Step by Step [Basic] Chapter6
グローバルリーダー育成プログラムを企画する Part2

グローバルリーダー育成プログラムを組み立てるにあたり、前回はステークホルダー(関係者)のニーズ分析を元に、プログラムの目的と焦点を「学習ゴール(プログラムを通じて参加者が目指す学習の到達点)」として表すことを学んだ。今回は、学習ゴールを達成するための学習内容を設計する手順とポイントを紹介していこう。

Q:グローバルリーダー育成プログラムの学習内容を設計する際は、どのような手順を踏めばよいのか?

A:学習ゴールの達成に向けて、(1)プログラムに盛り込む学習要素を洗い出し、(2)学習の焦点や優先度に合わせて学習要素を絞り込んで、プログラムの全体像を描き、(3)具体的なプログラム内容を組み立てる。

(1)プログラムに盛り込む要素を洗い出す

今回説明する手順は、ADDIEモデル [*1]のDフェーズ(Design:設計)に当たる。学習内容の設計で念頭に置くのは「学習ゴールを達成するために必要な学習要素(プログラムの中に盛り込む要素)は何か?」ということだ。

前回と同様、本格的にグローバル市場開拓に取り組む日本企業A社の事例を使って、プログラムに盛り込む学習要素を考えてみよう。

A社は、5年後に海外売上高比率を5割にする経営計画を立て、組織の成果として今後3年で100名のグローバルリーダーの人材プールを作り、海外拠点の幹部として順次登用していくことを目指している。

まずは、学習ゴールを確認しよう。前回、A社はグローバルリーダー育成プログラムの学習ゴールを次のように設けた。

【学習ゴールの例】
対象者が、海外拠点の責任者候補として;

  • 経営理念や事業戦略に基づいて、経営判断し、ビジョンを構築できるようになる
  • 多様性を活かす組織マネジメントに向けて、多様性を受け容れ活用することの有用性を認識できるようになる
  • グローバルにおけるコミュニケーションとマネジメントの実践に必要な考え方を把握し、それに基づいた自身の判断・行動を想定できる

これらの学習ゴールを効果的に達成するために、プログラムの参加者は何を理解し体得すればよいのか、学習要素を洗い出してみよう。

学習ゴール(例) 学習要素(例)
経営理念や事業戦略に基づいて、経営判断し、ビジョンを構築できるようになる
  • 自社の経営理念の理解、実践
  • 自社のグローバル戦略の理解
  • 経営、マーケティング、財務知識の理解
  • 経営判断力の向上
多様性を活かす組織マネジメントに向けて、多様性を受け容れ活用することの有用性を認識できるようになる
  • ダイバーシティ・マインドの醸成
  • チームマネジメント力の向上
グローバルにおけるコミュニケーションとマネジメントの実践に必要な考え方を把握し、それに基づいた自身の判断・行動を想定できる
  • グローバル社会、政治、経済への理解向上
  • 赴任国の国情、歴史、国民性への理解向上
  • 海外でのビジネスコミュニケーション体験
  • グローバル人材マネジメントの考え方習得
  • 語学力の向上

学習要素を洗い出したら、それらの学習要素で学習ゴールが達成できるかどうかを、参加者の実態を踏まえて確認する。それとともに、彼らに求められる知識、スキル、意識について、学習すべき要素が漏れていないかどうかの確認も必要だ。

(2)学習要素を絞り込み、プログラムの全体像を組み立てる

学習要素が明らかになったら、プログラムの大まかな構成や流れを考えて全体像を組み立てる。

学習内容の設計でよくある失敗は、あれもこれもと多くの学習要素を盛り込もうとすることだ。とりわけ学習範囲が広かったり、プログラムの日数や予算が限られていたりすると、所定の時間内に「できるだけ多くの学習要素を詰め込んでしまおう」と考えがちだ。

例えば、A社の1日間の集合研修で「ダイバーシティ・マインドの醸成」「チームマネジメント力の向上」「経営判断力の向上」を盛り込んだら、どうなるだろうか?おそらく、各テーマの考え方や手法の要点を講義で説明し、簡単な意見交換や質疑応答をするのが精一杯だろう。学習内容を演習で実際に体験したり、講師や他の参加者からフィードバックをもらう機会もないため、印象が薄く、学習効果が低い研修になってしまう。必要な学習要素は一通りカバーしても、とりあえず「やっただけ」の研修に終わるだろう。

そこでプログラムの想定期間や予算内に収まるように、学習の焦点や優先度に応じて学習要素を絞り込む。一方、必要な学習要素全体を俯瞰した上で、どうしてもはずせない学習要素がある場合は、研修期間の延長や予算の追加が求められる。その際のカギは「いかに効果的に学習ゴールを達成するか」である。参加者の実態と学習ゴールのギャップが大きい要素は、求められるレベルに達するまで能力開発に時間や労力がかかるが、優先度が高い。

A社のケースでは、大半の参加者が部下を持った経験があっても、多様性が高い海外拠点でのマネジメント経験がない。したがって、現時点では達成に時間のかかる学習要素の「ダイバーシティ・マインドの醸成」、「海外でのビジネスコミュニケーション体験」、「グローバル人材マネジメントの考え方習得」に重点を置くとよいだろう。一方、参加者が階層別研修などで学習済みの要素や、「赴任国の国情、歴史、国民性への理解向上」のように、赴任直前のタイミングで学ぶ方が効果的な要素は、今回のプログラムからは削ってもよい。

また、経営・マーケティング・財務知識や語学力のように、個人のこれまでのキャリアやバックグラウンドによる習熟度のばらつきが大きい要素は、一律に集合研修を行うのは避けた方がよいだろう。到達目標と期限を定めた上で、各々のペースで自主学習を進める方が学習効率が高い。

参加者が学習内容を実際に活用できるようになるには、これらの学習要素を"知識・情報の取得 → 実践を通じた体験学習/グループ活動を通じた相互学習 → 振り返りを通じた内省"の流れで進めるのが効果的だ。

(3)プログラムの具体的内容を組み立てる

前述のA社のグローバルリーダー育成プログラムを、参加者20名・実施期間約1年・集合研修4回程度と仮定して、全体像を次のように組み立ててみたので参考にしてほしい。

A社のグローバルリーダー育成プログラムの全体像(例)

A社のプログラムでは、次のような一連の学習活動が想定できる。

- まず、集合研修で ①「他者の背景を踏まえたコミュニケーション&動機づけ」を押さえ、その上で ②「ダイバーシティ活用の必要性の実感」、③「海外拠点責任者のコミュニケーションと人材マネジメント、労務リスクマネジメントの考え方の理解」、その後リーダーに 求められる ④「経営理念に基づいた判断軸形成」へと理解を深める。
- 同時並行で ⑤「グローバル社会・政治・経済事情」、⑥「経営・マーケティング・財務知識」を自主学習し、⑦「TOEIC®テスト・ビジネス英会話のレベル向上」にも注力する。
- そして ⑧「海外拠点の視察・業務を通じた市場や組織のダイバーシティ体験、グループ活動を通じた参加者同士の協働・相互学習」で、学んだことを実践し、気づきを得る。
- 最後に、⑨振り返りのワークショップを設け、海外体験で得たことを講師や参加者同士で共有し、実践のコツを整理するとともに、グローバルリーダーとしての自身を内省し、役割認識を改める。

このように、複数の学習要素を盛り込むプログラムでは、単発の座学による集合研修の組み合わせに留まらず、学習ゴールを見据えて、それぞれの要素を効果的な順序と手法で組み合わせることがプログラムの成果を左右する。「グローバルリーダー育成プログラムだから、語学と異文化コミュニケーションは入れた方がよいだろう」「先進企業のプログラム内容と同じならば間違いないだろう」といったあやふやな考えで学習内容を組み立てると、自社の実態に沿わない総花的で一般的な内容になり、効果的なプログラムにはならないので注意すべきだ。

さらに、参加者が高い学習意欲を持って研修に臨んでくれるにはどうすればよいのかも、考えておこう。研修の際、参加者から「座学だけの研修はうんざりだ」「経験が十分ある自分たちが、今さら机上の理屈を学んで何になるのか」という声を聞くことはないだろうか?特に大人は、講師が一方的に教え込むようなスタイルでは意欲がわかないことが長年の研究で分かっている[*2]。次の成人学習の特徴から、学習意欲を高めるために押さえておきたいポイントを見ておこう[*3]

成人学習の特徴 押さえておきたいポイント
大人の学習者は実利的である 参加者が学習の必要性やメリットを感じる内容か?
大人の学習者には動機が必要である 参加者を動機づけるために、学習の目的やゴールが明確に示されているか?
大人の学習者は自律的である 参加者が能動的に参加する手法(討議、演習、フィールドワークなど)が用いられているか?
大人の学習者には関連性が必要である 参加者自身の役割遂行に直接関連する内容が取り扱われているか?
大人の学習者は目的志向性が高い 参加者の実際の業務における課題解決に役立つ内容か?
大人の学習者には豊富な人生経験がある 参加者がこれまでに得た経験を、学習の中で活用し、理解を深める機会があるか?

出所:『企業内人材育成入門』中原淳編著 ダイヤモンド社 を元にエレクセ・パートナーズが作成。許可なく引用を禁じます

例えばA社のプログラムでは、参加者がチームとなって、自社の海外拠点の実際の課題の調査・討議、現地での体験学習を行い、日本での事業・マネジメント経験を活かし、主体的に課題解決に取り組む活動を盛り込むことが有用だ。さらに、海外拠点責任者として赴任直後から現地で遭遇する場面を想定し、海外マネジメント体験を実感できる工夫を施すことで、赴任に向けた学習の必要性や関連性を意識してもらう。社内外の海外拠点責任者の経験を討議テーマやケース演習に盛り込んだり、自社の海外拠点トップの実態や考えを研修に反映させる等、一般的な教科書のような内容にしないことが大切だ。


学習の焦点や優先度を定め、参加者の動機づけを意識して、学習内容の構成や流れを組み立てることは、学習ゴール達成に向けたプロセスを効果的に支援することに他ならない。研修期間や予算の制限など、プログラムの企画設計担当者には様々な制約があるが、設計の工夫次第で学習効果を高めることができる。特に、実際の赴任者を対象とするのではなく、グローバルリーダーの人材プール形成が主目的のプログラムは、参加者の目的意識が高まらない懸念がある。参加者には、学習ゴールを明示し、主体的に海外拠点でのマネジメントを体験、実感してもらい、自社が求めるグローバルリーダーを目指す意思を固めてもらう機会を提供しよう。まさに、企画設計担当者の腕の見せ所だ。

第5回と第6回で述べてきたプログラムの企画をまとめると以下のような流れになる。

今回のポイント

  • プログラムの設計では、プログラムに盛り込む学習要素を洗い出した上で絞り込み、大まかな構成や流れを定め、具体的なプログラム内容を組み立てる
  • 参加者の実態に合わせて「いかに効果的に学習ゴールを達成するか」に力点を置き、研修期間・予算内に収められるように学習の焦点や優先度を定めて、学習要素を絞り込む
  • 単発の座学による集合研修の組み合わせに留まらず、学習ゴールを達成するために、参加者の学習意欲と学習効果を高めることに留意して、プログラム内容や流れを組み立てる

最終回のChapterでは、継続的にグローバルリーダーが輩出される仕組みを作るにはどのような工夫が必要なのか、人材マネジメント全体で研修を活かすポイントについて解説する。


*1:ADDIEモデル

出所:『企業内人材育成入門』中原淳編著 ダイヤモンド社、『教材設計マニュアル』鈴木克明著 北大路書房をもとにエレクセ・パートナーズが作成

*2:成人学習の特徴

出所:『企業内人材育成入門』中原淳編著 ダイヤモンド社

*3:成人学習の特徴と押さえておきたいポイント

出所:『企業内人材育成入門』中原淳編著 ダイヤモンド社 をもとにエレクセ・パートナーズが作成

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