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国連WFPで届ける食料と希望―「おなかがすいた」に寄り添いたい

現在の世界ではさまざまな事情から、およそ10人に1人が十分な食料へのアクセスがない。そうした人々を支援する目的で1961年に設立されたのが、国際連合世界食料計画(国連WFP)だ。国連WFPは紛争や自然災害で苦しむ地域に食料援助を行う国連機関で、2020年にはノーベル平和賞も受賞した。国連WFPに勤務する舛岡真理さんは、おなかがすくという悲しみに寄り添えるような仕事がしたいと学生時代から志し、ミャンマー、ナイジェリア、イエメン、アフガニスタンなど、さまざまな国で活動してきた。舛岡さんは、国際的な舞台で働く上では、環境、相手、自分に対する「理解」が肝要だと考える。「やりたいこと」に加え、「できること」を軸に築いてきた自らのキャリアを振り返りながら、若い世代に向けて多くのアドバイスを頂いた。

    プロフィール
    舛岡真理(ますおか・まり)
    高校時代より食料援助分野に関わることを目指し、国連WFPを志す。2014年国連WFPミャンマー事務所へ赴任、国内避難民キャンプへの食料支援等に携わる。国連WFPローマ本部を経て、同ナイジェリア事務所・ラゴス支部所長。緊急支援の上流オペレーションを担当。2019年4月より国連WFPイエメン事務所赴任、現金及びバウチャーによる支援を担当。2021年9月より同WFPアフガニスタン事務所赴任、国連WFP緊急支援におけるサプライチェーンのオペレーションを担当。慶応義塾大学総合政策学部卒。London School of Economics and Political Science社会政策修士。

    すべては「行動を起こす」ことから

    舛岡真理氏

     大学時代に食糧援助や開発学の勉強を続ける中で、イギリスおよびケニアに留学をしました。正確にはイギリスの留学中にケニアへ遊学へ行った形になります。

     ケニアには3カ月ほど滞在し、周囲のご助力のおかげで現地でNGOや国連の方々に実際の仕事の話を聞かせてもらえる機会を得ました。ケニアにある国連WFPのオフィスにも行き、そこでサプライチェーンが国連WFPの活動で大きな役割を担っていることを知りました。もともとサプライチェーンに興味があったこと、また計画を立て先回りして考えることが得意だと自己分析していたこともあり、この分野でまずは経験を積みたいと考えるようになりました。そういう意味ではここで行動を起こしたことが私の人生の方向性を定めたと言っても過言ではありません。興味があったら、とにかく行ってみる、聞いてみる。行動を起こすことに何もマイナス要因は伴いません。行動を起こすことですべては始まります。何か胸に響くことがあったら、是非その気持ちに素直に行動を起こしてほしいと思います。

     大学卒業後、その当時一番国連WFPと取引のあった海運会社に就職しました。将来国連WFPで働くことを見据え、必要な実務経験を積むための第一歩でした。

     結局5年務めた後、イギリスの大学院へ留学しました。社会政策を専攻したのち、外務省が主催する平和構築分野の人材育成事業(HPC)を通して国連WFPミャンマー事務所に派遣されました。最初に国連WFPで働きたいと思ってから15年ほど経っていましたので、念願叶って大変嬉しかったのを覚えています。自分の信じることに沿って仕事ができる喜びは何物にも代えがたく、今でも当時の気持ちを思い出してモチベーションにしています。

    国際社会で本当に必要な「コミュニケーション力」

     国連WFPミャンマー事務所で1年半ほど勤務したのち、外務省のJPO派遣制度を利用してイタリアのローマにある国連WFP本部に赴任しました。ここでは本部から緊急支援の上流オペレーションに携わりました。2年ほど勤務した後、同ナイジェリア事務所に異動しました。港湾都市ラゴスにある、立ち上げたばかりの支部所に所長として赴任したのですが、人を雇ったりオフィスの整備をしたり、関係各所との関係構築などやるべきことが山積みでした。国際スタッフも私一人だったので、より迅速に国連WFPの食料を必要な方々に届けるため何ができるか必死に考えた毎日でした。港湾関係者やサプライヤーといかにネットワークを構築するか、どうやってチームを強くしていくか、契約やモニタリングに改善点はないか。問題が起こったときには何度も関係者のところへ足を運び、ナイジェリアの商習慣や文化背景を学びながらも、国連WFPの意図を理解してもらうことに努めました。理解したい、されたいと願う気持ちにナイジェリア人も、日本人もありません。相手の背景には何があるのか、情報収集と状況の分析を進め、同時に自分の背景をどう伝えたらよいかを考える、そんなエクササイズの繰り返しでした。海外で働くときコミュニケーション力が大事、とはよく言われますが、本当に求められる力はただ仲良く円滑に仕事を進めるコミュニケーション力だけではないのだと痛感しました。「自分の言いたいことを間違いなく、勘違いの余地なく伝える」こと、そして「揉めたとき、上手くいかないときに逃げずに飛び込んでいける」こと、この二つが芯にあってこそのコミュニケーションなのだと体感させてもらった経験でした。うまくいかないこと、苦しいことも大変多かったですが、一生懸命に、ポジティブに、戦略的に、を心掛け少しずつですが環境、相手、自分に対する理解が進んでいったことを覚えていますし、今思うとこの経験が一番財産になっていると感じています。

     心が折れそうだったとき、助けてくれたのは学生時代から持ち続けてきた情熱と問題意識でした。この仕事に関われる喜びや問題意識に立ち返り、自分を俯瞰的に見ることで大分冷静になれたと感じています。苦境に陥った時助けてくれるという意味でも、自分の情熱や琴線に触れるものを大切にする重要さを改めて痛感しました。

    ナイジェリアにて。(写真提供:WFP)

    ナイジェリアにて。(写真提供:WFP)

    WFPで届ける食料と希望―「おなかがすいた」に寄り添いたい

     国連WFPナイジェリア事務所での勤務の時に国際職員となり、同イエメン事務所を経て、2021年9月からは同アフガニスタン事務所に赴任となりました。タリバン政権の復権で話題を集めたアフガニスタンですが、それよりも以前から長年にわたって戦火に苛まれてきた同国は、食料支援を必要としている人が世界で最も多い国の一つです。国連WFPでも、過去最大規模となる2300万人の支援プロジェクトを展開しています。私はサプライチェーンの部署で、国連WFPの食料が調達されてから人々へ届くまでのオペレーションを担当していますが、アフガニスタンは内陸国なので、周りをパキスタン、イラン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、タジキスタンに囲まれており、国外で調達した全ての貨物を近隣諸国経由で運ばなければなりません。国境や税関での問題、タリバン政権担当者との交渉、近隣諸国との調整、冬になると雪で食料を届けることができなくなる山奥のエリア、世界情勢に応じた食料供給の問題や価格の上昇など、常に新しい難事や挑戦が現れます。問題があるときには南北の国境まで行って現地の担当者と話し合ったり、内部のプロセスを見直したり、チームの皆で新しい問題解決の方法をひたすら模索する毎日です。

     少しでもおなかがすいた、に寄り添えるように、食料と一緒に希望も届けるのだと信じて、これからも国連WFPの食糧を必要としている人々の役に立てるような仕事を目指したいと思っています。

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