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小林裕亮氏「地球の周りのゴミを掃除し、持続可能な宇宙環境を築く」

地球の周りのゴミを掃除し、持続可能な宇宙環境を築く

人類が宇宙開発に乗り出してから60年以上が経過し、宇宙空間で地球の周りに存在するゴミ(スペースデブリ)は大小合わせれば1億個以上にも及ぶといわれ、問題が無視できなくなりつつある。株式会社アストロスケールは、スペースデブリを除去するという壮大なミッションを掲げて世界からも注目を集めるベンチャー企業。同社にミッション・システムズエンジニアとして勤務する小林裕亮さんは、「さまざまな国から集まったチームメートと共に難題解決に挑むことが楽しい」と言う。そんな小林さんに、宇宙に対する思いと日々の仕事への向き合い方について語っていただいた。

プロフィール
小林裕亮(こばやし・ゆうすけ)
マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科において修士号取得後、日本電気株式会社(NEC)の宇宙事業部門で衛星システムズエンジニアとして勤務。地球観測衛星を主として、人工衛星の設計から製造試験、軌道上運用を含むライフサイクル一貫に携わる。海外のロケットサービスや地上局プロバイダとの技術調整も実施。現在はスペースデブリの除去・軌道上サービスを事業とするアストロスケールで、ミッション・システムズエンジニアとして働く。ランデブ技術が要となる、スペースデブリ除去サービスの人工衛星の設計に従事。さまざまな国籍やバックグラウンドを有するチームメートと、2020年打上げ予定の技術実証プロジェクトをリーダーの1人として推進。

目次

  • コミュニケーション力
  • 多様性活用力

アメリカでの就職にこだわるより、学んだことを生かせる環境に進む

  MITを卒業したのは2009年ですが、できればそのままアメリカに留まり、宇宙関係の仕事に就きたいと思っていました。しかし、そのためにはとてつもなく高い壁を越えなければなりません。

 宇宙関連の産業は軍事や安全保障に大きく関わってくるものが大半ですから、技術や情報の国外流出防止のため、そこで働く人はアメリカ国籍がほぼ必須条件となります。実際、私も数社にコンタクトして就職活動を行いましたが、芳しい結果は得られませんでした。国籍に準じるものとして、アメリカ永住権(グリーンカード)を取得するという方法もありますが、その前提条件として、学術や技術の分野で働きたいなら最低でも博士号 (Ph.D.)は取る必要がある。加えて、その分野で権威のある教授などの推薦状も複数求められます。これらの諸条件をクリアするには相当な時間がかかります。

誰も取り組んだことのない宇宙空間でのミッションにチャレンジする会社に深い興味を覚えたという小林さん。

誰も取り組んだことのない宇宙空間でのミッションにチャレンジする会社に深い興味を覚えたという小林さん。

 「アメリカでしかできないことがある」という信念をもっている人なら、どれだけ時間がかかったとしても国籍や永住権を取得する道を選ぶ価値はあるでしょう。実際、私の友人にも、そういう選択をした人が何人もいます。しかし、私自身はアメリカでの就職にそこまで強いこだわりはもっていませんでした。それよりも、これまで学んだことを実践できる場に早く進みたいという思いのほうが強かったのです。そこで、日本に戻り、電気機器メーカーの宇宙事業部門に就職する道を選びました。

 就職した会社では、衛星システムズエンジニアとして、地球観測衛星をはじめとする人工衛星の設計、製造試験、さらには軌道上運用を含むライフサイクル一貫に携わりました。とてもやりがいのある仕事でしたが、何年か働いているうちに日々の業務に既視感(デジャヴ)を覚えるとともに、「自分は世界で一番、世界で唯一のものをつくっているのだろうか?」という疑問が湧き上がってきました。そんなときに仕事上の知人を通じて紹介されたのがアストロスケールです。

 アストロスケールという会社の名前は2013年の設立当初から耳にしていましたし、宇宙ゴミの除去に取り組んでいることは聞き及んでいましたが、具体的にどのように取り組んでいるのかまでは詳しく知りませんでした。話を聞いて、スペースデブリの除去に民間事業者が取り組むというこれまで誰も手がけたことのないミッションに技術・ビジネス・法規制の全側面からチャレンジしようとしていると知り、深い興味を覚えたのです。

人類による宇宙開発の歴史が1957年の人工衛星「スプートニク1号」の打上げから始まったとすると、それから60年以上が経過しています。しかし、「宇宙でしかできないこと」はそれほど大きな広がりをみせているわけではありません。宇宙の活用方法としては放送や通信、測位、宇宙探査があり、これらは現在の私たちの生活に欠かせない重要な技術です。その一方で、いままでにない斬新な宇宙の活用方法はあまり確立されておらず、私自身も何か新しい試みができないかと考えたことがあるのですが、残念ながら「これを!」というものは出てきませんでした。でも、将来誰かがそれを思いつくかもしれない。そのとき、宇宙がゴミだらけで使えない状況になっていたら、人類の未来にとって大きな損失になるのではないか。いずれ現れるであろうイノベーティブなアイデアの実現に役立てるという意味で、スペースデブリ除去は深い意義のあるミッションだと思ったのです。

13カ国からの出身者が集う、多様性あふれる集団をリーダーとして率いる

多くの関係者と話すうえで心がけていることは「自分のコトバ」より「相手にとって大事なコトバ」で伝えることだという小林さん。

多くの関係者と話すうえで心がけていることは「自分のコトバ」より「相手にとって大事なコトバ」で伝えることだという小林さん。

 私は2018年にアストロスケールに入社し、ミッション・システムズエンジニアとして勤務しています。会社には、アメリカ、イギリス、インドなど13カ国から集まった約100人のスタッフが働いています。大手宇宙関連企業で定年退職を迎えアストロスケールに再就職したベテランから、20代の若手エンジニアまでが在籍しており、年齢層も幅広いです。私はそうした多様なバックグラウンドを有するチームメートと、2020年打上げ予定の技術実証プロジェクトをリーダーの1人として推進しています。その職務を遂行するうえで特に重要だと感じているのが、コミュニケーションです。

 私の仕事では、多くの関係者と毎日話をすることが大きな比重を占めるのですが、一人ひとりが異なる分野のスペシャリストです。そうした人たちと情報を共有し、理解してもらうには、専門用語をその人がわかる言葉に「翻訳」して伝えなければなりません。エンジニアの悪いクセとして、つい「自分のコトバ」で話しがちな傾向があることが挙げられますが、私は「相手にとって大事なコトバ」で伝えることを常に心がけています。

 また、意外に思われるかもしれませんが、私は同じ空間でひざを突き合わせてのアナログなコミュニケーションをとても重視しています。

 近年急激に発達した、ITを駆使したコミュニケーションはとても有用で、積極的に活用しています。しかし、それは互いの信頼関係が成り立っていることが前提ですし、それだけでは相手の感情の機微まで汲み取ることは難しいのです。特に、私はプロジェクトのリーダーの1人として、意見の異なるメンバーを説得しなければならない場面に直面することもしばしばあります。相手がしっかりと納得して理解してくれたのか、それとも不承不承説得に応じたのかでは、その後の仕事に対する向き合い方も変わってくるかもしれません。もちろん、全員が心から納得できる結論を得られるケースばかりではありませんが、私はプロジェクトに関わる人たちみんなに、できるだけ気持ちよく仕事をしてほしいと思っています。みんなが気持ちよく仕事ができてこそ、より良いアイデアも生まれてくるものですから。それを実現するためにも、対面で伝え合うことを基本としたコミュニケーションの“質”にはこれからもこだわっていきたいですね。

――小林さんが大切にしていること

 私は子どものころから「将来は絶対この仕事に就きたい」「大きくなったらこんなことをやりたい」といった一途な夢をもってきませんでした。それがコンプレックスだったのですが、その時々の自分が時間を忘れるほど面白いと思えるようなことを見つけて追及していくうちに、最終的に社会に貢献できればそれでいいじゃないかと思えるようになりました。何か没頭できることを見つけ、それをトコトンやる。たとえそれが仕事に直接役立つことでなくても、その経験はきっと人生の宝になると信じています。

グローバル人材育成プログラムについて

IIBCは、国境のみならず、あらゆる境界を越えて世界で活躍する人材を育てたいと考えています。グローバル化やデジタル化で世界がますます複雑化していく時代に大切な「個としての軸」「決断力」「戦略・ビジネスモデル創出力」「異文化理解力」「多様性活用力」「コミュニケーション力」。グローバル人材育成プログラムは、これらを学び、考え、育む機会を、EVENTやARTICLEを通じて提供していきます。

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