これから必要なのはモチベーションに配慮した研修

現在の企業による英語研修には、いくつかの課題があると私は感じています。
今、多くの企業では、「英語の勉強は従業員が自己責任で行うべきだ」といった考え方が強くなってきています。かつて1980年代には、企業が研修費用の全額を負担し、手厚い支援を行っていた時期がありました。しかしどんなにサポートしても、本人にやる気がなければ英語力が伸びることはありません。会社は従業員に対して、用意されたレールの上で勉強をするのではなく、課題意識を持ち主体的に英語学習に取り組む、インディペンデント・ラーナー(自立した学習者)になることを求めています。
この考え方自体は、間違ってはいません。しかし、単に自己責任で英語を学習することを求めるだけでは、たくさんの英語難民を生み出してしまう危険性があります。
従業員が独力で英語学習を行う環境は、ウォークマンが登場した頃と比べると格段に整っています。ハード面では、カセットテープからCD、MD、スマートフォンへと、軽量化や小型化が進んで使い勝手がよくなり、ソフト面でも様々な教材が発売されています。またEラーニングによる英語学習も一般的なものとなりました。

ハードウエアやソフトウエアが目覚ましい進化を遂げている一方で、50年前と全く変わらないのが、英語学習者の「心」の部分へのケアです。英語初・中級者の中には、「英語の習得は自己責任で」と言われても、勉強の仕方自体が分からない人が少なくありません。今の時代は英語学習のためのツールがあふれているからこそ、逆に何をどう活用すればいいのか、途方に暮れてしまうことになるのです。
こうした従業員を「英語学習は自己責任だから」と突き放してしまうのは、企業にとってもマイナスです。TOEIC L&Rのスコアが400点以下の層の中に、「英語はできないが、そのほかの面では高い業務遂行能力を持っており、本来であればグローバルシーンで活躍してほしい人材」が埋もれている可能性があるからです。
そこで私は、彼らのモチベーションを上げるノウハウとシステムである「ハートウエア」が、今後は重要になってくると考えています。具体的には「学び方研修」や「自己学習法研修」、「やる気アップ研修」といった研修に対する需要が高まってくることになると思われます。
私自身は、カウンセリングを取り入れた研修を実施しています。まず効果的な学習法を体験するセミナーを実施し、受講者のモチベーションを高めます。その上で、受講者各自に自分のTOEIC L&R IPテストのスコアとトレーニング時間の目標を設定してもらいます。その後はスコアのレベル別にグループを編成し、速聴、速読、語彙、文法力の各スキルを伸ばすためのトレーニング方法についての演習を研修の中で行い、同時に自己学習にも取り組んでもらいます。
また研修期間中には、スタート時だけではなく中間時や終了時にもTOEIC L&R IPテストを実施。受験することで、受講者はこれまでの学習成果と現時点での課題を確認できますし、TOEIC L&R IPテストに向けて、英語学習のモチベーションを維持していくという効果もあります。そしてテスト後には、受講者の学習上の悩みについてのカウンセリングを実施し、ここでもまた受講者のケアを行います。
こうした丁寧な指導によって受講者一人ひとりを、自ら高い意欲を持って英語学習に臨み、自らの力で英語力を向上させていくインディペンデント・ラーナーに育てていくことを目指すのです。

ちなみに最近の研修では、速聴や速読のトレーニングを多く取り入れていますが、これまでの企業英語研修では軽視されてきました。しかし私たちは、自分の耳で聴き取れる英語しか話すことはできません。また読めるスピード以上の英語は聴き取ることができませんし、読めない英語は書くこともできません。スピーキングやライティングの力を身に付けたいのなら、その土台となるリスニングやリーディングの力も養っていく必要があり、これも今後の企業研修の大きな課題であり盲点となっています。
更に加えるならば、日本人が苦手としている「英語でユーモアのある表現をするトレーニング」も、ぜひ研修の中に取り入れたいところです。

日本企業のグローバル化に対し、伴走者としての役割を担う

最後に日本企業の英語研修において、TOEIC Programが果たしてきた役割について見ていきたいと思います。
一番の功績は、TOEIC Programのスコアが、企業の研修担当者、講師、受講者にとって共通の物差しになったことです。スコアによって受講者の英語力を正確に把握することが可能で、目標設定もスコアですることができるようになりました。また研修や学習の成果も、スコアを分析することで検証することが可能です。79年にTOEIC L&Rが開発される以前は、共通の物差しがなかったことを考えると、これは画期的だったといえます。

また80年代以降、企業のグローバル化が進行する中で、TOEIC L&Rはその伴走者としての役割を担ってきました。企業が従業員を海外出張や海外駐在させる際には、TOEIC L&Rで一定以上のスコアをクリアしていることが条件とされ、やがてスコアを昇進昇格などの要件に盛り込む企業も増えていきました。企業はTOEIC L&Rを通じて、従業員の英語力の向上を図ろうとしたのです。元々はTOEIC L&Rの開発に関わった人たちの一番の願いは、「このプログラムを英語学習のモチベーションアップのために用いてほしい」というものでしたので、このような動きは本来目指してきたこととも合致しています。
更に、企業のニーズに耳を傾け、改革改善に取り組んできました。例えば「英語学習初・中級者のレベルをより正確に測ることができないか」という声に対して、TOEIC BridgeTestを開発。また「実際のビジネスの現場で使えるスピーキング力やライティング力を、より正確に測ることができないか」という声に応えるために、TOEIC S&Wをスタートさせました。更にe-mailの普及といったビジネス環境の変化を、テスト問題の内容にも即座に反映させるなど、実践的な英語力を測るためのテストであろうとする努力を愚直に続けてきたことが、企業から高い評価を受けている大きな理由であると考えています。

TOEIC Programはこれまでの歩みの中で、例えば英語学習時間とスコアの伸びの関係性など、膨大なビッグデータを集計することができるはずです。今後はこれらのデータをより分かりやすい形で示すことなどによって、英語研修のプログラムの充実や、受講者の英語力の向上に、更に貢献されることを期待しています。

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