英語が、夢への架け橋に。
人々と社会をよりよい未来へつなぐ事業を創りたい
~btrax Japan サービスデザインリード 前田 瑞歩さん

公開日:2026年6月10日

前田 瑞歩さん

サンフランシスコ発のデザインコンサルティングファーム・btrax Japanでサービスデザイナーとして活躍する前田瑞歩さん。日米の二拠点を行き来しながら、仕事も生活もグローバルな環境に身を置いています。今では英語を自在に使いこなす前田さんですが、その原点は高校時代の語学研修で味わった挫折にありました。現地での経験がどのように世界を広げ、夢を育て、今のキャリアにつながったのか——これまでの歩みを伺いました。

「井の中」から飛び出し、世界でも通用する力を身につけたい

英語と出合った最初のエピソードを教えてください。

幼稚園の頃、両親の勧めで英会話教室に通い始めました。当時は勉強しに行くという感覚はまったくなく、ネイティブの先生や友達とゲームをしたり、英語と日本語を交えながら一緒に遊んだりしていました。友達の家に遊びに行くような気軽さに近かったですね。楽しい習い事として、小学生になってからも通っていました。

そこから英語を“学ぶもの”として意識するようになったのは、いつ頃のことですか?

中学生になり、学校の授業で英語が始まってからです。教わったことをしっかり身につけられるよう意識して取り組んでいました。英語に力を入れている学校だったこともあり、中学3年生のときに学校を通じて英検を受験したんです。そこで高校卒業程度レベルの級を取得したことで、自分の英語力を初めて客観的に実感することができました。

その後、高校1年生の夏休みにイギリスでの語学研修に参加し、現実を突きつけられるような経験をされたそうですね。

語学研修への参加を決めたのは、先に行った先輩たちが「すごく楽しかったよ」と口を揃えていたこともありますが、それ以上に、自分の英語が海外でどこまで通用するのかを確かめてみたいと思ったからです。興味や好奇心も背中を押して、意気揚々とイギリスに向かいました。

現地に着いてすぐのクラス分けテストでは、一番上のクラスに入れて、「いいスタートが切れたな」と思ったんです(笑)。

ところが授業が始まった途端、自分がどれほど「井の中の蛙」だったかを思い知らされました。ヨーロッパ各地から集まった学生たちは英語が堪能で、何よりとても積極的。彼ら・彼女らの姿勢や勢いに圧倒されてしまい、私は怖じ気づいて、思うように英語が話せなかったんです。さらに、英会話教室に長く通っていたおかげで本来は得意なはずのリスニングでさえ、聞き取れない場面が多くありました。もちろん語彙や文法の知識がまだ十分でなかったということもありますが、日本でも、そして現地のクラス分けテストでも成績が悪くなかったため、どこかで「自分は英語ができる」と慢心していたのだと思います。

知識がどれだけあっても、英語は使って表現できなければ意味がないということを痛感しました。自分の英語力は日本という限られた環境のなかでしか通用しない、という現実に直面した瞬間でしたね。負けず嫌いな性格もあって、そんな自分が悔しくてたまらなかった。英語力だけでなく、自分の可能性をもっと広げて、世界でも通用する力を身につけたい——。初めての語学研修は、そんな強い思いが芽生えた経験になりました。

前田 瑞歩さん

同じ語学研修に参加した学生たちと、パーティーでの一コマ。周囲の積極的な姿勢を見習い、英語での会話に精一杯挑戦した

英語力に自信。新しい自分が開いた瞬間

語学研修での悔しさをバネに、さらに英語学習に力を入れて取り組んだ高校時代を経て、国際学部のある大学に進学されます。背景には、どのような考えがあったのでしょうか?

実は、語学研修で、日本の存在が確かに世界に届いていると感じた出来事もあったんです。ある日、現地の学校でセルビア人の学生に突然声をかけられ、開口一番、「アイ・ラブ・ジャパン」と言われて。その子が携帯電話の裏に貼っていた浮世絵のステッカーを見せてくれたのをきっかけに、会話が一気に弾みました。

日本人というだけで距離が縮まり、世界とつながれる感覚がとても不思議で、同時に嬉しかった。日本が世界からどう見られているのか、どうしたらもっと日本を理解し信頼してもらえるのかということに興味を持つようになり、大学では国際学部に進学し、世界と日本の関係性を学ぼうと決めたんです。

大学在学中には、合計6回もの国際交流プログラムに参加されています。ご自身を突き動かす原動力はなんだったのですか?

世界でも通用する力を身につけるためには、アンテナを全方位に張り巡らせて、とにかく多くの国を訪れて異文化に触れ、交流を重ねながら自分を磨いていくことが必要だと感じていました。だからこそ、長期休暇はすべて国際交流プログラムに参加していました。図らずも、一つひとつの経験が、次の英語学習へのモチベーションにつながっていましたね。

もちろん、「行きたい」という気持ちだけでプログラムに参加することはできません。たとえば、大学2年次に参加したサンフランシスコの交換留学では、英語テストで一定のスコアを取得することが必須条件でした。リスニングやリーディングを集中的に鍛える必要があり、出願までは必死に勉強したことを覚えています。

期限を設定して学習を積み重ねたことが、結果的に英語力の底上げにつながりました。今振り返ると、プログラムへの挑戦そのものが、私にとって英語力を引き上げるサイクルになっていたのだと思います。

また、日本にいるときはスピーキング力を落とさないために、毎日必ず何かしら英語を話すことを自分に課していました。たとえば、家事をしながら独り言のように英語で「今日はこんなことがあった」などと、友達に愚痴をこぼすイメージで話すんです(笑)。1日1分でもいいから、英語を口に出す習慣を続け、スピーキングの感覚を途切れさせないよう意識していました。

大学3年生の2月に参加された内閣府主催「世界青年の船」は、特に印象深かったと伺いました。どんな経験があったのですか?

「世界青年の船」は、18〜30歳の世界11カ国・240人と、約1カ月間ものあいだ船上で生活するという国際交流プログラムです。就活を控えており迷いもあったのですが、何度考えても魅力的な内容で、行かない選択肢はありませんでした。

そこで待っていたのは、“これが世界だ”と実感し、自分のマインドセットが大きく変わる経験でした。

多様なバックグラウンドや価値観を持つ人たちと1カ月過ごしたことで、国境を超えてつながる力強さ、多様性そのものの美しさを肌で感じることができ、かけがえのない財産になりました。洋上では電波が届かないことが多く、スマホもほとんど使えません。だからこそ、参加者同士で交流するしかないんですね。英語を共通言語に、とにかく話して、聞いて、また話す。そのおかげで、スピーキング力はどんどん磨かれていきました。

そうしたなか、ご自身を大きく成長させたのが、「世界青年の船」のプログラムの一環として、あるセミナーを主催したことだったと伺いました。

「世界青年の船」では、環境問題や平和学などをテーマにしたディスカッションや、自国文化を紹介するアクティビティなど、さまざまな活動がありました。その中に、参加者同士が教え合うことを目的とし、参加者自身がセミナーを主催できる機会があったんです。せっかくのチャンスだと考え、思い切って挑戦しました。

セミナーでは、世界の恋愛とジェンダーにまつわる課題についてテーマを設定し、国ごとの文化の違いを話し合えるようにしました。英語でセミナーを行うのは初めてで、準備にはとても苦労しましたが、細かく原稿をつくり込むのではなく、大枠の流れだけを描き、参加者とのディスカッションを中心に据えるかたちで臨みました。背伸びせず、普段から使い慣れた語彙で「どう伝えるか」に集中したんです。迎えた当日、精一杯コミュニケーションを取ることができ、英語でやり切れたという手応えと、テーマに共鳴した参加者たちから次々に意見が生まれたことも確かな自信につながりました。

“世界でも通用する力を身につけたい”と走り続けてきた自分が、その一歩を確かに踏み出せた——そんな実感を得た瞬間でした。

よりよい未来を創るために、“心の奥底にあるニーズ”をとらえる

卒業後は、大手電機メーカーに入社されていますね。どのような仕事を担当されていたのでしょうか。

大学での学びや国際交流プログラムの経験を通じて、「日本の信頼を世界でより高めたい」という思いが芽生えていました。また、もともと「0→1」で新しいものを生み出すことが好きだったこともあり、商品企画やマーケティング部門を持ち、日本品質の製品・サービスを世界へ届けている前職への入社を決めました。

入社後は、海外向け白物家電のマーケティング部に所属し、新しい製品やサービスづくりにも関わりました。自社の海外販売会社との会議やメール、電話はすべて英語で、日々の実務がそのまま英語力の鍛錬の場になり、先輩の英語表現を必死に吸収していました。プライベートでも、海外ドラマを観るなど楽しみながら英語に触れていましたね

入社3年目の2021年に、社内の新規事業でチームリーダーに抜擢されたと伺いました。

実は、先ほどの「世界青年の船」に乗船していたとき、参加者のある女性から、セミナーで扱ったテーマに対して共感と応援の言葉を直接いただいたんです。このことがきっかけになり、いつか世の中の課題解決になるようなアクションを起こしたいと思っていました。その思いを抱いて以来、ジェンダーにまつわる女性の課題解決につながるアイデアをずっと温めていたんです。

そんななか社内の新規事業にご縁をいただき、そのアイデアの商品化に挑戦することになりました。私はチームリーダーとして、世界各国の男女約70人にヒアリングを行い、ユーザーのリアルな声を起点に開発を進めていきました。

しかし、所属部門の方針転換により、商品の販売を目前にプロジェクトは中止になってしまったそうですね。

プロジェクトの中止は大きな心残りでしたが、一方で「ユーザーの“心の奥底にあるニーズ”をとらえる力が自分にはまだ足りていない」という現実にも気づかされました。だからこそ、ユーザーを深く理解し、寄り添いながら事業を創るための「デザイン思考」をもっと磨きたいと思うようになったんです。それが、現職のbtrax Japanへの転職を決めた理由でもあります。

ユーザーが抱えるさまざまな課題を解決し、人々や社会がよりよい未来へ進んでいくための事業を創りたい——その思いは、この経験を通じて一層明確になりました。自分が手がけたデザインで世界中の人々の力を引き出し、夢や希望を与えること。それが私の新たな夢であり、目標になりました。

AIが進化しても、信頼を生み出すのは人の言葉

前田 瑞歩さん

現在のお仕事内容をお聞かせください。

btraxは、サンフランシスコと日本に拠点を置くデザインコンサルティングファームで、主にブランディングやサービスデザイン(開発)、デザイン教育などを展開しています。私はサービスデザイナーとして日米を行き来しながら、企業の新規事業開発の伴走支援やデザイン思考研修のファシリテーターを務めています。

最近は、新規事業開発のユーザーインタビューの現場でもAIツールが広がっており、コミュニケーションのかたちそのものも変化しつつあります。こうした変化をどのように感じていますか。

AIがどれだけ進化しても、最終的に信頼を生み出すのは人の言葉だと思っています。AIの登場でさまざまな仕事が変わりつつあり、ユーザーインタビューのように、想定ユーザーと直接向き合って意見や経験を聞く領域も例外ではありません。AIが情報を効率的に集めたり分析したりする役割は確実に増えていくと思います。

でも、信頼関係を築く必要がある場で、ずっとAIを通して相手とやり取りするのは、やはり違和感がありますよね。

仕事だけに限りません。AIがあれば、英語で「聞く」「読む」「話す」「書く」ことはある程度可能です。でも、それだけで親友や恋人ができたり、支え合えるビジネスパートナーが生まれたり、相手の心の奥に触れるような深い関係を築けたりするかというと、やはり違う。英語を学ぶことは、世界中の人々とつながり、信頼し合うための土台を築く行為でもあると思います。

最後に、英語学習に励む人たちにメッセージをお願いします。

英語力が高まると、できることの幅が確実に広がります。キャリアの選択肢が増えるだけでなく、英語が使えることで頼られる場面も自然と増えていきます。特に日本では、「スピーキング」「ライティング」といったアウトプットが得意な人がまだ少ない分、そこを磨くことは大きな強みになると思います。

また、「リスニング」「リーディング」「スピーキング」「ライティング」は、すべて連動して伸びていくというのが、私の実感です。

自分の英語学習を振り返ると、ライティングの経験を重ねていくうちに、だんだんとスピーキング力も高まっていきました。

リスニングとリーディングで固めた基礎力の上に、ライティングを積み重ね、文法の癖や曖昧だった表現を少しずつ修正していくと、それがスピーキングにも確実に反映されていきます。口頭では難しい構文までは使いこなせなくても、自然に表現の幅が広がっていくんです。

英語学習は地道な積み重ねの連続ですが、その努力は確実に成果になって返ってきます。

英語を学び、海外へと視野を広げることは、スキルやキャリアだけでなく、自分の世界を広げ、生き方そのものを変えてくれる力になります。私自身も、海外での経験を重ねるなかで今の夢が生まれ、人生の指針が定まっていきました。英語を学ぶ過程で得られる変化や出会いが、未来を開いてくれるはずです。

前田 瑞歩(まえだ・みずほ)さん

1996年、福岡県生まれ。2015年、関西学院大学国際学部に入学し、在学中は計6回の国際交流プログラムに参加。2019年に大手電機メーカーに入社。翌年には、大企業の若手・中堅有志団体「ONE JAPAN」による挑戦者支援プログラム「CHANGE by ONE JAPAN」や、経済産業省・JETRO主催の次世代イノベーター育成プログラム「始動 Next Innovator」に参加。その後、社内起業家として性被害の課題解決に取り組む事業を推進。2023年にデザインコンサルティングファーム btrax Japanへ転職し、現在に至る。

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