ブリット・アンドレアッタ博士のブログから

Blog Post 9
強いチームを作る

「チーム(TEAM)という言葉の綴りに、私(I)の字はない」
―  バーン・ロー(野球選手、1960年)

私たちのほとんどは、このような言葉を一度は聞いたことがあるでしょう。私は間違いなくあります。実際のところ、この標語は、かつて私が勤務した全ての職場で、私のデスクに飾ってありました。しかし何と、これは間違いだったのです。私がチームと脳科学の関係を調べ始めた時には、これほどにも象徴的な信念を疑うことになろうとは思っていませんでした。しかし、組織の力を最大限に引き出すことについて脳科学の観点から考えると、新たに驚くような方向が見えてくるのです。

最良のチーム、すなわち最高のパフォーマンスを上げるチームは、各メンバーの固有の貢献を尊びます。そしてそれぞれが個人としてチームに受け入れられ、重んじられていると感じられるようにすることで、まとまりのある一団が出来上がります。結局、チーム(TEAM)にとって個人(I)は不可欠です。実のところ、沢山の「私」が存在するのです。どんなチームも、個人が独自のものの見方やスキルセットや経験を持ち寄って出来上がっています。チームにとって重要なのは、そうした各個人が持ち寄る才能を生かす環境を整えるだけでなく、メンバーが最高の仕事をするために安全を感じられるようにすることです。これが上手くできれば、メンバーはチームの一員であるという気持ちになり、パフォーマンスの頂点に達することができるでしょう。そうでないチームとの違いは、神経学的にも明らかです。

私たちは生物学的に他者とつながるように出来ていますが、職場で最上のパフォーマンスを上げるには欠かせない条件があります。脳科学における近年の発見別ウィンドウで開く/Open the link in a new window は、最高のパフォーマンスを上げるチームと他のチームを分かつ要素を明らかにしています。そして、脳生物学は普遍的なものですから、こうした発見は人種や国籍だけでなく、世代や性別をも超えて、あてはまるものなのです。

2019 Global Human Capital Trends のレポートによれば、同年の回答者の80%がチームとして活動し、23%がほとんどの仕事を階層的な構造を持つチームの中で行っていると回答しています。この調査では、チームをベースとした組織モデルにシフトすることがパフォーマンスの改善につながり、多くの場合それは著しい改善となることを示しています。

脳科学の知見を活用し、チームが高い成果を上げるようにするには、以下の三つのステップを使いましょう。これらの洞察は、どのような産業でも応用可能で、より優れた、より生産的なチームを着実に築く手助けとなります。

1. リーダーを手助けして、早い時期に行動規範を確立し、軌道を定められるようにしましょう

研究によれば、チームはパフォーマンスの頂点に至るまでの間、幾つかの成長のステージを経ることがわかっています。そして、二つの道のうちどちらに進むかを決める重大な分岐点があることが明らかになっています:その二つの道とは、良い行動規範(相手の尊重、安全、信頼)と、悪い行動規範(競争、無関心、有害な対立関係)です。チームとしての最初の何度かのミーティングや初期の行動が行動規範を作り出すため、チームリーダー達は、チームがどちらの道に進むのかを決める重大な役割を担います。これは究極的には、チームのパフォーマンスが高い軌道を描くのか、それとも、らせんを降下するように機能不全や学習性無力感(編者注:長期にわたりストレスが回避困難な環境に置かれた人や動物は、その状況から逃れようとする努力すら行わなくなること)に至るかの、どちらかを決めることになります。

2. 三種類のチームワークと、各レベルにおいてチームを成功に導く方法を理解しましょう

チームというものは毎日、三種類のチームワークの範疇で活動することを求められます。連係、協力、そして協業です。しかしながら多くの場合、人はこの三つの違いを理解しておらず、それぞれについて成果を上げるために必要なスキルを持っていません。それぞれの定義と違いについて見てみましょう。

連係(coordination)は、「別個の」行動を調整したり同期させたりするために、個人や集団により編成された取り組みです。彼らは互いの明確な目標に向けて、関連する情報や資源を交換します。言い換えれば、人は別個の取り組み(例えば、IT部門がコンピュータをアップグレードする、または設備部門が社員のデスクを交換する、など)を「連係」する(調整する、または同期する)ことで効率性を向上させますが、それぞれ独立は保っています。

協力(cooperation)は、合意された「共通のプロセスやタスク」のうち決められた部分を達成するために、複数の人間からなる集団が行う協調的な取り組みです。彼らは、共通の目的を達成するために相互に依存しています。人は共有するタスクのうち自分の役割を果たすために、計画的に「協力」します。例えば、IT部門は、新しいコンピュータを購入し配置するために、財務部門や配送部門と協力します。

そしてチームワークの最後の種類、協業(collaboration)は、今日における組織の成功には欠かせないものですが、最も理解されていないものといえます。私は世界中の企業と一緒に仕事をする中で「協業」という言葉をよく聞きますが、彼らは往々にして協力(cooperation)または連係(coordination)を指しています。

協業(collaboration)は、「共有する目標やビジョン」を達成するための共創的な取り組みにおいて、複数の人間からなる集団が共同で行う仕事です。彼らは相互に依存しており、それぞれの固有の貢献が全体のために欠かせないものです。人は創造的活動のために「協業」し、その結果は全ての貢献者のインプットによって変化します。例としては、複数の人間や部門が共同して組織文化を変えようとすることが挙げられます。

これらは三つの異なるタイプの仕事というよりは、協業(collaboration)が協力(cooperation)と連係(coordination)を包含する傘であることに私は気づきました。チームは、日常的には一つか二つの(限定された)領域で仕事をすることが多いかもしれません。しかし、多くのレベル間をシームレスに動き回ることがチームには益々求められています。これは、チームが目標や意図やスキルセットを何度も切り替えなければならないことを意味しています。そしてそれは、毎日のスケジュールの中で仕事が混ざり合う状況では難しい場合があります。例えば、朝の9時には別の部門と連係(coordinate)するためのミーティングがあり、その後すぐに別のミーティングでさらに二つの別の部門と協力(cooperate)する、そしてまさに協業(collaboration)を行うプロジェクトのセッションに参加する、といったことがありうるでしょう。

最も成果を出す組織は、チームワークに求められているレベルをチームのメンバーに理解させ、最高のパフォーマンスを上げられるように研修を施すものなのです。

3. チームリーダー達に、心理的安全、相互信頼、インクルージョンの風土を作り出す方法を教えましょう

数多くの研究から、高い成果を上げるチームにとって心理的安全は決定的な差別化要因であることがわかっています。

往々にして、ある集団(さらにはそれを含むより大きな組織)の成否は、メンバーがものを言える環境があるかどうかにかかっています。その集団や組織の成功にとっての潜在的な脅威を、個人が指摘できることが大切なのです。事実、Amy Edmondsonの研究別ウィンドウで開く/Open the link in a new windowにより、最高のパフォーマンスを上げるチームは、失敗を最もよく報告したチームでもあることがわかっています。一見矛盾しているようにも思えますが、実はこれは、健康的なチームの特徴なのです。

自分の誤りについて口にしても安全でいられると思える状態は、説明責任を果たせている状態でもあります。そして、集団全体がその経験から学ぶことができ、チームの成功にもつながるのです。加えて、誤りは認識されさえすれば、それに対応し修正することができます。誤りが無視されて、より大きな問題となるまで悪化するのとどちらが良いでしょうか。

しかしながら、現実には多くの人が、恥ずかしい思いをしたり、拒絶されたり、罰せられたりすることを恐れて静かにしています。最近の新聞の記事を見返してみれば、誰かが黙っていたことでひどい結果になったり、時には致命的な結末に至ったりする場合があることがわかるでしょう。このことから、どんなチームにとっても心理的安全は特に重要なのです。不可欠と言ってもよいでしょう。チームが高度な不確実性の中で仕事をしていて、メンバーが相互依存関係にある場合にはひときわ重要です。

疎外されることがこんなにも心地良くないことである理由についての新たな解釈

この問題は、相互信頼とインクルージョンの土台となるものです。人が疎外される経験をした時に、脳は肉体的苦痛と同様の苦痛を受けているのをご存知ですか?この発見は当初科学者達にショックを与えましたが、繰り返しの実験を経ても同様の結果が得られています。パデュー大学の心理学者であるKipling Williams博士が言うように、「疎外されることは苦痛を伴います。なぜなら、相互信頼や自己肯定感といった、人間の基本的な欲求が脅かされるからです。短い時間、見知らぬ人から疎外される経験をしただけでも、強くて有害な反応が生じる場合がある。」ことが、多くの研究からわかっています。例えば、彼がUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のNaomi Eisenberg博士と共に行った研究では、人の脳は、社会的拒絶を受けた時、肉体的苦痛を受けた時と同じ部分(島皮質と前帯状皮質背側部)が活性化することを発見しています。彼らはfMRIの機器を使い、被験者にcyberballというオンラインのキャッチボールゲームを他の二人のプレイヤーとさせることによって、軽度の拒絶体験を作り出しました。その二人のプレイヤーはやがて、被験者を除外してゲームを続けたのです。除外された人物からは痛みを処理する中枢が活性化する反応が現れました。これにより、疎外されることがなぜこんなにも私たちを心地良くない状態にさせるのかがわかったのです。

チームのうち一人でも疎外されたり不安を感じていると、チームは力を最大限に発揮したり、最高のパフォーマンスを上げることができなくなります。チームのメンバーもリーダーも、心理的安全とインクルージョンの文化を作り、維持する方法を理解する必要があります。

この記事は、Britt Andreatta博士のブログに2019年9月26日に掲載されたものです。原文(英語)はこちら別ウィンドウで開く/Open the link in a new windowからご覧いただけます。


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