Vol.7
    英語学習を通して汎用力を身につけよう

    2022年11月号

    本記事は、大妻女子大学教授、早稲田大学講師 服部 孝彦氏に寄稿していただきました

    服部 孝彦氏 プロフィール

    初等・中等・高等教育を日米両国で受けた元帰国子女。言語学博士(Ph.D.)。米国ケンタッキー州のマレー州立大学(MSU)大学院客員教授等を経て現職。元NHK英語教育番組講師。文部科学省WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)等の、国のグローバル化のためのリーディング・プロジェクトの中心メンバー。主な著書に文科省検定中学及び高校英語教科書ほか、著書191冊、学術誌発表論文139編。日米間を頻繁に往復しながら、米国の大学での講義・講演もこなす。

    Point
    ● 習得した知識を活用する力を身につける
    ● 分析・創造といった高次思考力を身につける
    ● 汎用力に結び付く力を身につける

    英語学習では、知識と技能の習得が基本となります。知識は、宣言的知識(declarative knowledge)と手続き的知識(procedural knowledge)に分けることができます。宣言的知識は事実や原理、概念などに関する知識で、英語学習でいえば、主語が3人称単数現在形のときsを付ける等の文法規則のことです。これに対して手続き的知識とは、文字通り手続きに関する知識のことで、英語学習でいえば、英語を使ってコミュニケーションをするときに三単現のsを付けられるようになることです。英語学習では宣言的知識を学ぶだけではなく、それを手続き的知識にするための言語活動がとても重要になります。言語活動とは決められた表現を使った単なる反復練習ではありません。実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合う活動です。

    従来の英語学習では、手続き的知識を習得する段階で終わっており、学習者に汎用力を身につけさせるレベルまでには至っていませんでした。しかしこれからの時代の英語学習は、この段階で止まっていてはいけないのです。汎用力には知識活用力に加え、批判的思考力や課題設定・課題解決力が含まれます。

    汎用力は最近ではコンピテンシー(competency)と呼ばれることが多く、この力に関する研究は世界中で盛んに行われております。OECD(経済協力開発機構)は2015 年にEducation 2030プロジェクトを立ち上げ、予測困難な時代である2030年の世界を生き抜くために、子どもたちに必要な力は何かについてLearning Compass 2030を発表しています。米国でも複数のプロジェクトが立ち上げられ、コンピテンシーのことを21st Century Skillsと呼んでいます。日本の国立教育政策研究所は21世紀型能力という用語を使っています。心理学からのアプローチでは非認知能力(Non-cognitive skills)という用語が使用されています。呼び方は様々ですが、意味するところは同じで全て汎用力のことです。学習指導要領も、これらの新しい能力観に関する世界の動向を把握した上で作成されております。

    汎用力の中で、21世紀の教育にとても重要な力として4つのCをあげることができます。Critical Thinking(批判的思考)、Creativity(創造)、Communication(コミュニケーション)とCollaboration(協働)です。中でも、これからの英語学習で欠かすことができないのがCritical Thinking とCreativity です。物事をクリティカルに捉え、論理的に思考する力と、従来の枠組みにとらわれることなく、新しい視点から発想する力は汎用力に直結するからです。学習指導要領における学力の3要素は、「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、「主体性・多様性・協働性」ですが、Critical ThinkingとCreativityは「思考力・判断力・表現力」にあたります。

    Anderson & Krathwohl によって修正されたBloom の思考の分類を使うと、思考はLOTS(Lower-order Thinking Skills、低次思考力)とHOTS(Higher-order Thinking Skills、高次思考力)に分けることができます。LOTSは記憶、理解、応用などの思考を表し、HOTSは分析、評価、創造などの思考を表しています。LOTSは正解がある思考法で、従来の日本の英語学習ではLOTS止まりでした。最近のOECD等の考え方を見れば明らかな通り、これからの時代を生き抜くためにはHOTSが大切です。HOTSは深い思考力を駆使するもので、必ずしも正解があるわけではありません。知っている事実や概念を統合して複合的な問題を解決しようとするために英語で議論すればHOTSと英語力が身につきます。例えば、地球的課題である難民・移民問題、地球温暖化等の問題を解決するための議論を英語でしてみてください。英語の検定試験を見てみても、TOEIC S&Wの試験で高スコアを得ようとした場合、HOTSがどうしても必要になるといえます。

    服部氏より英語学習者へのメッセージ

    Education is what remains after one has forgotten what one has learned in school. The aim must be the training of independently acting and thinking individuals who see in the service of the community their highest life problem.
    - Albert Einstein

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