株式会社アイ・シー・シー 代表取締役
千田 潤一 氏
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インディペンデント・ラーナーを育てるにはモチベーションを高めるノウハウが必要
英語教育のコンサルティングを行う、株式会社アイ・シー・シー代表取締役の千田潤一氏は、長年、企業の英語研修に携わり、英語教員や企業などに対して多くの講演を行う一方、文部科学省の「英語が使える日本人」の育成のための英語教員研修講師も務めていました。
企業の英語研修の変遷を振り返っていただきながら、今後必要になる企業の英語研修と、TOEIC Programが40年間果たしてきた役割について話を伺いました。
1980年代から普及した、自社に講師を招く社内英語研修
日本の企業やビジネスパーソンの間で、英語学習の重要性が認識され始めたのは、今から約半世紀前の1970年前後にまで遡ります。当時は「国際化」という言葉が使われ出した頃で、まずは商社が世界に飛び出し、自動車や電機などのメーカー、金融機関がこれに続きました。
しかしこの頃はまだ企業の英語研修制度は整備されておらず、完全な「独学」。その内容も、海外から送られてきたテレックス(電話回線を使用した記録通信方式)や英文レターを和訳し、海外に送るための和文を英訳するなど、訳読・訳書の学習が中心でした。
やがて75年頃から、国際舞台の第一線で働く従業員を、企業もきちんとサポートしていかなければならないという気運が高まっていきます。この頃から、海外に赴任する従業員を研修機関に派遣して、集中的にトレーニングする「委託研修」が始まります。研修にかかる費用は、企業がかなりの部分を負担するようになり、学習内容も英会話を中心にしたものへと変わっていきました。
80年代に入ると、自動車生産台数がアメリカを抜いて世界一になるなど、日本製品が世界の市場を席巻。日本企業の海外進出の動きが更に加速します。時代のキーワードも、「国際化」から「グローバル化」へと変わっていきました。
企業では海外要員の育成が急務となり、これまでは一部であった英語研修の受講対象を一気に拡大し、全社的に英語力を高めていくことを目指した「ボトムアップ」に突入。また、自社に講師を招いて講義を行う社内英語研修が一般的となり、その費用は企業がほぼ全額を負担しました(会社丸抱え研修)。更に、英語だけでなく、様々な国の文化や商慣習についても学ぶ、異文化研修も実施されるようになりました。
この時期には、ビジネスパーソンの英語学習法を大きく変える“発明”もありました。その1つが79年にソニー株式会社から発売された「ウォークマン」です。これにより電車などでの移動時間にも英語の勉強ができようになりました。
もう1つの大きな出来事は、同じ79年にTOEIC L&Rが始まったことです。英語学習者はTOEIC L&Rを通じて、自己の英語力を客観的に把握した上で目標を設定。その目標を達成できたかどうかを、再びTOEIC L&Rで検証するといったことができるようになりました。
つまりこの時期に、ビジネスパーソンは会社の研修に頼らなくても、英語をある程度自己学習することができる環境が整っていったのです。
バブル経済が崩壊し、英語研修は費用折半型に
日本経済は90年代に入ると、バブル経済が崩壊。後に「失われた20年」と呼ばれることになる、経済の長期停滞に陥ります。英語研修も、経済状況の悪化と無縁ではありません。95年頃から研修予算が大幅に削減されるようになり、研修費用を企業が丸抱えで負担するのが困難になりました。こうして始まったのが「費用折半型研修」でした。
企業は従業員に対して、例えばTOEIC L&Rのスコアが450点や600点といった一定レベルに達するまでは、自己負担で英語学習することを求めました。そして条件をクリアした従業員に対して、費用面でのサポートを行うようになったのです。その意味では、企業研修に「ボトムカット」という考えが入り込んできたと言うことができるでしょう。
更に2000年代に入ると、企業による英語研修と従業員自身の自己学習をミックスさせた、「MIX型研修」へと移行していきます。週1回2時間の研修を受けると、半年間で受講時間は約50時間となりますが、十分な学習成果を出すためには、少なくとも200~300時間の学習時間が必要だと言われています。研修の時だけ学習しても、英語力が伸びることはありません。そこで従業員に対して、研修の受講とともに、自己学習の時間もしっかりと確保することを課すようになったのです。
次に、受講者をTOEIC L&Rのスコア別に分けたり、プレゼンテーションやネゴシエーション、ディベートといったスキル別・目的別に分けて研修を実施したりするなど、「研修の体系化」が始まりました。スキル面では、インターネットの普及により通信手段がe-mailに変わってきたため、送られてきた英文のメールを即座に読んで返信する、「速読・速書」の力が求められるようになっていきました。
企業規模に関係なく広がる英語研修のニーズ
ここまで1970年前後から2000年代前半にかけてのビジネス環境の変化と、その中での英語研修の変遷をざっくりと振り返ってきました。では2000年代後半から現在にかけては、どのような変化が起きているのでしょうか。
まず顕著な変化は、英語研修を実施する企業の裾野が広がっていることです。これまで英語研修は大手のグローバル企業を中心に行われてきましたが、現在では大手企業の関連会社や下請け会社、孫請け会社も実施するようになっています。これを縦への広がりとすれば、「あの会社がやっているのならうちも」ということで、競合他社の動きを見ながら新たに英語研修を実施するといった、横への広がりも進んでいます。それだけどの企業においても、グローバル化が進む中、従業員の英語力を伸ばす必要性が高まっていると言えるでしょう。
ちなみに10年代に入ると、楽天株式会社や株式会社ファーストリテイリングが、社内での英語公用語化を打ち出し大きな話題となりました。しかし、企業における英語公用語化ブームは、それ以前も何度か起きています。第1次ブームは1970年前後に外資系企業を中心に、公用語と言わない実質的公用語化が、第2次ブームは2000年前後に、SMK株式会社や日産自動車株式会社、日本精工株式会社といった企業が、社内共通語や社内公用語という言葉を使うようになりました。
企業が英語公用語化を導入する理由としては、海外企業とのやりとりが増えているほかに、オフィスに1人でも外国人が働いていれば、英語でコミュニケーションをとったほうがスムーズにいくからです。今後は同じオフィスで外国人の同僚と働くケースがますます増えていくと思われますので、英語公用語化の動きもブームではなく、当たり前のものになり、やがて公用語という言葉が自然に消えていくのではないでしょうか。
また英語研修に対するニーズは、従来であればほとんど研修が行われてこなかった旅館や飲食店、タクシー会社といったサービス業にも広がっています。背景にはこれらの業界において、インバウンド需要の拡大とともに、海外からのお客様に応対しなくてはいけない場面が急増していることが挙げられます。私はこうした業界を総称して「おもてなし業界」と呼んでいます。
おもてなし業界では、グローバル企業の第一線で働いているビジネスパーソンのような、TOEIC L&Rのスコア900点レベルの英語力は必要とされません。相手が話している内容を、何度か聴き返しながらでも理解することができ、簡単な情報のやりとりや意思疎通ができれば大丈夫です。TOEIC L&Rのスコアでいえば、500〜600点あたりをゴールとして設定した研修が求められています。
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