自分の意思をハッキリ伝える、英語は下手でもとにかく話す

レッドブル・エアレース・パイロット

室屋義秀さん

1973年生まれ。レッドブル・エアレース・パイロット。18歳から大学のグライダー部で飛行訓練を開始し、20歳の時に渡米してパイロットライセンスを取得。2009年より「Red Bull Air Race World Championship」に参戦し、16年千葉大会で初優勝。17年のシリーズではアジア人初の年間総合優勝を果たす。現在、国内では、レース以外にもエアショーの実施や子ども向けの航空教室を開催するなど、精力的に活動している。

2019年7月号

自分の意思をハッキリ伝える、英語は下手でもとにかく話す

レッドブル・エアレース・パイロットとして世界を舞台に活躍する室屋義秀さん。
学生時代は英語が苦手だったそうですが、必要に迫られ独学で勉強を重ね、今では外国人スタッフなどと問題なくコミュニケーションができるように。
拠点にしている福島の現状を海外に伝えるなど、英語での情報発信にも積極的になったそうです。

ホテルのチェックインすら、かつては苦労していた

最高時速370kmの小型プロペラ機で規定のコースを飛び、操縦技術の正確さとタイムを競う「レッドブル・エアレース」のパイロットをしています。現在は世界のトップパイロットたちが集まる「Red Bull Air Race World Championship」に参戦し、各国のレースを転戦。2017年には総合優勝を果たしました。今年も開幕戦で優勝し、好スタートを切っています。
エアレースをする上で、英語は欠かすことができません。日本人にはなじみの少ない競技なので、チームコーディネーターやフライト解析を行うタクティシャン、レースエンジニアなど、チームメンバーは皆、外国人。運営側とのコミュニケーションや海外メディアの記者会見も、英語ができないと話になりません。

今でこそ、チームメンバーや海外メディアの方と問題なく英語で話をしていますが、以前は全く得意ではありませんでした。
小学生の頃からパイロットに憧れ、高校生ぐらいから本気で目指し始め、その方法などを調べる中で、パイロットは英語習得が不可欠だと分かっていたのですが、まるで勉強していなかった。高校生の時、英検3級に落ちたぐらいです(笑)。
ですから、大学時代に小型飛行機の操縦免許を取ろうと渡米した時は、ホテルのチェックインや料理の注文すらできませんでした。幸い、学科試験は選択式だったので最低限の勉強で何とかなりましたが……。大学卒業後、アメリカで曲技飛行の訓練をして大会に出場したり、諸外国でエアショーに出たりする中で、多少は英語で意思疎通ができるようになりましたが、「通じればいい」という感覚だったので、本気では勉強しませんでした。

「下手でもいいからどんどん話せ」と言われたワケは?

しかし2006年に、日本でレッドブルが開催したフライトイベントの運営を手伝った時、「真剣に英語を学ばないとマズい」と感じました。スポンサーもスタッフもほぼ外国人で、日本人は自分だけ。契約も打ち合わせも指示も、英語で正確に行わなければならず、「通じればいい」では済まされませんでした。さらに、翌年から、レッドブルが私のスポンサーとなり、海外のレースなどに参加するようになると、全ての会話が英語に。そこから、真剣に英語力向上に取り組むようになりました。
そのために私が実践したのは、「ほかの人のマネをする」こと。相手が話しているのを聞き、使えそうな表現があったら、「この表現はどういう意味?」といちいち尋ねたのです。ほかのパイロットのインタビューにも耳を傾け、使えるフレーズを探しました。
そして、とにかく話しまくりました。聞き返されることは日常茶飯事でしたが、「もう1回説明しよう」と何度でも話し直しました。実は、以前は英語を話すのに消極的だったのですが、「下手でもいいから、どんどん話すべき」と複数のパイロットや仲間からアドバイスされ、考えを改めたのです。

下手でもどんどん話すべき理由は、英語力の向上だけではありません。自分の意見をしっかり主張しないと、トラブルが起こるからです。外国人は文化も考え方も全く異なりますから、自分と同じ価値観だろうと思っていると、想定外の事態が発生することがあります。例えば、チームメンバーにブラジル人がいるのですが、レースの途中に国に帰ると言い出したことがありました。理由は、「リオのカーニバルを見たいから」。普通、仕事を優先するだろうと言ったのですが、「契約書に書いていない」と本当に帰ってしまいました(笑)。

Red Bull Air Race World Championshipの出場者たちと歓談する室屋さん(写真右から2人目)
©Predrag Vuckovic/Red Bull Content Pool

こういうトラブルを防ぐためには、英語が苦手などと言わずに、何でも明確に意思表示をしないといけない。ほかのパイロットやチームメンバーも、完璧な英語ではなくても、人の話を遮るようにして話しています。それを見て、私も積極的に話すようになったのです。
外国人とやり取りする中で気付いたのは、英語のうまさよりも、「自分の考えをハッキリと持つこと」が大事だということです。意思があやふやだと、英語がペラペラでも誰も理解してくれませんが、意思が明確なら多少拙くても通じるものです。

頑張っていれば、ある日突然、扉が開く

英語力が向上したことで、海外メディアの記者会見で話せる内容も増えていきました。近年は、天空の飛行場と称される拠点の「ふくしまスカイパーク」がある福島の現状を意識的に話すようにしています。海外では、原発事故によって人が住めない場所だと勘違いされていることもありますが、ほとんどの地域では普通に暮らせている。そういう現状を正しく伝えることが、復興の後押しになると考えています。

様々な情報を発信しているうちに、「もっといろいろなことを伝えたい」という欲が出てきました。そこで、数カ月前から、人生初の英会話レッスンを受け始めました。週1回1時間ですが、文法を正してもらえたり、語彙を増やせたり、と有意義です。
とにかく忙しいので、時間を割くのも一苦労。若くて時間があった時に、英語を身に付けておけば良かったと痛切に思います。もしも昔の自分に何か伝えられるとしたら、「高校卒業までに英語ぐらいしゃべれるようにしておけよ」と言いますね。

英語を学び、言葉の壁がなくなると、人生の選択肢や見えてくる世界がぐっと広がります。勉強し始めた当初は、成果が上がらず、つまらないかもしれませんが、基礎ができてくると会話がスムーズになり、面白くなってきます。頑張っていれば必ず扉は開くので、その瞬間を夢見て、是非皆さんもトライしてみてください。

室屋さんが優勝を果たしたRed Bull Air Race World Championship 2019年シリーズ開幕戦の飛行の様子
©Andreas Schaad/Red Bull Content Pool