Step by Step [Basic] Chapter5
グローバルリーダー育成プログラムを企画する Part1

いよいよグローバルリーダー育成プログラムを組み立てるフェーズに入る。育成プログラムは、自社で求められるグローバルリーダーの能力要件を満たす人材を、定められた期限までに必要数育成するための重要な手段で、その企画設計は人材育成担当者の専門知識をフルに活かす活動だ。今回および次回は、その実践の手順とポイントを具体的に押さえていこう。

Q:グローバルリーダー育成プログラムを企画設計する際、まず、どのような手順を踏めばよいのか?

A:始めにプログラム実施の目的と焦点を定め、ステークホルダー(関係者)のニーズを元に、プログラムに求められる学習ゴールを明確にする。

(1)プログラムの企画、実施を効果的、効率的に行う手法:ADDIEモデル

まずは、プログラム企画の全体像をつかむためグローバル人材育成の現場で広く用いられている「ADDIEモデル」を紹介しておこう。ADDIEとは、「分析(Analysis) → 設計(Design) → 開発(Develop) → 実施(Implement) → 評価(Evaluation)」の英語の頭文字を取ったもので、プログラムの企画、実施を効果的かつ効率的に行うための一連の手順を示している。いわば、プログラムの企画、実施のPDCAサイクルだ。

【ADDIEモデルの内容】[*1]

ADDIEモデル

各フェーズの目的は次の通りである。

フェーズ 目的
A:分析 学習ニーズ、学習目的を元に学習ゴールを設ける
D:設計 学習ゴール達成のための学習内容と手法を明確にする
D:開発 学習ゴール達成を促す教材、ツールを準備する
I:実施 学習活動を対象者に提供する
E:評価 学習効果を測り、改善の方向性を考察する
R:改定 学習効果向上に向けて学習活動の改善を行う

今回および次回で説明する「グローバルリーダー育成プログラムの企画」の手順は、ADDIEモデルのAフェーズ(分析)、Dフェーズ(設計)に当たる。グローバルリーダー育成プログラムの企画において、この2つのフェーズを確実に行うと、「対象者のどのような能力をどのレベルまで伸ばすのか」について焦点が定まり、目標達成に必要な学習内容や手法を絞り込める。あれこれ盛り込んで総花的で焦点の定まらないプログラムや、対象者のレベルとずれのあるプログラムになることが避けられ、限られた時間、予算、人員の中で最大の効果を上げるプログラムを企画設計できる。

今回は、主にAフェーズ(分析)について説明する。このフェーズでは、①プログラムに対するニーズを整理し、それを元に、②プログラムで達成したい学習ゴールを設ける。

(2)グローバルリーダー育成プログラムのニーズをつかむ

グローバルリーダー育成プログラムを企画するには、まず自社のグローバルリーダー育成に対するステークホルダー(関係者)のニーズをつかむ必要がある。すでにお気づきの方もおられると思うが、実はこれはChapter 1~3で説明してきたニーズ分析に当たる。

具体的には、組織のニーズとして、育成期限、必要な人数、求められる役割・成果・能力など、自社のグローバルリーダー育成の方向性や成果を、経営層・海外事業部門の責任者・海外拠点リーダーたちの現状の問題意識や期待を元に特定する。

一方、社員個人のニーズについては、自社のグローバルリーダーポジションに求められる「期待役割」「期待成果」「能力要件」と、社員の現状とのギャップに焦点を当て、その解消に向けた社員の能力開発ニーズを把握する。この能力開発ニーズに関しては、対象者に育成責任を持つ上司を通じて収集することができるだろう。詳細はChapter1~3を再読されたい。

組織と社員個人のニーズがつかめたら、組織として優先的に取り組むグローバルリーダー育成の重要課題は何か、整理する。

例えば、生産拠点の拡大だけでなく、これから本格的にグローバル市場開拓に取り組む日本企業A社を想定して、グローバルリーダーの育成課題を整理してみよう。

【A社のケース】

A社は、5年後に海外売上高比率を5割にする経営計画を立て、多くのグローバル企業がしのぎを削るアジア地域への進出を加速している。海外事業を拡げるにあたり、自社のリーダーを「世界で通用するグローバルリーダー」に育てることを目指している。具体的な人物像は「グローバル規模で経営視点を持ち、自社の理念や提供価値を、海外の市場・顧客・社員に伝え、多様な人材を活かして自社の提供価値を高められる人材」だ。計画では、今後3年で100名の人材プールを作り、海外拠点の幹部として順次登用していく。

一方で、育成対象となるグローバルリーダー候補は課長クラスで、日本以外でのマネジメントはほぼ未経験だ。また、大半は日本で生まれ育ち、海外転勤を考えたことがほとんどなく、海外留学や外国人との仕事の経験も少ない。

このような場合、A社のグローバルリーダー候補の育成課題は、海外拠点の事業責任者として、次のような能力や意識を高めることが考えられるだろう。

【育成課題の例】

  • 自社の海外拠点責任者としての自己のアイデンティティの確立
  • 経営戦略を構築し、実行するために求められる経営能力の強化
  • 多様な人材から成るチームでリーダーシップを発揮するための、他者への影響力の強化
  • 海外で自社の理念・提供価値と自身の考えを伝えるための異文化コミュニケーション力の向上
  • 現地で組織マネジメントを行うためのグローバル人材マネジメント力の形成

注意したいのは、これらのニーズはグローバルリーダー育成プログラムだけでは解決できないということだ。教育研修では「できること」「できないこと」がある。異文化コミュニケーション力を、ローカル社員と共に現地で市場開拓するレベルにまで引き上げるには、語学や各国事情に関する研修だけでなく、人事異動で実際に海外拠点や国内の海外プロジェクトの経験をしてもらったり、現地法人トップ経験者の社内メンターをつけること等が効果的[*2]だろう。既存の社員だけで間に合わなければ、採用の人材要件を見直したり、求められるレベルの異文化コミュニケーション力を持つ人材を中途採用したりすることも必要になるかもしれない。

(3)グローバルリーダー育成プログラムの学習ゴールを設定する

求められるニーズのうち教育研修で「できること」を特定した上で、グローバルリーダー育成プログラムの学習ゴールを設定する。学習ゴールとは、「プログラムを通じて対象者が目指す学習の到達点(学習上の達成要件および達成の基準)」だ。

学習ゴールを設けるメリットは、目指す到達点が明確なのでプログラムの焦点がぶれないこと。さらに、学習ゴールと対象者の現状の能力・意識レベルのギャップを明らかにすることで、ゴールへ到達するための学習内容、対象範囲、レベルが明らかになり、個別の研修で何を目指し、何をやればよいのかが決めやすくなる。また、経営層、対象者、上司など関係者と学習ゴールを合意しておけば、プログラムに対する期待内容や期待値がずれることも避けられる。

例えばA社では、グローバルリーダー育成プログラムを通じて、次のような学習ゴールが設定できるだろう。

【学習ゴールの例】
対象者が、海外拠点の責任者候補として;

  • 経営理念や事業戦略に基づいて、経営判断し、ビジョンを構築できるようになる
  • 多様性を活かす組織マネジメントに向けて、多様性を受け容れ活用することの有用性を認識できるようになる
  • グローバルにおけるコミュニケーションとマネジメントの実践に必要な考え方を把握し、それに基づいた自身の判断・行動を想定できる

なお学習ゴールは、対象者が達成する要件と基準を具体的に表現して達成度が測れるようにし、測定方法も決めておく。そのため対象者に求めることを、次のような表現のいずれかで示しておきたい。

  • 求める行動のかたち(例:「~できるようになる」「~を認識、想定できる」)
  • 求める行動を評価する基準(例:「独力で~する」「○ヶ月以内に~する」)
  • 学習ゴールに対する合格基準(例:「理解度テストで○点以上を取る」「周囲からの評価で○ポイント以上を得る」)

研修会社が提案する研修パッケージをそのまま導入する企業もあるかと思うが、それぞれの企業に個別の事情がある以上、画一的な内容をそのまま取り入れても、想定した研修成果を挙げることは難しい。だからこそ、組織の育成方針や現状の実態を踏まえて、自社のグローバルリーダーの育成課題を特定し、プログラム実施の目的と学習ゴールを明確にしておきたい。そうすれば、研修会社に依頼する場合でも、プログラム実施の目的、焦点を双方で共有でき、プログラム内容の検討を的確かつ効率的に進めることができる。

今回のポイント

  • プログラムの企画、実施を効果的、効率的に行うには、「分析→設計→開発→実施→評価」という一連の手順を踏む
  • グローバルリーダー育成プログラムを企画するにあたっては、組織のグローバルリーダー育成方針と対象者個人の能力開発の両方の視点から、プログラムに対するニーズをつかむ
  • 学習ゴールは、対象者がプログラムを通じて達成する要件と基準を、具体的かつ達成度が測りやすいように明示する

次のChapterでは、グローバルリーダー育成プログラムの内容と手法について、設計の手順とポイントを紹介する。


*1:ADDIEモデル

出所:『企業内人材育成入門』中原淳編著 ダイヤモンド社、『教材設計マニュアル』鈴木克明著 北大路書房をもとにエレクセ・パートナーズが作成

*2:70/20/10の法則

国内外の人材育成の分野で広く知られている、米国のリーダーシップ研究の調査機関であるロミンガー社による「70/20/10の法則」という考え方がある。同社の調査によれば、経営幹部が「成長に役立った」と思う出来事は、「70%が経験、20%が周囲の人から受けた助言や薫陶(くんとう)、10%が教育研修」。つまり、70%を占める職務経験は、重要なリーダー育成の機会ということになる(Lombardo, Michael M; Eichinger, Robert W(1996). The Career Architect Development Planner(1st ed.). Minneapolis:Lominger. p. iv)。

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