企業と英語研修

グローバル化の進展、働き方改革と、企業を取り巻く環境が変わる中、企業における研修のあり方や内容も変化しつつあります。社員の英語研修に積極的に取り組まれているキヤノン株式会社とエーザイ株式会社、それぞれのご担当者に、研修への取り組みや変化についてお話を伺いました。また、長らく企業における英語研修に携わってこられた株式会社アイ・シー・シー代表の千田潤一氏に、効果のある英語研修のあり方について伺いました。

2018年7月号

  • 企業
  • 人材育成
  • 意識改革

自発的な学びを促す「学び方改革」でより効果の高い研修づくりに挑む

キヤノン株式会社 人事本部 ヒューマンリレーションズ推進センター所長

理事 細谷 陽一 氏

市場のグローバル化により英語力が必須に

当社の昨年の売上は約4兆800億円で、8割を海外が占めています。グローバル化が進展するにつれ、海外の従業員も増大し、約19万人いるグループ社員のうち12万人ほどを外国人が占めています。日本人社員約7万人のうち、海外に赴任している数はおよそ1,000人。以前の海外赴任先は欧米が中心でしたが、ここ10年くらいは約6割がアジアとなっていて、残り各2割を欧州と米国が占めています。

国内で働く技術職の社員の中には、海外での知的財産権の申請や学術論文の閲読など、高い英語力を求められる者もいます。また、そこまで専門的な用語を必要としないまでも、商品パッケージやマニュアルなどの表記は英語が主ですので、ほとんどの社員が何らかの形で日常的に英語に触れています。したがって、国内外を問わず英語力は必須となっているのが現況です。

「働き方改革」を推進しつつ「学び方改革」にも取り組む

当社では英語、ビジネススキル、リーダーシップを始めさまざまな研修を業務研修として行ってきています。
一方、昨今では「働き方改革」の進展に伴い、業務研修にあてる時間を創出しにくい風潮もあり、必須型研修はともかく公募型を中心に学びの機会が逓減してきている傾向にあります。

こうした状況を打破すべく取り組んでいるのが「学び方改革」です。研修を自発的に受けてもらう機会を週末、そして終業後に創出しています。もともと自己啓発型の研修はありましたが、その機会を週末も含めて提供していることが、「学び方改革」の特徴です。
「土曜日の研修だと育児を主人に頼めるので参加しやすい」という女性社員の声も聞かれるようになりました。
キヤノンには「自発・自治・自覚」からなる「三自の精神」という行動指針があります。これは何事に対しても積極的に臨み、行動する(自発)、自らをきちんと管理する(自治)、自分の立場・役割・状況を把握し、前向きに仕事に取り組む(自覚)から構成されており、学び方改革はこの三自の精神を土台としたものでもあります。

「学び方改革」で実践する新たな研修


学び方改革の一環として、2017年秋から開始したのが、京浜地区のオフィスで土曜日に研修を行う「ウィークエンドラーニング」(以下、WEL)です。分野としてはプレゼンテーションなどのビジネススキルや英語研修などになります。WELは業務研修ではありませんので、交通費は自己負担です。にもかかわらず、茨城や静岡から参加する社員もいて、社員の自己学習意欲に対応する取り組みとして手応えを感じています。

そしてもう1つの取り組みが「アフター5ラーニング」(以下、A5L)です。WELに比較すると研修時間は1.5時間程度と短くなりますが、WELへの呼び水的な位置づけとしています。
ちなみに、当社では2012年から7・8・9月の3ヵ月間を「ワークライフバランス推進期間」と題し、サマータイムを導入しています。具体的には就業時間を45分間前倒しし、終業後にできた時間を、A5Lにあててもらうようキャンペーンをしています。このA5LもWEL同様に自己啓発型の研修で上司の承認を不要とし、あくまでも社員本人の意思で参加できるようにしています。自己啓発スタイルは参加者の意欲が高く、特に週末の研修においては研修効果が向上している実感があります。

ワークライフバランス推進期間中は、「年金」「税金」「健康」などの生活関連のテーマもセミナー形式で提供していますが、その中でも人気が高いのが「英語」です。業務ではもちろんのこと、訪日観光客の増加や東京オリンピック・パラリンピックの開催など、英語学習への世間の関心が高まっていることと呼応して、社員の中にもプライベートにおける英語の重要性を実感している表れのようにも感じています。

これらWEL、A5Lは基本的には外部研修会社に委託するのではなく、自社で企画開発・運営しています。英語関連の研修ではTOEIC Programのスコアアップを目指すことはもとより、英語学習を楽しんでもらうことを意識しています。
また、英語力の向上を底上げするために、TOEIC Programに対する心理的バリアーを取り除くべく初級者向けの「聞く」「読む」力を測定するTOEIC Bridge Testをワークライフバランス推進期間に実施し、毎年約300人が受験しています。TOEIC Bridge Testの受験者の中からは、より上位のTOEIC Listening & Reading Testを受ける者も増加しており、TOEIC Bridge Testをきっかけとして段階的にステップアップしてほしいと願っています。また、研修を実施した後は受講者の感想や英語で伝える日常表現をメルマガで配信、社員の英語学習モチベーション持続のための工夫をしています。

創業の地で薫陶を受ける幹部研修

このCanon Global Management Institute(CGMI)は幹部研修のための施設です。ここはキヤノン創業の地でもあり、先人達の魂が宿る土地でキヤノンのDNAを継承し、幹部としての自覚と見識を養うことを目的に建てられました。

幹部研修の1つには、課長・部長・所長クラスを対象とした「Leadership Education and Development(以下、LEAD)」というものがあります。LEADは役職に任用する前後でイニシアチブや主導力の発揮の仕方について指導するのですが、LEADを受けたからといって、必ずしも役職が与えられたり昇格したりするわけではありません。各部門で推薦された人材が、実際にはどのような行動特性を持っているのかなど、人事の目で人物を把握し、最終的にその役職へ就かせるかどうかを判断しています。

Canon Global Management Institute(CGMI)

「進取の気性」で「学び方改革」を推進

グローバル人材として外国の人達と協働するには、その国の文化を理解することが大切です。異文化理解は現地での実践に勝るものはありませんが、日本でできることとして、海外からのインターン学生達と交流を深める「異文化祭り」を実施しています。その他、「技術留学制度」「海外トレーニー制度」そして海外赴任前には「国際スタッフ研修」「基礎マネジメント研修」など、多彩な研修を用意しています。

前述の三自の精神と共に私たちが大切にしているのが、三自の精神を具体的な行動に昇華させる「進取の気性」です。自発的に受ける研修の効果が高いように、個人の内面から湧き出るエネルギーは何にも増して重要です。働き方改革の進展に伴い、業務研修にあてる時間を創出しにくい風潮もある中、社員には今こそ学ぶチャンスだと捉え、自らの時間を自らの意思による成長機会にあててもらいたい。そのためにも学び方改革のメニューをさらに充実させ、社員の学ぶ意欲に応えていきたいと考えています。