「人生100年時代」が叫ばれる今、これからの人生を豊かにしていくためには、大人の学び直しが大切になってくると言われています。そのような中、英語の学び直しはどのような役割を担うことができるのでしょうか。
今回の特集では、脳医学から見た英語学習のメリットや効果的な学習法について、東北大学加齢医学研究所教授の瀧靖之氏に話を伺うとともに、中高年になってから本格的に英語学習を始め、現在、全国通訳案内士として活躍されている櫻井篤氏と、キャリアアップに成功された山越真紀氏に、その実体験をお聞きしました。
- 英語学習
- 意識改革
- モチベーション
世界観を広げ、好奇心を促す英語学習が年を重ねても脳の成長を推進する
東北大学 加齢医学研究所 教授
医師・医学博士
瀧 靖之氏
脳の健康状態を保つことがますます大切になる現代社会
現在の日本は超高齢社会だと言われていますが、今後もさらに、平均寿命や健康寿命が延伸していくと思われます。また、私たちを取り巻く情報量は、以前と比べ驚くほど多くなっており、更新されるスピードも加速しています。このような社会においては、新たに何かを学び、実践し続けなければならず、身体の健康は当然ですが、日常生活や仕事に支障をきたす認知症のリスクを軽減しながら、脳の健康状態を保つことがますます大切になってきます。
そのためには、脳の健康に良い影響を与えると言われている生活習慣を身につけていくことが重要で、大きく6つの項目に分けることができます。
1つ目は運動です。特に有酸素運動が良いとされ、少し息が弾む程度の早歩きなどを、週に2、3回行うだけでも有効だと言われています。
2つ目は食事で、これまでに様々な研究がなされ、現在のところ、野菜や果物、魚介類を中心とした食事が良いということが分かっています。
3つ目は、趣味や好奇心を持つことです。脳には可塑性といい、外部から新たな刺激を受けると、それに対応できるよう変化する性質があります。趣味に没頭することによって知的好奇心が湧き、いろんなことを学ぶことで脳が変化するため、年齢を重ねても脳が成長していくのです。
4つ目はコミュニケ―ションです。私たちは会話をしているとき、言葉を発しているだけではなく、相手の表情や仕草、声の抑揚などから相手を理解し、適切な発話をしています。何気なくしている会話でも、感情理解や表情認知、言語理解など、様々な脳の機能を使っているのです。
5つ目が主観的幸福感で、これも脳の健康維持に関係があります。ささやかなことでも、「私は幸せだ」と感じることでストレスが軽減され、記憶をつかさどる海馬や神経細胞を活性化させると言われています。
6つ目は睡眠です。睡眠は肉体の疲れを取るだけではなく、脳の良好な状態を保ち、記憶を固定させる働きをすると言われています。
脳の健康にとってメリットが多い英語学習
これらの生活習慣の中でも、特に私は英語を趣味にされることをお勧めしています。英語を学ぶことで、これまで入手できなかった英語での情報も得られるようになり、海外の人ともコミュニケーションできるようになるなど、世界観が広がり、新たな好奇心も湧いてきます。英語を趣味にすることは、脳の健康にとってメリットが多いのです。
英語学習で大切なのは、楽しんで行うことです。脳には、「好き、嫌い」「おもしろい、つまらない」といった情動をつかさどる扁桃体という領域があり、「好き、おもしろい」と判断すると、快感ややる気を生み出す物質が分泌され、脳を活性化すると言われています。また、扁桃体が刺激されると、海馬にも影響を与えるので記憶が残りやすくなります。例えば、中高年の方であれば人生経験も豊富になっていますので、「この国に行きたい」「字幕なしで映画を見たい」など、楽しく英語を学ぶきっかけはたくさんあるのではないでしょうか。
一方で、私が中高年の方に英語の学び直しの話をすると、「もう若くないから」「記憶力が落ちているから」という答えがよく返ってきます。確かに年齢を重ねるに従って脳の認知機能はゆっくり低下しますが、海馬の神経細胞は、大人になってからでも学習によって増加することが分かっています。何歳になっても記憶力が向上する可能性はありますので、諦めずに、是非、英語学習を続けてほしいと思っています。
英語の学び直しはスモールステップで始める
中高年の方が英語の学び直しをする際、私がお勧めしたい学習法は、最初にリスニング、次にスピーキングの順で進めていくことです。これは子どもたちが言語を覚え、物事を習得していく過程と同じです。
リスニングでは、読書でいう「乱読」と「精読」のように、「乱聴」と「精聴」を繰り返すことが大切です。最初は、英語の音声を大ざっぱに聞き、次に細かい部分までじっくりと聞きます。例えば、アメリカ英語なら、ピーナッツバターが「ピナバラ」のように聞こえることがありますが、英語の話し言葉には、Tの音がLに変わったり、子音が飛んだりするといったルールがあります。精聴するときは、文字を読みながら音声を聞くことで、こうしたルールも理解できるようになっていきます。
スピーキングでは、基本的に聞いた音声の真似をしていきます。「まなぶ」は「まね(真似)ぶ」と言われるように、スポーツや楽器演奏でも、模倣の力で能力を身につけていくものです。英語学習であれば、好きな映画を見て、会話しているシーンをそのまま真似をするのも1つの方法だと思います。
また、英語学習に単語力は欠かすことができません。若い頃、単語を機械的に丸暗記した方が多いと思いますが、それよりは、何かと結びつける「連合記憶」を使った方がより効果的だと言われています。例えば、語源から連想することも1つの方法です。単語に関連した場所をイメージしたり、歌にして覚えたりするのも良いでしょう。これまでの人生経験の中にある記憶と結びつけて覚えるのが、大人ならではの効率的な学習法だと思います。
一方、学習を始めて1カ月も続かなかったという話をよく聞きますが、本来人間は、三日坊主で投げ出してしまいがちな生き物ですので、自分には忍耐力がないとか、意志が弱いなどと思う必要は全くありません。
そのような方は、スモールステップ、つまり少しずつ進めていくことをお勧めします。人間の脳には現状を維持することを快適に感じる「現状維持バイアス」という性質があり、日々の生活に新しい何かを加えようとすると、排除しようとする傾向にあると言われています。この現状維持バイアスを乗り越えるために、スモールステップが有効なのです。例えばギターの演奏であれば、まず3小節だけの練習を続け、できるようになったらもう少し長く……ということを繰り返します。すると、個人差はありますが、数カ月でギターを弾かないと「なんだか気持ちが悪いな」と思うようになっていきます。これは、練習が習慣化して、やらないと不快に感じる、逆の現状維持バイアスがかかった状態です。例えば英単語を暗記するときは、最初から何十個も覚えようとせず、1日1、2個から始めるようにするといいでしょう。
明確な目標を立てることも大切です。例えば、「TOEIC Testsで何点取ろう」といった明確な目標があると、日々の選択をする際に、無意識のうちにその目標に近づくための選択をするようになります。
また、「これができれば、こんなに良いことが待っている」というマインドセットを持てば、モチベーションも維持できます。「TOEIC Testsのスコアが上がったら昇進する」「英語を話せるようになって、海外の人と話をする」などと、目標の先にある自分の姿をイメージしながら、英語学習を楽しんでください。
繰り返しになりますが、何歳になっても記憶力は向上していくと言われていますので、中高年の方は是非、諦めずに英語の学び直しに取り組まれ、これからも豊かな人生を歩まれてください。
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