ブリット・アンドレアッタ博士のブログから

Blog Post 13
「大退職時代」を考える (1)大量自主退職の現状

2021年の暮れに差し掛かり、米国では「大退職」という言葉が新聞の見出しに踊り、さまざまな分野の組織に影響を与えています。これは一過性の現象ではなく、従業員と組織との関係に明確な変化が起きている表れです。なぜこのような現象が起きているのか、そしてそれが今日と未来の働き方にとって何を意味するのかをより包括的に理解するために、ここではさまざまな研究成果を紹介します。

私たちが見ているものは、見かけ以上に複雑で、潜在的に深刻なものです。「大退職時代」は、今日のビジネスリーダーへの警鐘であり、もし彼らがこれを聞き入れて迅速に行動しなければ、これは大反乱に変容する可能性があります。すでにそうなっているのです。

変革のためのストライキ

2021年の10月に入ると、米国では製造業から医療、メディアまで、さまざまな業界で労働者のストライキが行われました。現在の労働力不足は、従業員のパワーバランスを崩しており、従業員もそれをよく理解しています。一方、彼らは絵に描いた餅のような要求をしているわけではありません。ストライキに参加する労働者が求めているのは、以下のようなごく基本的な、安全な状況なのです。

  • 住居と食料を確保できる生活賃金
    最低賃金を得ているフルタイム労働者が一部屋を借りる賃料を払えるのは、全米にある全ての郡のうちわずか7%であることをご存知でしょうか。

  • 致命的なウイルスに感染したり、乱暴な客に襲われたり、長時間のシフトで疲労困憊して怪我をしたりしないような、身体的に安全な労働環境
    米国の労働者が仕事中に負傷するのは7秒に1回に及び、これは1日あたり12,000人以上、年間では450万人にのぼります。2019年には、予防可能な労働災害が原因で4,572人のアメリカ人が死亡しています。

  • 全うに仕事をするために必要な環境や資源
    例えば、教師は生徒の数に対する教師の数の比率を上げるよう求め、看護師は患者の数に対する看護師の数の比率を上げるよう求めています。多くの職場では予算が削減され、社員が自分のお金を使わざるを得なくなったり、とっくにいなくなってしまった同僚何人分もの仕事量をこなさざるを得ない場合もあります。

ワシントンポスト紙は以下のように伝えています。「経済学者によると、低賃金労働者は、長年にわたる低賃金とストレスの多い状況に反旗を翻しているとみられている。」と。

ストライキ参加者の多くは、パンデミック時に経済と組織を維持するために危険な状況で長時間働き、犠牲を払った後に裏切られたと感じているエッセンシャルワーカー達です。しかし今、彼らは経営者や株主が利益を得るのを目の当たりにしています。ある大手製造業で最近起きたストライキはその一例です。その会社は過去最高レベルの利益を上げましたが、労働者の昇給は5%にとどまった一方で、CEOは160%の昇給を受け、年俸は1,560万ドルにも達したのです。

経営者と労働者の間の不平等が拡大していることは、きわめて重大な問題です。MITで職業や雇用の問題を研究するトTom Kochran氏によれば、米国で増え続ける10億ドル以上の資産を持つ億万長者(現在724人)の純資産総額は、全アメリカ人の下位50%の合計額を上回っているといいます。フォーブス誌は、以下のように伝えています。「パンデミックにもかかわらず、世界の富裕層にとって記録的な良い年となった。彼らにとって5兆ドルの富の増加があり、前例のない数の新しい億万長者が誕生した。」

2021年12月現在、上位6人の億万長者は、Elon Musk氏(2,510億ドル)、Jeff Bezos氏(1,950億ドル)、Bernard Arnault氏(1,630億ドル)、Bill Gates氏(1,350億ドル)、Larry Page氏(1,280億ドル)、Mark Zuckerberg氏(1,240億ドル)です。彼らの多くは、危険な環境、非倫理的な行動、給与の減額など、従業員からの継続的な批判に直面しています。

記録的な数の退職者

ストライキを起こせない労働者の中から、記録的な人数が退職を余儀なくされています。組織心理学者のAnthony Klotz氏はこれを「大退職時代」と名付け、退職者は過去20年間で最高レベルに達しています。この10月には420万人が退職し、7カ月連続で退職者数が過去最高となりました。これは10月だけで労働人口の3%近くを占め、4月以降で見ると、合わせて2,800万人近くが辞めていることになります。調査によると、労働者の40~95%が現在転職を考えており、最も多いのは30~45歳の中堅社員です。

どのような人が辞めていくのでしょうか?ハーバード大学の研究によると以下の通りです。「パンデミックにより需要が極端に増加した分野で働く従業員の退職率が高く、仕事量の増加や燃え尽き症候群につながったと考えられる。」

ホテル・レストラン業界の離職率は6.8%で、全業界の平均の2倍以上です。数にして89万2千人の従業員が退職したことになり、あらゆる地域で大小の企業に影響を及ぼしています。今日、これらの労働者は、マスクやワクチンの義務付けに怒る宿泊客に対応するため、虐待行為の矢面に立たされる可能性が高くなっています。

医療従事者が大量に離職しているのも当然のことです。彼らは何ヶ月も命を守るために戦い、肉体的にも精神的にも疲れているのです。患者のことを大切に思うほど、彼らは高い死亡率に心理的に耐えられなくなります。

在宅勤務が可能なホワイトカラーでさえ、退職しています。Business Insider誌は以下のように伝えています。「特に技術職と医療職の人たちの退職率は高い。それは給料の額の問題だけではなく、職場で評価されていないと感じているからである。」

技術職に就く人達は、ロックダウンの間、全従業員が仕事を続けられるようにコミュニケーションとコラボレーションのためのオンラインツールを整備する仕事を背負いました。未来学者であるAmy Webb氏は、「2020年には数ヶ月の間に10年分のデジタル変革が起きた」と述べています。また、特に技術系の社員は、社員食堂や運動場、託児所など、オフィスで提供されていた多くのメリットを失いました。

女性も記録的な数の退職をし、その多くはパンデミックの初期に育児や学校閉鎖に対応するために退職しました。現在では学校も再開し、一息ついていますが、彼女たちは疲れ切っており、女性の退職率は男性の退職率を上回り続けています。

「大退職時代」は役員室にも影響を及ぼしています。24カ国の1100社近くを対象にした調査では、2021年上半期に新たに最高経営責任者が103人就任し、この数はそれまでの半年間と比べると2倍以上になっています。

(次回は、「大退職時代」の主要因である「燃え尽き症候群」について取り上げます。)

この記事は、Britt Andreatta博士のブログに2021年12月15日に掲載されたものです。原文(英語)はこちら別ウィンドウで開く/Open the link in a new windowからご覧いただけます。

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