ブリット・アンドレアッタ博士のブログから

Blog Post 16
「大退職時代」を考える (4)見直される「安全」と、新たな時代への転換

安全が最優先事項に

在宅勤務は、独自の時代性をもたらしました。これまで通勤や、職場にふさわしい服装をするために、いかに時間を費やしていたかを、人々は認識するようになりました。その代わりに、自分の好きなインテリア、好きな食べ物、好きなペットに囲まれて毎日を過ごすようになったのです。無機質な職場とは対照的です。

ここ数十年の間に、私たちは職場から人間らしさを少しずつ奪ってきました。自分たちの空間をつくることができたオフィスから、個人的な触れ合いが極めて制限されるキュービクル* 1  へ。そして空いている席を使い、個人的なものをまったく持つことができないフリー机のスタイルへと、職場環境は変化していきました。このような動きは組織の経費を節約することはできても、コラボレーションを促進することはできず、自分の職場に心をこめる余地を少なくしてしまいました。

多くのハイテク企業ではポジティブな職場文化を伝えるために、無料の食事や楽しげな什器などで従業員を魅了してきました。しかし、ロックダウンによって職場へのアクセスが遮断されると、社員にはラップトップパソコンと、より大きな負荷が残されました。

多くの人にとって、オフィスへのアクセスを失うことが本当は損失ではなく、その代わりに、好きなものに囲まれているときに自分がどれだけ幸せで生産的であるかに気付くきっかけとなりました。そして、人々が得たのは幸せだけではありません。安心感も得ることができたのです。すべてのコミュニケーションがミーティングという形で計画的に行われ、モニターの中に小型化されたことで、人々は仕事中に影響を与えるあらゆるネガティブな交流から解放されました。

同僚からの無神経な発言、不適切な接触、上司による自覚なき差別などから守られたのです。『New York Times』紙の記事でEmma Goldberg記者は、あるアフリカ系アメリカ人女性が職場で執拗な自覚なき差別に直面したために仕事を辞めた事例を書いています。女性や有色人種が記録的な数の離職をしていることは、驚くことではありません。

75%の労働者が、目撃者として、あるいは被害者として、職場いじめを経験していることをご存知でしょうか?* 2 職場でのいじめは、定期的に繰り返され、継続的に行われ、攻撃性が増してエスカレートすることを特徴とする虐待的行為と定義されています。職場でのいじめは、セクシャルハラスメントや人種差別の4倍もの頻度で発生していると言われています。しかし、従業員はそれらからも解放されました。

離職理由の第1位は「燃え尽き症候群」(40%)ですが、第3位は「差別」(20%)でした(第2位は「組織の変化」(34%)でした)。パンデミックが進むにつれ、人々はビデオ会議で自分の声が聞かれない(無視される)ことが多い(48%)、同僚の声が聞かれない(無視される)ことが多い(57%)などといったことに気づき始めました。

これらのことが相まって、ジョージ・フロイド氏の殺害* 3 は、数ヶ月にわたって世界的な抗議を呼び起こすことになりました。この恐ろしい9分29秒は、制度的抑圧、特権、自覚なき差別といった重要な問題についての継続的な議論を誘発したのです。労働者たちは自分たちのリーダーに対し、聞き取り調査を行い、政策に物申し、州や国の問題にまで踏み込むことを強く要求したのでした。ある人は組織の価値観と自分の価値観が一致することを発見し、またある人はより安全だと感じられる別の組織に移る必要があることに気づきました。

米国人材派遣協会の最近の調査によると、ヒスパニック系/ラテン系アメリカ人の64%、黒人/アフリカ系アメリカ人の49%が今後1年以内に新しい仕事を探す予定であり、その割合は白人の34%よりはるかに高いことが分かっています。

政治的分裂や気候変動も、退職者の増加に一役買っています。選挙結果からマスクの義務付け、ワクチンの問題まで、あらゆることについて分裂的なメッセージが溢れかえっています。ソーシャルメディア上のメッセージは、怒りや憤りといった強い感情を引き出すように作られており、人々がただでさえエネルギーを削がれている中、メディアによっても疲弊させられているのです。

そして、毎晩のように流れる気候危機の映像も、さらに不安を募らせました。竜巻、洪水、ハリケーン、火災、北極や南極上の気流の渦などにより、世界のあらゆる地域で、人々が生き延びるために必死になっているのです。気候変動により引き起こされる金融危機は、パンデミックによって引き起こされる金融危機の2倍以上の規模になるとも推定されています。

転換点への到達

要するに、人々は疲れ果て、燃え尽き、おびえ、そして自分と家族のためによりよい生活を築こうとしているのです。「大退職時代」を、在宅勤務の是非を巡る一時的な現象として軽視してしまうと、より大きな現実を見誤ります。人々は転換期を迎え、異なる未来を望んでいるのです。

『Inc. 』誌* 4 の記事で、コラムニストのJessica Stillman氏は次のように述べています。「労働者は単に給料が上がること、休みが増えること、家にいる日数が増えることを求めているのではありません(短期的には確かにそういうことが助けになるのでしょうが)。彼らは実のところ、日々の労働の意味を問うているのです。なぜ、私たちはこれほどまでにキャリアに打ち込むのだろうか?そして、そのストレスと心労の見返りとして、雇用主から公正な処遇を受けているのだろうか?従業員を引き留めるのは、単にスケジュールを組むためだけではありません。それは、彼らの仕事に意味があること、そして会社が人間として彼らを真に大切にしていると示すことなのです」。

パンデミックは私たちを永遠に変えてしまい、"以前の時代 "に戻ることは不可能です。この24ヶ月は、私たちの価値観を明確にし、人々が求めるものを様変わりさせました。成功する企業は、この時点から前進し、パンデミックが始まる前には考えられなかったような、新しい仕事の未来を作り上げていくことでしょう。


*1  オフィス内の座席を、間仕切りを用いて半個室のように区切ったもの。
*2  「職場におけるいじめと心理的安全性」については、Blog Post 10でも取り上げています。
*3  2020年5月に、米国ミネアポリス近郊で、警察官の不適切な拘束方法によってアフリカ系アメリカ人(George Floyd氏)が殺害された事件。
*4  北米で発行されている事業主・中小企業向けの月刊誌。

この記事は、Britt Andreatta博士のブログに2021年12月16日に掲載されたものです。原文(英語)はこちら別ウィンドウで開く/Open the link in a new windowからご覧いただけます。

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