英語がもたらした私のターニングポイント vol.13 平岳大さん

俳優

ひら 岳大たけひろさん

1974年東京都生まれ。15歳で単身渡米し、現地の高校に留学。ブラウン大学卒業後、コロンビア大学大学院に進学し、その後、日本のファンド会社などに勤務。2002年俳優に転身し、三島由紀夫原作の舞台「鹿鳴館」でデビュー。NHK大河ドラマ「篤姫」「真田丸」や、映画「関ヶ原」をはじめ、舞台、ドラマ、映画に多数出演。近年では、海外に拠点を移し、BBCとNetflixが共同制作したドラマ「Giri / Haji」や、映画「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」に出演するなど、活躍の場を広げている。

NHK大河ドラマ「真田丸」などをはじめ、多数のドラマや映画、舞台に出演されている俳優の平岳大さん。2017年から海外作品のオーディションを受けるようになり、BBC(英国放送協会)制作のドラマで主演を務めたり、ハリウッド映画に出演したりと、活躍の場を広げています。40歳を過ぎてからの海外挑戦を、成功へと導いた理由の1つは、学生・社会人時代に身につけた英語力だったそうです。

2022年3月号

40歳を過ぎて海外作品に挑戦
英語力が道を切り開いた

学生や社会人のときに磨いた英語力が俳優としての海外挑戦に役立つ

2002年に俳優としての活動を始め、様々な日本の映画やドラマ、舞台に出演しましたが、18年以降は海外作品へとシフトしています。19年には、BBCとNetflixが共同制作したドラマ「Giri / Haji」に、死んだはずの弟を追ってロンドンに渡る主人公の刑事役で出演しました。同年末にはハワイに居を移し、最近では、日本でも劇場公開された「G.I.ジョー:漆黒のスネークアイズ」に出演。22年にHuluで公開が予定されている、ドイツの大作ドラマ「THE SWARM」にも出演し、21年に収録が行われました。

海外の作品に出演するためには英語力が欠かせませんが、俳優である両親(平幹二朗さんと佐久間良子さん)のことが知られていない場所に行きたい、と高校生のときから渡米していたことが役立ちました。渡米した当初は語学力がなかったので、とにかく自分の周囲から日本語を排除。英英辞典を使い、英語で日記を書き、「今日はあれをしなければいけないな」といった独り言も英語で考えるようにしました。すると、1年位で不自由なく話せるようになったのです。そのままアメリカの大学と大学院に進学。その後、日本のファンド会社に就職し、英語を使った業務に従事していました。俳優として海外挑戦をするために、英語力を身につけようと思っていたわけではないのですが、これらの経験が後々力になっていったのです。

アメリカで通った高校の卒業式。母の佐久間良子さん(写真左)と

アメリカで通った高校の卒業式。母の佐久間良子さん(写真左)と

結局、5年間サラリーマン生活を送りましたが、次第に俳優をやってみたいという気持ちが高まり、27歳で俳優に転身。少しずつ舞台やドラマに出演する機会をいただくようになっていきました。

海外の作品に出演したいと考え始めたのは、30歳を過ぎてから。04年に、蜷川幸雄さんが演出した「ハムレット」のイギリス公演に出演したことが、1つのきっかけとなりました。劇中劇の女形という小さな役ではありましたが、主演俳優の方が毎朝楽屋を回り、他のキャストとコミュニケーションを取るような、日本とは異なるカルチャーを目の当たりにして、興味を持ったのです。

ただ、海外作品への出演をメインにしていくためには、オーディションで半年ぐらい海外にいる必要があると聞き、二の足を踏んでいました。

そんな僕の背中を押したのが、19年に出演したアメリカの映画「Lost Girls & Love Hotels」。主演女優の方と、英語で台本の読み合わせをしたときに、せりふのキャッチボールがスムーズにでき、これまでにないくらい、演技が楽しいと思えたのです。そこで、事務所を思い切って辞め、海外作品のオーディションを受け始めました。その後の出演作品が何も決まっていなかったので、周囲からは反対されましたが、幸運なことに「Giri / Haji」のオーディションを通過。一歩踏み出したからこそ、主演という大役を得ることができました。

どんな国・地域の人たちにも伝わる芝居をしなくてはならないと気付かされる

海外の映画やドラマの仕事は、日本とはまた違う難しさがあります。みんな自己主張が激しいので、こちらも「負けてはいられない」という気持ちを持ちながら、自分のポジションはこうだ、と主張しなければやっていけません。しかし、海外作品に出演することは、その苦労を補って余りあるほどのメリットを僕にもたらしてくれました。

1つは、キャリアの選択肢が大きく広がったことです。ハリウッド映画の有名なシリーズ作品をはじめ、多くのオーディションの話が回ってきますし、そのほかにも思いも寄らないチャンスが巡ってくることがあります。例えば、「THE SWARM」に関しては、ある日突然初対面のプロデューサーからオファーを受けました。「Giri / Haji」をご覧になり、目を付けていただいたようです。

もう1つの大きなメリットは、外国人俳優の演技に対するアプローチや考え方に数多く触れたことです。彼らは十人十色な方法論で芝居に臨んできます。

「Giri/Haji」撮影の合間に談笑する平さん

「Giri / Haji」撮影の合間に談笑する平さん

例えば「Giri / Haji」のときは、ほとんどせりふを覚えて来ない俳優がいました。撮影中は「グダグダだな」と思ったのですが、完成した映像を見ると非常に出来が良いのです。その人はちゃらんぽらんな役だったので、カメラが回っていないときも、あえてそうしていたのでしょう。

監督からの演技指導でも、目から鱗うろこが落ちる出来事がありました。「THE SWARM」では日本語のせりふもあるのですが、日本語が分からないドイツ人の監督から、「そのせりふの気持ちはそうじゃないよね」と指摘されたのです。それで気付いたのは、せりふを言うときの気持ちを明確にしていないと、多様な国・地域の人たちが見る作品では伝わらないということ。同じバックグラウンドを持つ者同士でしか通じないような、なんとなくの雰囲気で演じてはいけないのです。

このように、外国人の演技に対する考え方に数多く触れることで、「自分はどう演ずるのか」「自分はどんなポジションの役者であるべきか」などと考えさせられました。

英語を習得しただけで全てが変わるわけではない。
だが確実に様々なドアが開ける

今の目標は、「アメリカ人の役に抜てきされるような俳優になること」。そのためには、英語の学習や演技のトレーニングも必要ですし、人生経験を積む必要もあるでしょう。まだまだやることはたくさんありますね。

また、英語が話せると、仕事以外のチャレンジもしやすくなります。実は「Giri / Haji」の撮影のとき、妻と一緒に渡英したのですが、その大きな理由は妻が妊娠していたからです。家族がバラバラになるより、イギリスで出産した方がいいと判断しました。出産のときは、ベルギー人の医師、アフリカ系やインド系の看護師、アングロ・サクソンの助産師など、実にマルチカルチュラルな人たちに助けてもらいました。子どもには、将来このようなマルチカルチュラルな環境で育ってほしいと願うようになるほど、貴重な経験になりましたが、英語ができなければその選択には至らなかったでしょう。

英語を習得しただけで、全てが変わるとは思いません。しかし、様々なドアを開くことができるのは確かです。