料理研究家
行正り香さん
福岡県生まれ。高校在学中にアメリカへ留学し、カリフォルニア大学バークレー校を卒業。帰国後、広告代理店に就職しCMプロデューサーとして活躍。2007年退社。『だれか来る日のメニュー』(文化出版局)、『19時から作るごはん』『行正り香のインテリア 心地よく暮らすためのルールとアイデア』(ともに講談社)、『ビリからはじめる英語術―英語は声を出して学ぼう』(新泉社)など著書多数。4技能英語を学ぶカラオケEnglishという音読アプリを開発。NHKワールドでは「Dining with the Chef」のホストを務め、世界に向けて日本料理をプロモートしている。
料理研究家としてNHKワールドに出演し、世界に向けて日本料理のプロモートにも取り組む行正り香さん。 学校の勉強が苦手だった高校時代に、父親の言葉がきっかけでアメリカに留学。
留学で英語を学びたいという学習欲が芽生え、学ぶことはエンターテインメントだと感じるまでになったそうです。
私の世界を広げてくれた英語と料理
英語力ゼロからのスタート。アメリカ留学で学習欲に火が付いた。
学校の勉強が苦手で、高校3年になった時には下から数えたほうが早い成績でした。それで、卒業したら働こうと考えたのですが、特にやりたいことも、得意なこともありません。他のものよりは少しでもできそうなものを探して、何とか思いついたのが英語でした。文法や読み書きは全くだめだけれど、大好きな洋楽をまねして歌っていたので、先生に「発音だけはいい」とよく褒められていたのです。父から「なんでもがんばって、自分の半径5㎞以内にいる人たちの中で一番になれば仕事にできるよ」と励まされ、近所の子どもたちに英語を教える先生になろうと決心しました。そのためには卒業までに英語を身に付けなければいけないと、大学に行かない代わりに留学費用を両親に出してもらって、英語力ゼロでアメリカの高校に留学しました。
当然、最初は周りの英語が一言も分かりません。でもしばらく暮らすうちに、会話にパターンがあると気付いたのです。朝、学校で友達に会うと、“ウワッツァップ(What’s up?)”、“ナッマチ(Not much.)”とあいさつする。レストランでは必ず“ワウッジューライク(What would you like?)”と聞かれる。そうしたフレーズを音のかたまりとしてひたすら覚えることで、9カ月の留学期間が終わる頃には、日常会話くらいは話せるようになっていました。
そうなると、もっと英語を学びたいと欲が出てきます。でも、我が家には留学を続けられる経済的ゆとりがありません。するとホストファミリーが、「誰でも学べる短大があるから、うちで働きながら勉強を続けてはどうか」と提案してくれたのです。私の仕事は、週5日ホストファミリーの食事をつくること。初めから料理が得意だったわけではないのですが、みんながおいしいと喜んでくれるのがうれしくて、日本から持参した母のレシピノートを頼りに工夫を重ね、2年間食事をつくり続けました。この時の経験が、今の料理研究家としてのキャリアにつながっています。
海外との仕事はシンプルな英語でいい。大事なのは交渉力。
短大では読み書きが重要になるため、私は苦手だった文法から学びなおさなければいけませんでした。といっても、日本のような難しい文法の講義は一切なし。文法の授業は、1つの文型の例文を何度も声に出して読み、次にその文型を使って自分で簡単な例文をつくる、その繰り返しでした。この学習法が私にはとても合っていて、数カ月で急速に英語の力が付き、学校の成績もどんどん上がりました。そして先生方の勧めもあってカリフォルニア大学バークレー校に編入し、無事卒業することができたのです。日本の高校でほとんどビリの成績だった勉強嫌いの私が、気付けば学ぶことに夢中になっていました。
大学院へ進みたい気持ちもありましたが、さすがに働かなければいけないと思い、帰国して広告代理店に入社し、コピーライター、CMプランナーを経て、海外向けCMの制作担当になりました。予算も人員も限られた中で、1人で海外へ行ってプランニングし、プロデュースをして、納品まで全て自分でやらなければいけないタフな現場でしたが、ビジネスのノウハウはここで学びました。
海外の人と仕事をする上で気付いたのは、英語力よりも交渉力が重要だということ。例えばメールでも、日本人は相手がどう思うか気にして回りくどい表現をしがちですが、彼らはごくシンプルに用件だけを書いてきます。中学生レベルの簡単な英語でも十分通用するのです。その代わり、海外の人たちは要求をストレートにぶつけてくるので、それにひるまず自分が決めた落としどころに話をもっていく強い意志と交渉力がないと、いくら英語が上手でも対等な関係は築けないと思います。
一方、私は会社で働きながら、友人や知人を食事に招いたり、レシピを教えたりして料理を楽しんでいました。それがいつの間にか口コミで広がって、料理の本を出すことになり、料理研究家としての仕事が始まりました。私のレシピは、誰がつくってもおいしくできる簡単な和食や、おうちでパーティがしたくなるような料理が中心。留学時代、ホストファミリーや大学の寮でみんなに料理をふるまって喜ばれた経験がベースになっています。
英語が話せるということで、世界各国で放送されているNHKワールドTVの料理番組にもレギュラー出演させていただき、今春には英語の和食レシピ本も出版する予定です。
学ぶことは最高のエンターテインメント。英語が話せれば情報量は何十倍にも。
英語と料理は、私を支える大切な2つの土台です。英語と料理を身に付けたことによって、私の人生の箱はぐんと大きくなり、たくさんの出会いにも恵まれました。どちらも私はテストの点数のために丸暗記したり、いやいや学んだりしたものではありません。例えば英語の音を聞いてまねをする。そんな簡単なことから始めて、それができると楽しくて、今度は英語で話したくなり、さらに読み書きも学びたくなっていったのです。料理もうまくできたらうれしいし、誰かが喜んでくれたらもっとがんばろうと工夫する。楽しいから自分でどんどん学びたくなるというスパイラルが大切だと思います。
わが家の次女は、「あいうえお」を教えても、なかなかひらがなが読めませんでした。でも、ある日突然、「の」の字だけ読めるようになって、そこから急速に文字を覚えていきました。楽しいと思えること、興味を持てることに出会えれば、あとはセルフラーニングで自然と伸びていくのです。そんな体験から私は教育に興味を持ち、子ども向け学習コンテンツを提供する会社を立ち上げました。
学ぶことは最高のエンターテインメントです。知らないことを知れば、世界が広がります。特に今の時代、ITの進化で世界が身近になり、英語が分かれば入ってくる情報量が何十倍にもなります。子どもたちにも、楽しみながら英語を学んで、身に付けてほしいですし、私自身これからも、もっともっと学び続けていきたいと思っています。
おすすめ記事
国際的なビジネス環境で成功するために必要なスキルを測る TOEIC® Program
シニアバイスプレジデント
Rohit Sharma(ロヒット・シャルマ)氏
40代半ばから英語力を伸ばしキャリアアップを実現
英語コーチ
山越 真紀氏
グローバル社会の第一線で活躍するために必要な英語力とは
寺内 一 氏
IIBC 執行理事 永井 聡一郎
「エア会話」や「実況中継」といったアウトプットの学習を取り入れる
田中 慶子氏