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【対談】グローバル社会の第一線で活躍するために必要な英語力とは
AIツールなどの登場により、ビジネスや英語学習の環境が大きく変化する中、ビジネスパーソンが実感する英語力が、15年以上向上していないのはなぜなのか――。そのような素朴な疑問に端を発し、一般社団法人大学英語教育学会(JACET)とIIBCが共同で調査研究(「2022年調査」)を実施しました。本特集では、調査研究に参画したIIBC執行理事の永井聡一郎が、本調査研究を統括するJACET 特別顧問/高千穂大学学長の寺内一氏をお迎えし、今回の結果から導きだされた、グローバル社会の第一線で活躍するために必要な英語力や、習得のためのポイントなどについて語り合いました。
ビジネスコミュニケーションに必要な英語力その成長の糸口とは
永井 寺内先生をはじめ、関係された皆様のご尽力により、この度、JACETとIIBCの共同研究(2022年調査)の結果が書籍化され、『ビジネスコミュニケーションのための英語力~英語の壁を打ち破ったビジネスパーソンの成長要因~』(朝日出版社)と題して刊行されます。今回の調査研究は、過去2回の大規模調査が前提となっています。
寺内 06年に行った調査では、ビジネスパーソン7,354名から得た回答を基に、日本人が国際交渉を行う上で必要な英語力の全体像を把握しました。そこでは国際交渉に必要な英語力の理想と現実にはギャップが存在することが確認されました。次に13年の調査では、英語による会議にテーマを絞り、会議の中でどのような困難があるのかを、909名の国際業務に携わる管理職に調査しました。そこから見えてきたのは、職位や役割などに応じて、直面している困難や求められる英語力に違いがあるということでした。
永井 職位が上がり役割が複雑になるほど、英語力だけではなく、プラスαの要素が重要になってくるということでしたね。ただ、その具体的な内容や成長への解決策というのは次の研究課題として残る形になりました。
寺内 はい。そこで今回は、英語力の言語的要素だけに焦点をあてず、まずはビジネスコミュニケーションの全体像を捉え、その上で求められる英語力とは何なのかを多角的に分析することにしました。そうすることで、英語の壁を突破し成長していくための解決策を提示し、具体的な行動を起こしていくきっかけとなるものにしたいと考えました。
永井 この10年、20年を振り返ると、英語のニーズは企業の中でも様々な部署に広がり、職場には外国人の方が増え、リモート会議で海外とつながるのも当たり前になってきました。そうした時代の変化も、今回の研究に反映されていると思います。
第一線のビジネスパーソンたちは英語の壁をどう乗り越えてきたか
寺内 本書で英語力の指標として用いたCEFR(セファール)は、外国語の習熟度や運用能力を示す国際標準指標です。基礎段階のAレベルから一番上の熟達度のCレベルまであり、ビジネスパーソンについてはB1とB2の間の「壁」が大きい。この壁の突破こそがビジネスコミュニケーションに必要な英語力のブレークスルーとも言えます。B1とB2の違いを端的に言うと、B1は自分の言いたいことが言えればいいレベル。一方、「相手」の存在を常に意識した的確なコミュニケーションを図れるのがB2です(図表1参照)。そのため、壁を乗り越えるには従来的な英語学習だけでは難しく、英語力の「質的な転換」といったことが求められます。
永井 本書では業務や役割の複雑さに応じて、ジュニア・シニア・エグゼクティブという区分が示されていますよね。初歩的業務を担うジュニアであれば、一方的な要求事項の伝達や定型的なやり取りがこなせるB1レベルでいいのですが、シニア以上になるとファシリテーターとして会議をまとめたり、誰かと議論や交渉をしたりしなければなりません。そのためには「相手」の興味や関心を読み取って、それに応じて話を組み立てていくB2レベルの英語力が必要になってきます。実際、私自身もそこまでいくのは非常に大変でした。
寺内 今回は永井さんにも、ご自身で壁を乗り越えた1人としてインタビュー調査に答えていただきましたね。
永井 私個人の話をすると、当初、英語は得意な方ではなかったので、初めての海外出張では最低限、自分が伝えるべきことだけ伝えようと原稿を暗記していきました。ところが現地では、そもそも相手が何を言っているのか全く理解できなかったのです。何かを伝えるためには、まず相手の言うことを正確に理解するのが大事なのだと思い知りました。
そこで、自分のビジネスフィールドであるテスト業界でよく使われる単語や言い回しを集中的に学習したところ、だんだん相手の話の内容が理解できるようになりました。さらに何度も会って、相手が何に関心を持ち、何を重視しているのかを知ると、それに応じて何をどう伝えればいいかが分かってくる。そういったことを苦労しながら体感として徐々に学んでいった感じです。
寺内 そのように第一線のビジネスパーソンたちは、個々に大変な努力をしてB1からB2への壁を乗り越えているわけです。しかしそれは暗黙知であり、ほかの人は知ることができませんでした。実は今回の調査研究の最終ゴールはそうしたノウハウなり要点を蓄積して体系化し、これから壁を越えようとする一人ひとりに、その人に合った最適な学習方法を提示できる言語学習プラットフォームを作り上げることなのです。
永井 それが実現すればこの調査研究は、学習して学んだことと実際のビジネスの現場で求められる力の懸け橋になると思います。英語を学習していく中でリアルにつまずくポイントや、それをどうやって乗り越えていくかというエッセンスを目に見える形にすることで、より実践に直結した英語学習ができるのではないでしょうか。
「ジャンル」を意識することが重要
寺内 コミュニケーションには必ず、目的(Purpose)、相手(Audience)、内容(Information)があって、それによって形式・伝え方(Language feature)が変わります(図表2参照)。これらの頭文字をとった「PAIL」を常に念頭に置くことが大事です。例えば商談相手に、「ねえ、この製品買ってくれる?」などとは言いませんよね。目的や相手、内容によって言葉の形式や伝え方が違うのは、日本語でも英語でも同じです。ところが英語教育ではそういうことをあまり教えていません。B1とB2の壁も、実はこの意識の差が非常に大きいのです。
寺内 その点で、私が注目しているのがTOEIC Programです。TOEIC Programの問題は、例えばドキュメント自体が何かの「ジャンル」になっているものが多い。ビジネスメールや注文書だったり、レストランのメニューや豪華クルーズの案内パンフレットだったりして、その内容や形式も非常にリアルに作られています。TOEIC Programを、ただ点数を取るためのテストではなく、「ジャンル」という視点で捉えなおして、「この読解問題はどんな目的で、誰に向けて、何を一番言いたいのか」といったことを意識するだけでも、自分の英語力のブレークスルーを図ることができるのではないでしょうか。
永井 ありがとうございます。大学の先生方からは、例えばホテルのチェックイン場面を経験したことがない学生さんにとっては、TOEIC Programの問題がそのシチュエーションを疑似体験できる機会になっているという話をよく聞きます。先日もある金融機関の方が、「実際の業務で扱ったビジネス文書が、TOEIC Programの問題で見た内容にそっくりだったのでスムーズに理解できた」とおっしゃっていました。
寺内 例えばTOEIC L&Rのリスニング問題で、飛行機の機長の機内アナウンスがありますよね。機長のアナウンスのパターンは決まっているので、TOEIC L&Rの受験に向けた学習を通して、そのパターンが頭に入っていれば、実際の海外出張時に、「この飛行機が何便で、どこの空港に向かっているのか」くらいは聞き取ることができるわけです。そういった意味で「ジャンル」を知って意識することは、ビジネスの現場でも役立つと思います。
AIが進化しても英語力は必要
永井 また近年、AIツールと英語力の関係についてもよく話題になります。実際、既に多くの企業やビジネスパーソンが機械翻訳を業務に取り入れて活用しています。私は、AIは上手に利用していけばいいと思っています。一方で、内容のファクトチェックや、コミュニケーションの目的・相手に合わせた表現になっているかなどの確認は今後も人が行う必要があると考えています。そして、そのためには一定の英語力が必要です。
寺内 AIを否定するのではなく、うまく取り入れながらやっていくのが現実的な方向性ですよね。特に機械翻訳の精度は非常に上がってきています。学生が英語で論文を書く際、機械翻訳の使用を認めている研究室も増えていて、その際には翻訳ができるだけ正確になるよう事前に日本語を並べ替えたり、異なる翻訳ソフトにかけ両者の結果を比較するといった工夫をさせていて、学生たちが機械翻訳と上手に向き合う方法を身につけるプロセスにもなっています。
永井 ただし、現状の技術進化を前提にしたとき、ビジネスコミュニケーションにおけるAIの活用には難しい面もあると感じます。ビジネスは競争です。例えば会議で色々な国の人たちが英語で 侃々諤々 と話をしている中で、日本人だけが機械翻訳を通すことでワンテンポ遅れて参加していたら、絶対に競争には勝てない気がします。
寺内 コミュニケーションには、準備に時間をかけられる静的なものと、瞬時に反応しなければいけない動的なものがあります。その点では、少なくとも現時点での機械翻訳や生成AIの技術力では、丁々発止の議論や交渉といった動的コミュニケーションへの対応は難しいかもしれません。これは、ビジネスパーソンの成長段階にも関わる話です。初歩的な業務を担うジュニアであれば、メールなどの静的なやり取りが多く、その内容もシンプルかつ明確なので、機械翻訳を使うことで英語力の不足をカバーできるかもしれません。しかし、シニアやエグゼクティブになると、会議の交渉や会食での信頼関係構築など、動的コミュニケーションの頻度が高まります。内容も複雑で抽象的な適応課題が中心となるため、AIツールだけでは解決できないことが格段に増えると思います。ですので、ジュニアの時点で、ツールに依存し英語力の向上を止めてしまうことは、その後の大きなリスクをはらんでいると言えるでしょう。
永井 AIが進化しても、英語力を身につけることは不可欠だということですね。
ビジネスを成就するために必要な英語とは
寺内 今の話にも関連しますが、今回の調査研究の結果を基に、私は新たな成長モデルをベースとした「言語学習プラットフォーム」の構築を考えています(図表4参照)。仮にそのモデルを三次元とすれば、X軸に「静的な環境における言語能力」、Y軸に「動的な環境における言語能力」、Z軸には「英語力や業務経験値など」をとり、そこに今回ヒアリングした結果を踏まえ、ビジネスパーソンたちが壁を乗り越えた方法やポイントなどをマッピングします。さらに今後、他の専門分野の方々にも協力してもらって自己診断用の質問項目を作成する計画です。学習者がその質問に答えてデータを入力すると、ビジネスコミュニケーションに必要な英語力について、その成長過程における自分の立ち位置が分かり、次に行うべき最適かつ具体的な学習の内容や方法が提示されるような仕組み作りを目指しています。世の中には無数の英語教材がありますが、それらもこのプラットフォームに落とし込めば、学習者の状況に応じて最適な教材を提供できるようになるはずです。これを実現するためには、教育界、産業界といった垣根を越え、あるいはアジアなどの諸外国とも連携しながら、さらに広く深く研究を進めていくことが肝要でしょう。
今回の調査研究で印象的だったのは、インタビューした方たちが、皆さん「重要なのは英語の正しさではなくビジネスの目的を果たせるかどうか」と言っていたことです。ビジネスの場面では、文法的に正確な英語を話せるだけでは不十分。ビジネスを成就することを第一の目的にしたとき、本当に必要な英語力を身につけるためのお手伝いができればいいと思います。
永井 本書は、国際的な業務に携わるビジネスパーソンがどのように自身の英語の壁を乗り越えてきたのか、その成長要因を、産学連携の調査研究を通して可視化した、日本で初めての書籍となります。この貴重な知見が、IIBCの基本理念でもある「人と企業の国際化」の推進につながることを心から願っています。
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