英語がもたらした私のターニングポイント vol.12 水鳥真美さん

国連事務総長特別代表(防災担当)兼
国連防災機関長

水鳥真美さん

国連事務総長特別代表として、国連防災機関(UNDRR)のトップも務め、防災、気候変動、持続可能な開発アジェンダの間の戦略・実務面での一貫性、および国連事務総長の予防アジェンダ、人道アクションとの関連性を確保する責務を担う。UNDRRの役割は、各国や様々なステークホルダーによる「仙台防災枠組2015-2030」実施の推進・支援である。2018年3月より現職。それ以前は、外務省で総合外交政策局安全保障政策課長、在英日本大使館公使・広報文化センター所長などの要職を歴任後、英国のセインズベリー日本藝術研究所統括役所長を務めた。一橋大学卒業、スペイン外交官学校で国際関係ディプロマ取得。

国連事務総長特別代表(防災担当)と国連防災機関長を兼務し、国際社会を舞台に活躍する水鳥真美さん。 海外で仕事をする中、日頃から自分の意見を躊躇ちゅうちょなく言える習慣を身に付けることが、英語でのコミュニケーションにおいて大切だと気付いたそうです。

2021年10月号

身に付けた英語力で国際社会にもう一度貢献したい

英語の勉強を続ける中で芽生えた国際社会の役に立ちたいという思い

父親の仕事の関係で、4歳から7歳までアメリカに住んでいました。短い期間ですが、子どもは適応力があるので、日常会話程度であれば英語もすぐに話せるようになりました。とはいえ、自分の納得いく水準できちんと英語によるコミュニケーションができるようになるのはずっと後のことです。

日本へ戻ってからも、個人レッスンを受けたり、英語の本を読んだりして、英語の勉強は続けました。特に私が通っていた中学・高等学校が英語教育にとても熱心であったこともあり、その頃から漠然と、国際社会と関連のある仕事がしたいと思い始め、大学卒業後、外務省に入省しました。当時はまだ男女雇用機会均等法も施行されておらず、就職において女性は非常に不利な時代で、男女平等に働くことができるのは、外資系か政府の仕事しかなかったというのも大きな理由でした。

入省後すぐに、スペインの外交官学校に留学し、スペイン語圏のメキシコに赴任しました。その後はしばらく日本国内の勤務で、英語を使う機会は意外とありませんでした。英語圏の国で勤務したのは、入省から12年経った1995年で、赴任先はアメリカ(ワシントンD.C.)の日本大使館。大使館では情報収集が大切なミッションのため、現地で多くの人と会い話をしました。英語が本当に使えるようになったのはその時期からだと思います。やはり語学は、使ってこそ身に付くものです。

外務省では、何度か通訳をする機会もありました。通訳には、発言の内容を的確に伝える正確さが求められます。英語がいくら流暢でも、自分の母語での語学力や理解力の基礎がなければ通訳は務まりません。この場面ではどういう言葉を使うのが適切か、それを英語あるいは日本語に置き換えると、どんな表現になるのかなど、瞬時に考え対応しなければならないのです。単なる語彙力ではなく、言葉のニュアンスをくみ取る感受性を身に付けることが重要だとひしひしと感じました。

自分の伝えたいことを言葉で表現することが大事

2010年、50代になった私は、結婚を機に長年勤めた外務省を辞め、渡英しました。生涯で1つのキャリアを極めるのもいいけれど、まだ仕事ができるうちに新しい世界に飛び込んでみるのも面白いと思ったのです。イギリスではご縁があり、セインズベリー日本藝術研究所の統括役所長を務めました。

同研究所は、日本の文化芸術を客観的に分析研究する機関です。日本人はともすると、日本には自分たちにしか分からない特異な文化があると考えがちです。しかし、一歩外から見ると、日本文化は孤立したものではなく、他国の文化と様々な共通性があり、互いに深く関係しながら形成されていることが分かります。こうした視点は、国際社会の中で日本文化への理解や興味を深めていくためにも大切だと思います。

イギリスに来てからも、仕事では英語でのコミュニケーションにおいて特に困ることはありませんでした。仕事の場合、こちらが何を言いたいのか、相手が何を言ってくるのかを想定して準備することができます。ある意味、型にはまった英語なのです。それよりもむしろ、私が英語の表現力について深く考えさせられたのは、プライベートでの日常会話でした。

私の夫はイギリス国籍を持つユダヤ人ですが、彼の親戚はよくしゃべる人が多く、みんなが集まると3、4人がワーッと一斉に話し始め、思わず圧倒されてしまいます。それで黙っていると、誰も私に興味を示さず、存在すら認めてくれません。そのとき、夫に言われたのが、“You have to have your own story.” 自分の中に、人に伝えたい話題を持っていなければだめだと。立派な話である必要はなく、日常の些細な出来事や自分の考えでいい。それを言葉にして表現することで、初めて相手は関心を持ち、コミュニケーションが生まれるというのです。外国語を話すときに最も重要なのは語学力よりも、話す中身なのだと改めて気付かされました。

何も言わずに後悔するより何かを言って失敗する方が得るものは多い

仕事から引退する前に、最後にもう一度、国際社会に何かしらの貢献がしたいという思いがあり、日本政府の推薦を受けて、18年に国連事務総長特別代表に就任しました。現在、国連の防災担当トップとして、防災・減災に関する政策支援、啓発活動、国際的な指針作りなどを行っています。

アントニオ・グテーレス国連事務総⾧(写真右)と水鳥さん

アントニオ・グテーレス国連事務総⾧(写真右)と水鳥さん
写真提供/ UNDRR

国連の仕事は全て英語です。私もこれまで、英語でのコミュニケーションは十分に経験してきたつもりでしたが、困ったのはライティングでした。外務省在籍中は、英語で長い文章を書く機会はそれほどありませんでした。また、日本語でも同じですが、Eメール1つとっても難しく、書き方の微妙な違いで与える印象がまるで異なってしまいます。そうした表現力は、日々やり取りを繰り返す中で学ぶしかありませんでした。おかげで今は、ようやく英語で書くことにも自信が持てるようになりました。

私の仕事の中心は啓発活動のため、スピーチをしたり、メディアのインタビューを受けたりすることが多いのですが、これも非常に勉強になっています。例えば、スピーチには原稿がありますが、そこに説得力を持たせて話せるようになるためには、やはり何度も場数を踏むしかありません。もちろん何事にも準備は必要ですが、自分で十分準備できたと納得したら、後はあまり心配せずにやってみるという潔さも必要なのです。

2018年アフリカ・アラブ地域防災プラットフォーム会合にて

2018年アフリカ・アラブ地域防災プラットフォーム会合にて
写真提供/ UNDRR

また、これまでの仕事を通して実感しているのは、日頃から自分の意見を躊躇なく言える習慣を身に付けておくことの大切さです。日本の教育はどちらかというと減点主義のため、こんなことを言ったら恥ずかしいとか、間違っているのではないかと考え、発言を控えてしまう人が多い。でも、何も言わずに後悔するより、何かを言って失敗した方が、得るものは多いと思います。とにかく自分の意見を言うこと、それが英語でのコミュニケーション能力を高めるために不可欠な一歩です。

今、コロナ禍の中で、一人ひとりの世界がどんどん小さくなっています。そういう時期だからこそ、英語を身に付け、世界中の異なる文化や価値観を持つ人たちとコミュニケーションを図り、多様性を肌で感じることが、今後ますます重要になってくると思います。特に若い方たちには、広い視野を持ち、積極的に国際社会で活躍してほしいと願っています。