大学におけるグローバル人材育成

2019年3月号

  • 大学
  • 人材育成
  • TOEIC L&R

開学当初より一貫した教育で、世界に通ずるICT技術者を育成

単科大学としてコンピュータ理工学部のみを設置している福島県の公立会津大学は、会津地方初の4年制大学として設立されました。創立当初より世界と渡り合える人材を育成しようと、英語での卒業論文執筆を義務づけるなど、英語とICT(情報通信技術)に特化した教育を実践しています。同大学で英語教育を推進する金子恵美子氏に、取り組みについて伺いました。

会津大学  語学研究センター 教授 英語学博士

金子 恵美子 氏

地元・日本・世界に貢献するグローバル人材創出を建学の理念に掲げる会津大学

江戸時代、会津には日新館という伝統ある藩校があり、教育熱心な藩として知られていました。ところが明治時代以降、長年にわたり4年制大学がありませんでした。そこで会津に4年制大学をと、1993年に満を持して創設されたのが会津大学です。開学前、関係者の間には“尖った”大学にしたいという想いがありました。そこで、世界的視野に立った情報技術者を育てようと、日本初のコンピュータ理工学専門の大学として開設されました。コンピュータ理工学は、主として英語を基本とした学問であり、世界的視野に立つためにも英語が欠かせません。本学は英語を駆使しながら、コンピュータ理工学を学ぶというのが大きな特徴です。
現在ではロボット、ナビゲーションシステム、ドローンなど、科学技術が発達していますが、使い方を誤れば非常に危険です。言われるがままプログラミングをした結果、人に危害を及ぼしてしまう可能性もあります。そこで学生の倫理観、人間性を磨くことにも力点を置かなければと、本学では「to Advance Knowledge for Humanity」(人類の平和と繁栄に貢献する発明と発見を探求します。)という建学の理念を掲げています。高い倫理感を持って研究開発を行い、人類の平和のためにスキルを使うことを学びの大前提としているのです。

建学理念の実行のため「Local to Global, Global to Local」(地域から世界へ、世界から地域へ)を会津大学の国際戦略として掲げています。会津から世界へ情報を発信すると共に、世界からも人材を受け入れることで、ICTを活用した地域産業との連携を積極的に推進すると共に常に世界を見据え、世界に挑戦できるICT人材の輩出を目指しています。
これを受け、開学当初より国際化は進んでいたと思います。専門科目も英語で授業を実施、卒業論文は英語による執筆など、学生に英語力を身につけてもらう機会を提供してきました。また、開学時は最先端の技術を取り入れるために、外国人教員が6割を占めていました(現在は4割)。その頃は、ソ連崩壊(1991年)から間もなかったこともあり、旧ソ連の研究者が研究室ごと移ってきたので、ロシア人教員が多かった、などというエピソードもあります。このようなこともあり、現在に至るまで学内のメールは英語で、必要に応じて日本語を併記し、教員の会議では必ず同時通訳が行われています。学内に同時通訳者を常駐させているため人的コストはかかりますが、やめようという声は上がりません。教員の間にはそれだけ、国際化が共通認識として浸透しているといえます。

スーパーグローバル大学創成支援事業への参加で、より国際化を加速

スーパーグローバル大学創成支援事業(以下、SGU)のコンセプトは、「『心・技・体』三位一体による世界で活躍する革新的ICT人材の育成」です。具体的な取り組みとして、「学部・大学院一貫オナーズプログラムの創設」「技術革新・創業基礎・海外研修科目群の創設」「先進ICTグローバルプログラムの創設」「ガバナンスの改善とグローバル化」という4つの柱を打ち出しました。
「学部・大学院一貫オナーズプログラム」は、5年間で学部と修士課程を修了し、任意の1年間をオナーズイヤーとし、留学、海外研修やプログラミングコンテストへの参加などに充ててもらうシステムです。オナーズイヤーでは、大学から最大50万円の活動費を給付します。
「創業基礎・海外研修科目群の創設」に該当するのが、アメリカ・シリコンバレーまたは中国・大連で活動する海外インターンシッププログラムです。参加者は毎年若干名でしたが、その人数は年々増加傾向にあります。さらに長年行っている取り組みとして、「グローバル・エクスペリエンス・ゲートウェイ」という短期留学制度があります。2013年からスタートしたこの制度は、長期留学へのハードルを下げる“ゲートウェイ”となるべく創設したものです。入り口はオープンですが、学生にとって単純な海外体験で終わることがないよう工夫をしています。渡航費の支援、留学前7回の授業や卒業単位の付与など、渡航前後のフォローも行っています。その代わりに、現地でのブログの執筆とインタビュービデオの制作を課題として与えています。特にビデオは、実際の取材、編集、英語字幕の作成など一通り行いますが、さすが情報系の学生とあって、ビデオの質は高く、学生たちにとっていい経験になっているようです。

同プログラムの前後にはTOEIC Speaking Testを受験してもらいます。3週間のプログラムですので、スコアアップを期待しているわけではありませんが、テストを受験すること自体をモチベーションとして学生には捉えてほしいと思っています。最近では、「グローバル・エクスペリエンス・ゲートウェイ」を経験し、中期留学プログラムやインターンシップにチャレンジしてくれる学生も多くいます。
会津大学の学生を世界に送り出すプログラムにも力を入れていますが、SGUの採択以降、いちばん大きな変化があったのは学部レベルでの留学生の受け入れです。以前の学部生は100%日本人でした。英語が堪能な優秀な留学生の受け入れとして設置したのが「ICTグローバルプログラム全英語コース」です。このプログラム最大の特徴は、英語のみで科目を履修し、卒業できることです。日本人学生と留学生が同じ教室で勉強する、これは双方にとってメリットがあると考えています。留学生が増えたことで少しずつですが、日本人学生の意識も変わったと感じています。積極的な日本人学生はグローバルラウンジといった留学生とのコミュニケーションスペースにもよく顔を出し、英語のスピーキング練習を行っています。また日本人学生と留学生のコミュニケーション促進と地域への連携を目的に、日本人学生と留学生がグループになり小学校へのプレゼン訪問を行っています。留学生の出身国や文化について小学生に説明をするプログラムですが、とても好評なようで過去1年間の訪問回数は25回にもなります。このような取り組みは教員が主導しているのではなく、学生の自主性を尊重し、積極的な学生には授業以外でもどんどんチャンスを提供しています。
「ガバナンスの改善とグローバル化」では、職員の英語力向上に取り組んでいます。職員の採用条件として、TOEIC Listening & Reading Test(以下、TOEIC L&R)で580点以上を義務づけています。採用後も継続的なサポートとして職員用の英語のクラスを実施しています。

スーパーグローバル大学事業の効果と今後の取り組み

SGUに採択されたことで本学の露出度も増しました。イギリスの高等教育情報誌『The Times Higher Education』が発表する世界大学ランキングでは、日本の大学として比較的高い順位にランクインするまでになりました(2018年の日本国内ランキングで34位、2019年の世界ランキングで601~800位)。
その成果もあってか、2018年度の新入生のTOEIC L&R平均スコアは450点と、これまでの最高得点を記録しました。これは、IIBCが発表している大学専攻別の情報科学系平均スコア404点も上回っており、スーパーグローバル大学ということを意識して入学した学生が増えた証しと考えています。実は、SGUの構想の際に2023年までにTOEIC L&R500点以上の学生を55%という目標を立てました。正直に申しますと、当時は少しハードルが高いかなと心配していたのですが、今ではもう少し高くてもよかったかなと感じています。

ここ最近の英語に対する取り組みとしては、「使える英語力」を身につけられるよう、これまでのアカデミックな英語教育を見直しました。新カリキュラムとして2018年よりスタートさせたのが“Task Based Language Teaching”で、CAN-DOステイトメントを作成し、コンピュータ理工学に即した実践的な会話や読み書きなどを指導しています。まだ実施期間が短いため効果測定はできていませんが、ペアワークやグループワーク等学生たちが主体的に発信する場を大切にしており、学生の「話す」ことへの抵抗感も少なくなってきた手応えがあります。
現在、協定を結んでいる海外の大学は83校にのぼりますが、今後、より一層国際化を進展させるため力を入れたいのが、「ICTグローバルプログラム全英語コース」の人数を増やすことです。特に日本人学生を増やしていきたいと考えています。また、大学院への進学率を高め、より高度なICT技術を研究する人材、そして研究した最先端技術を英語で発表できるような人材を増やすことも目指しています。会津の地で、ICTのプロとして英語と技術を身につけ、会津、日本そして世界に貢献できるような人材の育成にこれからも注力していきます。