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自己理解を深め視野を広げる留学経験
文部科学省 官民協働海外留学創出プロジェクト トビタテ!留学JAPAN プロジェクトディレクター
荒畦 悟氏
これまでの留学の概念を覆すプロジェクト
「トビタテ!留学JAPAN」は、日本の若者たちの海外留学への機運を醸成することを目指して、13年より始まった留学促進キャンペーンです。20年までに、大学生の留学者数を12万人に、高校生の留学者数を6万人に倍増させることが目標に掲げられました。
このキャンペーンのフラッグシップになる取り組みとして14年に立ち上げられたのが、IIBC様にも支援していただいている「トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム」です。同プログラムでは、20年までに大学生、高校生1万人を留学させることが目標として定められました。しかし期中に、新型コロナウイルス感染症が世界中で猛威を振るったため、プロジェクトは2年延長され、その影響を受け待機していたトビタテ生(奨学生)の派遣を今年度まで行う予定です。さらに、23年度以降も募集形式などの変更を行った上で、継続して実施することになりました。
「日本代表プログラム」の特徴は、従来の留学の概念を覆したことです。留学の目的や行き先、期間などは、本人が自分で計画を作成します。大学などでの学習や研究だけでなく、インターンシップやボランティア、フィールドワークなどを目的とした実践活動経験も留学とみなします。そのため若者たちが作成した留学計画は多種多彩です。
プロジェクトの運営資金や、留学生への奨学金(返還義務のない給付型)は、全て民間の企業・団体、個人からの寄付で賄われています。留学生の選考を行うのは、主に支援企業の担当者の皆さん。選考の際は、学業の成績や語学力は不問となっており、その代わり本人の情熱や好奇心、独自性が強いかどうかが選考基準となります。
留学中、トビタテ生たちは、基本的に自分が立てた計画を実行するために、独力で道を切り開いていかなくてはいけません。ただし希望者に対しては、支援企業の担当者が様々な相談に乗るメンタリング制度が設けられています。トビタテ生同士がSNSを活用して連絡を取り合い、お互いに励まし合うといったことも盛んに行われています。
プロジェクトでは、トビタテ生同士のコミュニティ作りをとても重視しており、事前研修や事後研修などの場で、トビタテ生がお互いのことを知り、関係を深める機会を多く設けています。そのため留学中も孤独に陥ることはなく、また留学後もその関係がずっと続いていきます。
軽やかに国境を越えて行動する人材が育つ
留学から帰って来たトビタテ生と話をすると、「海外経験を通じて大きく成長した」と感じることが数多くあります。
用意されたプログラムではなく、自分で立てた計画に基づいて留学をするため、例えば、実際に現地に行ってみると、予定していたインターン先がなくなっていたなど、予想外の事態をいくつも経験することになります。このようなアクシデントを切り抜けることで、「今後どんな境遇に置かれたとしても、自分なら何とか乗り越えられる」という自信につながるのです。
またトビタテ生からよく聞くのは、「海外に出て、日本とは全く違う価値観や文化の中に入り込むことで、初めて日本や自分自身のことを深く考えるようになった」という言葉です。彼らにとって留学経験は、自己理解を深めるとともに、視野を広げる貴重な機会となっています。
さらに、「現地の人と深く関わるためには、やはり語学力が不可欠であることを痛感した」という感想もよく耳にします。 前述したように、「日本代表プログラム」では語学力を不問にしています。「海外に出るためには、まずは語学ができるようになってから」という多くの日本人が持ちがちな発想が、若者たちの行動力を妨げる要因になっており、できない理由を見付けて行動を起こすことをためらうよりも、情熱や好奇心を優先して、まずは一歩踏み出すことの大切さを伝えていきたいと考え、あえて語学力を不問にしたのです。
実際には、語学力が不十分なまま留学したトビタテ生は、現地で様々な壁に突き当たります。そのため、そのようなトビタテ生は、留学後の方が語学学習に対して真剣になります。
トビタテ生のうち、既に3,000人程度が社会人になっていますが、彼らの好奇心や情熱は止まりません。普通は一度社会に出ると、勤めている会社を辞めてまで海外の大学に長期留学することは勇気がいるものですが、トビタテ生はどんどん留学していくのです。
またある女性は、ヨーロッパの大学に留学して宇宙工学を学んだ後、JAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)に就職し、人工衛星の研究に携わっていました。ところが数年ほど勤めた後にJAXAを退職して、フランスの天文台に留学。そして今は、JAXAの宇宙飛行士の公募にエントリーして、選考に残っているそうです。このように、まるで隣の町に引っ越すような感覚で、軽やかに国境を越えて行動できる人材が育っています。
ただし一方で、社会人になったトビタテ生のうち、約9割が国内で働いているのも事実です。海外企業への就職者が少ないのは、就労ビザの問題もありますが、やはり何と言っても障壁となっているのは語学力です。日本人の語学力の向上をどう図っていくかは、グローバル人材を輩出していく上で、引き続き大きな課題であると言えます。
23年度より「新・日本代表プログラム」がスタート
「日本代表プログラム」は、22年度をもって第1ステージが終了します。この取り組みによって得られた成果の1つは、「日本代表プログラム」型の留学が、国費による海外留学支援の一部に取り入れられることです。国費を用いるため、留学志願者に対して学業成績や語学力の要件が課されるものの、留学生が主体的に留学計画を立てるといった「日本代表プログラム」ならではのエッセンスがそのまま採用されています。このプログラムが若者の成長に大きな効果があることを、国が認めたということだと思います。
そして23年度からは、「新・日本代表プログラム」と名付けた、第2ステージがスタートします。期間は27年度までの5年間です。
第1ステージでは大学生を多く採用していましたが、第2ステージは、高校生を多く採用します。その背景には、大学生と比べて高校生の留学者数があまり伸びていないという実情があります。高校生のうちに一度留学を経験しておけば、大学でもまた留学したいと考えるでしょうし、社会人になってからも、海外に出ることの心理的なハードルが低くなるはずです。限られた財源を有効に活用するという点でも、高校生に投資するのは適切な選択であると思っています。
高校生コースでは、私たち事務局が募集する枠以外にも、全国12地域に留学モデル拠点地域を作り、地元の企業や自治体、高校などから構成されるコンソーシアム(協議会)が募集する枠も設ける予定です。地域にノウハウが伝われば、たとえ事務局がなくなったとしても、継続実施することが可能になります。
また第1ステージでは、合格者に地域格差が生じていました。そこで地方の留学機運を盛り上げるため、一定数の応募があった都道府県からは、合格者を必ず5名は出すようにしたいと考えています。
さらに、「価値イノベーション人材ネットワーク」という事業を新たに立ち上げます。これはトビタテ生のコミュニティを企業や自治体、NPOなどとつなげ、協働で社会課題の解決や社会価値の創造に取り組んでいこうというものです。事業名の通り、価値イノベーション人材を育成することが狙いです。
これらのように第2ステージでは、第1ステージ以上に取り組みを進化させていきたいと考えています。ぜひ私たちの活動に注目し、応援していただければと思います。
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