プロ野球選手
川﨑 宗則さん
1981年鹿児島県生まれ。鹿児島工業高等学校卒業後、2000年に福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)に入団し、12年にアメリカ・メジャーリーグベースボール(MLB)のシアトル・マリナーズに移籍。トロント・ブルージェイズ、シカゴ・カブスなどを経て、20年よりベースボール・チャレンジ・リーグ(BCリーグ)栃木ゴールデンブレーブスへ入団し、現在も現役選手として活躍中。著書に『閃きを信じて』(ぴあ)、『「あきらめる」から前に進める。』(KADOKAWA)など。
30歳のとき、アメリカ・メジャーリーグベースボール(MLB)のシアトル・マリナーズに移籍したプロ野球選手の川﨑宗則さん。
英語が話せないにもかかわらず、通訳をつけずに人生初の海外生活を始められました。そこでたどり着いたのが、“20点の英語力があれば、相手の助けを借りながら、気持ちは十分に通じ合える”という考えだったそうです。
相手の助けを借りれば20点の英語力でも気持ちは十分に通じ合える
イチローさんに憧れてアメリカ・メジャーリーグベースボールに移籍
僕の人生は野球抜きには語れません。小学生の頃から野球が大好きで、18歳のときドラフト指名され、2000年に福岡ダイエーホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)に入団しました。その翌年、憧れの存在だったイチローさんが、MLBのシアトル・マリナーズに移籍したのを知り、「そうか、日本でなくアメリカでも野球ってできるんだ」と初めて海外を意識しました。それからは、いつかイチローさんと同じチームで野球がしたいという思いをずっと持ち続け、海外FA権を獲得すると即、マリナーズへの移籍を決めました。
“メジャーリーグに挑戦” という言い方をよくしますが、僕に限って言えば挑戦という気持ちはなくて、せっかくの人生だから、知らない世界に飛び込んでいろんな経験をしたい、そして何より、イチローさんの野球を間近で見たいというのが、渡米の大きな動機でした。
30歳で人生初の海外生活。英語は全然できないけれど、通訳はつけませんでした。本来なら言語のストレスは極力減らして、野球のパフォーマンスを最優先するのがプロの姿だと思います。でも僕は、野球はもちろん一番大事ですが、外国の文化を肌で楽しみたかった。それに言葉が通じなくても、心が通じれば何とかなるという自信がありました。
とは言うものの、実際に現地で生活を始めてみると、「あれ? やっぱり通訳が必要だったかな」と後悔したことは何回もあります。掲示板の案内がよく分からず、自分に関係ない初級者向けのミーティングに連日参加してしまったり、試合当日に1人だけ違う球場に行ってしまったり、とにかく大失敗の連続でした。さすがに少し英語を勉強しようと、一時帰国したときには妻と2人で英会話教室に通いました。ただ、僕のレッスンは専らヒーローインタビューの受け答えの練習でしたけどね。それは後日、本番で役に立ったので結果オーライです。
コミュニケーションはキャッチボールと同じで相手と一緒に作りあげるもの
有り難かったのは、僕が何か困っていると、いつも必ず周りの誰かが「大丈夫か?」と声をかけてくれたことです。そこで僕がたどり着いたシンプルな答えは、「分からなければ聞けばいい!」。しかも、満点の英語を目指さなくていいんです。100点なんて取れなくても、20点の英語ができれば、後の80点は相手がカバーしてくれます。コミュニケーションはキャッチボールと同じで、自分だけではなく、相手と一緒に作りあげるものなんだと考えるようになったら、肩の力が抜けすごく楽になりました。
そもそも、どんなに英語が流ちょうでも、その人が感じの悪い人だったら、誰も関係を深めようとはしませんよね。逆に言葉が通じなくても、日頃接していて、この人いい人だなと思えば、自然と気に掛けるし、助けたくなるものです。一つひとつの小さな行動や誠実な態度の方が、実は言葉より大事なんだと思っています。
チームの仲間とは本当に仲良くなって、よく一緒に飲みにも行きました。みんなワイワイと早口で英語を話すけど、よく聞いていれば、「多分、こういうことを言っているな」というのが何となく分かるのです。それで僕も一所懸命に集中して、自分の中にある単語をかき集め、パパパッと何か言う。それは文法も正しくないし、二度と同じことは話せない僕オリジナルの即席英語です。でも、それで十分会話はできるものです。
僕たちが日本の学校で習う英語は、確かに正しい英語でしょう。ただ、音楽に例えると、それはクラシックや懐メロのようなものです。時代とともに、ロックやヒップホップといった新しい音楽が次々と生まれてきたように、英語だってどんどん進化し、日々変わっているのです。だから難しく考えるより、いっそ自分たちだけの新しい言葉を作ってしまえばいいと思っています。僕はよく挨拶がわりに、“Hey, whatʼs up Sushi?” “Yeah, Iʼm Tuna!” なんてやっていましたが、それでお互い気持ちが通じ合っていました。これぞ最先端のコミュニケーションではないでしょうか。
英語に本気で興味があるのならできるだけ早く海外に行った方がいい
日本とアメリカでは、野球の文化も全然違いました。日本は指導者を中心に組織としての協調性が求められますが、アメリカでは選手一人ひとりが自律していて、それぞれが考えて行動します。各自が好き勝手にやるので、正直、野球の試合では統率されにくい面もあります。ただ、野球のユニフォームを脱いだときには、その自律が必ず活きると思うのです。少なくとも僕にとっては、誰かの指示を待つよりも自分で動いて仕事を見付けていくという姿勢は、とても新鮮で勉強になりました。そんな風に自分の価値観が広がっただけでも、アメリカに行って良かったと感じています。
僕はときどき、中学校や高等学校に呼ばれて講演をします。そこでよく「どうしたら英語を話せるようになりますか」と聞かれるのですが、僕は「本気でそう思うなら、できるだけ早く海外に行きなさい」と答えています。日本にいて今の環境に満足なら、そもそも英語を身につける必要なんてないかもしれません。ただ、もし少しでも外の世界に興味があるのなら、狭い教室で悩んでいるだけではもったいないじゃないですか。
興味を持つきっかけは、「大谷選手の試合を生で見てみたいな」でもいいんです。チケットを買って、海外の空港に着いたときから、未知の体験の始まりです。ホテルへ行く途中で道に迷うかもしれないし、球場で隣の人から突然ハンバーガーをもらうかもしれません。人生は、予期せぬことが次々と起きるから面白いのです。そのような状況になったら、あなたは頭と五感をフル回転させ、必死に英語を話すでしょう。そのとき、完璧な英語でなくても、思いを伝えることができることに、きっと気付くはずです。
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