されて「2023年ネットワークソフトウェア若手研究奨励賞」をいただきました。
また、2023年10月から100日間、毎日アプリを作ってSNSの「X」で公開した「#100日チャレンジ」が反響を呼び、その経過をまとめた書籍『#100日チャレンジ 毎日連続100本アプリを作ったら人生が変わった(日経BP)』が、ベストセラーになりました。
大学卒業後は一旦、企業に就職しましたが、2024年12月に合同会社『Hundreds』を設立。現在はソフトウェア開発をメインに、講演や講義、執筆、研究活動などを行っています。
今では海外での講演や講義など、英語を話すお仕事も多いとのことですが、英語はもともと得意でしたか。
中学生になったばかりの頃は、英語にまったく興味がありませんでした。勉強自体も苦手だったので、テスト前すら勉強せずに結果は10点満点中0点。よくて2点ということも珍しくありませんでした。
追試験を何度も受けるという状況で、毎回、先生から「ちゃんと勉強しなさい」と叱られていましたが、それでも英語学習にはあまり取り組んでいませんでした。
英語学習を始めたきっかけは何だったのですか?
大好きなゲームを思い切り楽しみたかったからです。14歳のときにスマートフォンを持つようになると、いろいろなゲームをダウンロードして、毎日4〜5時間、プレイに没頭するようになりました。私が好きなゲームは、日本語に翻訳されていない海外のものがほとんどで、攻略サイトもすべて英語。当時の私の英語力ですらすら読めるわけもなく、細かいルールや操作法を知らないと楽しめなかったので、わからない英単語を1つずつ調べながら遊んでいました。
大学時代は、Discord(コミュニケーションサービス)を使って、海外のプレイヤーたちとボイスチャットをしながらゲームをする時間が増えました。最初のうちは、英語でどう言えばよいのかよくわからなかったので、翻訳アプリも立ち上げておき、言いたいことを翻訳しては「変だな」と思う部分を自分なりに修正して話していましたね。そうやって毎日、ボイスチャットで英会話をしているうちに、よく使う基本的な言い回しを覚え、聞き取れなかった相手の言葉もキャッチできるようになり、躊躇なく会話できるようになりました。
とはいえ、あくまでゲームに関する短い会話。まだ仕事や講演で使えるレベルではありませんでした。
「自分のことを話したい!」寝る間も惜しんで英語学習した結果、周囲からほめられる英語力に
社会人になってからはどのように英語を学習しましたか?
大学卒業数カ月後に国際学会で発表する予定があったので、少しでも上手に発表できるように、オンライン英会話のレッスンを始めました。当時はちょうど自著の執筆中だったので、レッスンは会社の仕事と執筆作業を終えた23時半から。毎回講師が変わるため、自己紹介からはじめるのですが、自己紹介で「“author”(作家) 」だと名乗ると、どの講師も尊敬の目で見てくれて、「すごいですね!」と感心してくれることが嬉しかったのを覚えています(笑)。毎回、自己紹介をブラッシュアップして話していました。だんだんと、プロフィール部分は流ちょうに話せるようになると、次は、自分のこれまでの経験談をもっとうまく話したいと思うようになりました。
英会話の楽しさが増していったのですね。講師とはどんなことを話しましたか?
たとえば、「『ChatGPTを使ってレポートを書くな』と教授に言われたことで、逆にどうすればChatGPTを使ったとバレないレポートが書けるかに挑戦してみた」、といった学生時代の話などは講師ウケがよかったことを覚えています。それがモチベーションになり、そのうち「次のレッスンではどんな話をしようか」と、一日中エピソードを考えるようになりました。
エピソードは、まず日本語で考えてから、頭の中で英訳し、わからない表現や単語があれば調べて準備。また、レッスン中のやりとりはすべて録音しておいて、講師に通じなかった部分はなぜ通じなかったのかをレッスン後、夜中の0時半から聞きなおして復習していました。
ものすごく眠かったですが、放っておくと通じないままなので、毎晩、睡魔と戦いながらレッスンを振り返り、その日の問題点はその日のうちに解消するようにしていましたね。
英会話の時間が心地よかったからこそ、楽しみながら無理なく英語力を伸ばしていけたのですね。
はい。当時は、講師と話す時間が何より楽しかったです。というのも、大学時代に研究が評価され、賞ももらって、将来有望だと言われていたのに、入社後はそれまでの経験もエンジニアとしての力も評価されず、ほかの新入社員と同じ初心者向けのプログラミング研修からのスタートでした。
会社の外でも、大学時代から取り組んでいた「ソフトウェア開発の効率化」の研究論文では教授から厳しい指摘を受けていたし、自著の担当編集者からは、書くのが遅いと叱られてばかり。そんななかで、急降下しそうな私の自己肯定感を唯一保ってくれたのは、自分のエピソードを伝えるたびに感心し、尊敬してくれた、講師との英会話だけだったんです(笑)。
そうやって、毎回楽しみながら英語学習を続けているうちに、英会話力が自然と上がっていきましたね。
海外でのお仕事で、英会話学習の成果を感じることはありましたか。
その後、国際学会「CogInfoCom」に出席して、「ChatGPTを使った新しいプログラミングのアプローチ」について発表しました。そのとき、日本から参加した教授や大学院生のなかで、英語でコミュニケーションを取れたのは私だけで、同行した教授陣からもほめられました。
でも、最初からうまくいったわけではなかったんです。
英会話の練習をする以前に出席した国際学会では、事前準備や発表の練習ができるプレゼンテーションはなんとか無事に終えることができても、その場で受ける質疑応答はまったくだめでした。

その頃は、単純で短い文章でのやりとりしかできなかったので、何を聞かれているのか、まったくわからず。質問に何も答えられない私を見かねた司会者が、優しい単語を使った短い文章に言い直してくれて、30ワードくらいあったセンテンスが、最終的には6ワードくらいに短縮されることもありました(笑)。ようやく質問の意図を理解できても、英語で答えられないこともしばしばありました。
学会では各自の発表だけにとどまらず、世界中の研究者と交流することも大きな目的ですが、そのためには状況にあわせて柔軟に対応できる英語力が必要です。
雑談力を磨いたおかげで、今では海外の研究者とも積極的にコミュニケーションを取れるようになりました。
AIで文章の土台をつくり、自分の頭で「私だけの表現」を推敲する
海外でお仕事をされるようなり、改めて英語力の必要性を感じられますか?
研究者として評価されるには、英語は「できて当たり前だ」とみなされます。講演での発表や講師として招待されるような場面でも、事前に「英語を話せますか?」と聞かれることはありません。話せることが前提です。最初は、英語力がなくても依頼が来ることもあるかもしれません。ですが、そこで英語力が不足していると判断されれば、コミュニケーションを面倒に感じた相手は去っていきます。
だからこそ、研究者として実績を重ねていくためにも英語力は不可欠だと感じています。
また昨年、立ち上げた会社でも、扱っている開発案件の多くが海外からの依頼です。打ち合わせやメールのやりとりはすべて英語のため、英語を使わない日はありません。今の私は英語力がないと成り立たないので、より一層磨いていきたいですね。
AIエンジニアとして、英語学習にAIをどのように利用していますか? また、作家として、英文の作成にこだわりはありますか?
話したい英会話文の発音の仕方や、構文の作り方などを聞くほか、英会話で相手に通じなかった言葉があれば、その原因なども質問し、AIの答えを参考にしています。英語表現を考える際、AIは、私にとって欠かせないツールです。
たとえば、英文を書くときには、まず、自分が何をどう伝えたいか、日本語で考えた文章を何度も推敲し、それを英語でどう表現したらいいのかをAIに聞くようにしています。AIが出した答えで意味がわからない単語は調べ、自分の言いたいこととズレていると感じたら、どう直したらいいのかひたすら試行錯誤します。メールを1本書くために、1時間半くらいかかることもあります(笑)。クタクタになりますが、納得のいく文章になるまで、絶対に手を抜くことはありません。
文章は、「相手に自分をどう思ってもらいたいか」を表現する手段です。だからこそ、相手を意識することが大切だと考えています。私の場合、国際学会や国際会議に提出するレターや論文を書くことが多いので、より丁寧に時間をかけて書くようにしています。
私は、研究者の中では若手の部類ですが、学会で発表し、賞も受賞している研究者として、プライドを持って活動しています。「まだ若いからこの程度」と思われないように、研究者としてふさわしい文章を書くことを心がけています。
英語学習でAIを利用するときに気をつけていることはありますか?
AIは、私にとって欠かせないツールです。ただ、AIが作ってくれる文章は、真面目であまり面白みがありません。それなりにきれいにまとめてくれるのですが、そのままでは内容が普遍的で、読む人に訴えかけるような力強さがないと思っています。
日本語であっても英語であっても、自由に表現し、自分が本当に伝えたいことを正確に相手に伝えることはとても重要です。そのためには、AIが導き出した答えの表現の揺らぎや、言い回しの違和感に気づき、自分で修正できる英語力が必要です。単語ひとつにしても、AIが出してきたものが、「これは私が使いたい言葉(単語)とは違う」「この言葉をつかうと文章が安っぽくなる」などと感じたときは、ほかの言葉を考える、もしくはほかの言い回しにするなど、自分がイメージする表現に近づけるようにしています。
「伝えたい」という強い気持ちが、英語力向上とキャリアアップの原動力
TOEIC Tests(※)のスコアをどのように捉えていますか?
TOEIC Testsのスコアは、自分の力をアピールできる便利な指標だと思っています。現在、私のTOEIC L&Rスコアは810点です。スコアを取得するまでの過程を説明せずとも、一定のスコアを保持していれば、周囲から英語力を評価してもらえます。
私にとってTOEIC Testsのスコアは、仕事をする上で、自分をアピールする武器の1つだと考えています。
※TOEIC Tests :TOEIC Listening & Reading Test(TOEIC L&R)、TOEIC Speaking & Writing Tests(TOEIC S&W)の総称。
英語力を身につけたことで、可能性が広がったと感じていますか?
今の私があるのは、完ぺきではなくても英語で発信することを諦めなかったおかげです。英語のライティングができなければ論文を書くことができなかったし、スピーキングができなければ、「#100日チャレンジ」の成果を国際学会で発表することも、それが評価されて賞をいただくこともできませんでした。賞を受賞していなければ「#100日チャレンジ」の本を出版し、ベストセラー作家になることもなかったのです。
サボることばかり考えている大学生だった私の人生は、自分の想像をはるかに超えて飛躍しています。2年前を振り返ってみると、「英語を身につけていなかったら、たくさんの大きなチャンスを逃していたな」と、改めて感じます。
今後の目標を教えてください。
エンジニアとしても、研究者としても、もっと活動の幅を広げていきたいと考えています。これまで、アジアやヨーロッパの機関から招待されて、海外で学会や講演会、講義などを行ってきましたが、まだアメリカの機関から招待されたことがありません。
現在、AIやソフトウェア産業の中心地といえば、アメリカです。当面の目標はアメリカの機関に招待されることです。そのためにも英語力を磨き続けるとともに、研究者としての実績も重ねていきたいと思います。
TOEIC Tests受験者の皆さんや英語を勉強している方々へメッセージをお願いします。
私はコツコツ勉強するのが苦手なたちなので、単語をたくさん暗記しようとか、文法を順番に覚えていこう、といったことはしてきませんでした。ただ、自分の言いたいことを伝えるためには、それを表現する単語を知らなくてはいけないし、正しく伝えるために構文も覚える必要があります。
私の場合、“伝えたいことがあるのに、うまく伝えることができない”というストレスを解消したくて、英語に向き合った結果英語力が上がっていったと実感しています。
趣味でも仕事でもよいので、英語で「伝えたい」「話したい」というきっかけが生まれたら英語学習を無理なく続けていけると思うし、英語力も伸びていくと思います。
大塚 あみ(おおつか・あみ)さん
2001年生まれ、愛知県出身。中央大学経済学部卒業。「生成AIに育てられた第一世代」を掲げ、大学4年時にChatGPTを武器に100日で100本のアプリを公開する「#100日チャレンジ」を完遂。同名書籍はベストセラーに。IEEE CogInfoCom 2024審査員特別賞、情報ネットワーク研究会若手奨励賞など複数受賞。国内外のカンファレンス、企業・大学で講演し、AI時代の開発手法や学習戦略を発信。現在はAI駆動開発による受託開発と生成AIコンサルティングを手がけるほか、メディア寄稿・出演も行い幅広く活動している。
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