Leader's Voice

常にチャレンジングな仕事に挑戦し 短期間で成果を出し続けることで 自分自身も成長していく 日色 保 氏 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 代表取締役社長

常にチャレンジングな仕事に挑戦し、短期間で成果を出し続けることで自分自身も成長していく

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、世界60カ国に250以上のグループ企業を有し、総従業員数約12万8000人の陣容を誇る世界最大のトータルヘルスケアカンパニーだ。同社生え抜きの日色保さんは2012年1月、46歳でその日本法人となるジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社の社長に就任した。グローバルリーダーとして認められるには、どのようなスキルと資質が必要なのだろうか。グローバル企業を率いる日色さんに伺った。

プロフィール
日色 保(ひいろ・たもつ)
1988年静岡大学卒業後、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)に入社。医療機器の営業、マーケティング、トレーニングを担当。その後、外科用器材部門と糖尿病関連事業部門の事業部長を経て、2005年にJ&Jのグループ会社であるオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社代表取締役社長に就任。2008年には同社のアジアパシフィックの事業も統括。2010年にジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 メディカル カンパニー 成長戦略担当副社長 シニアバイスプレジデントに就任、2012年1月より現職。

目次

  • リーダーシップ
  • 英語学習の方法

海外研修で語学力不足を痛感

25年前にその将来性に魅力を感じて新卒でジョンソン・エンド・ジョンソンに入社した日色さんは、いまや代表取締役社長としてその日本法人を率いている。

 25年前、新卒でこの会社に入社したころは、海外で働くとかグローバルな環境で仕事をするという意識はあまりありませんでした。当時、ジョンソン・エンド・ジョンソンは世界有数の企業に成長し、ブランドイメージの高い会社でしたが、日本ではまだあまり知られていませんでした。だからこそ逆に、その将来性に魅力を感じたし、自分自身がいろいろ挑戦できる機会があるのではないかと考えていました。
 それと大きかったのが、これはいろいろなところで話していますが、「我が信条(Our Credo)」というジョンソン・エンド・ジョンソンのコーポレートバリューの存在です。このような企業の倫理基準があり、それをきちんと守ってビジネスをオペレートしているところが非常に新鮮でした。「我が信条」は顧客に対する責任を第一に掲げ、第二に社員、第三に地域社会に対する責任があり、それらの責任を果たして初めて株主に利益を還元できるとしています。バブル真っ只中だった当時の日本では異彩を放つものでしたが、この「我が信条」にたいへん大きな魅力を感じました。
 その後1994年に、当時名古屋で営業のマネジャーをしていた私に「研修のためアメリカに行ってきなさい」と白羽の矢が立ちました。そのころアメリカ本社からひとりのプロジェクトマネジャーが日本に赴任したのですが、彼は「日本ではまだセールストレーニングや人材育成・開発のプロセスが確立されていない。これらを日本に根づかせるためには、日本人のリーダーがアメリカで人材育成やトレーニングの仕組みを学ぶ必要がある」と考えたのです。
 余談ですが、いまでこそ英語に不自由はしていないものの、そのころ会社に言われて受けたTOEICのスコアは600点くらい(笑)。お分かりでしょうが、そのレベルでアメリカに行ってもなかなか難しいですよね。研修で教わった内容は何とか理解できても、夜にみんなでディスカッションしたり、バーでカジュアルな雰囲気のなかでお互いの考えをぶつけ合ったりするときには、うまくコミュニケーションが取れない。それで非常に悔しい思いをしました。派遣期間は2カ月半くらいでしたが、自分の英語に対する考え方、さまざまな国の人達ときちんとコミュニケーションを取るためには何が大事なのかといったことに気づかされる、得難い体験になりました。
 研修を終えて日本に帰ってくると、東京本社に異動となり、私をアメリカに派遣した上司の部下になりました。上司がアメリカ人ですし、本社にはほかにも海外から来ている人がたくさんいたので、自然と英語でのコミュニケーションが必要な機会が増え、私の英語力も徐々に向上していきました。

英語は「生きている」。理解ではなく「体験」する

 研修から2年後の1996年に、アメリカに赴任しました。ちょうどアメリカの医療保険制度が大きく変わりつつある時期で、いずれ日本にもその流れが来るだろうということで、アメリカのヘルスケアシステムを勉強しにいきました。また、営業のマネジメントにも籍を置いて、それこそミネアポリス、サンフランシスコ、ワシントンDC等々、アメリカ中を移動して回りました。
 アメリカと一言で言っても、サンフランシスコはものすごくコスモポリタンですが、南部に行くと保守的な土地柄ですし、価値観やそこに集まっている人達の考え方がまったく違う。本当に多様だなあと、実感しました。
 英語のコミュニケーションについて「ブロークンでも伝わればいい。中学生レベルの英語力があれば十分」などと言われますが、自分の実体験としては、そのレベルではまったく足りないと思いました。自分がゲスト、お客さんという立場であれば、相手は一生懸命こちらの話を聞いてくれるし、理解しようとしてくれるので、ブロークンでも中学生レベルでも通じるかもしれない。しかし、そうした要素がまったくない状況では、流暢なコミュニケーションができなければ、交渉に負けてしまいます。
 だから、自分が意識したのは、きちんとした発音できちんとした英語がしゃべれるようになることです。言語ができないとやはりその分だけ気後れしてしまうし、ネイティブスピーカーではないという配慮が相手に全然ない場合、果たして自分はちゃんとした仕事ができるのか。そう考えると、高いレベルで語学力を身につけなければいけないと痛感しました。
 英語は生きた言葉なので、たとえ同じ意味であっても、前後の文脈のなかで、どういう表現をすべきかが変わってきます。だから、単に文章を英訳するとかそういうことではなくて、できる限り英語が話されている環境のなかに自分を置いて、体験しながら学ぶことを心がけました。簡単に言うと「耳」で覚えた――という感じです。

日本人は日本語に守られている

勤勉さが日本人の強みだと指摘する一方、日本とそれ以外との間に壁をつくって殻にこもりがちな点を克服する必要があると語る日色さん。

 2005年にグループ会社であるオーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社の社長に就き、08年には同社のアジアパシフィックの事業も統括することになりました。アジア全体を管轄したことは、本当にいい経験になりました。そのなかで日本人の強みも弱みも見えてきました。
 日本人のすごいところは、阿吽(あうん)の呼吸というか、1を言えば10とまではいかないが、3から5くらいまで理解すること。そして、決まったことに対しては、みんなが誠心誠意努力して、高いクオリティで成し遂げようとする意欲が強いことだと思います。真面目だし、ごまかさないですよね、日本人は。
 一方で、日本人は殻に閉じ込もりがちというか、日本とそれ以外との間にすぐ壁をつくって、違いにばかり目が向いてしまう。「海外」「国外」「外国人」といった言葉もすべて日本とそれ以外を対比しているものではないでしょうか。でも日本の外に出て仕事をすると、完全にボーダーレスです。ボーダーレスであることが、本来の意味でのグローバリゼーションなんです。
 例えば、イスラエルという国は医療機器の分野でいろいろ先進的な技術を開発しています。でも、イスラエルのなかだけでビジネスしていても仕方がないので、最初からビジネスの前提がグローバルなんです。いかにヨーロッパ、アメリカ、世界中へと自分達の技術・製品を広げていくかを考えている。その点、日本はなまじ国内のマーケットが大きいので、まずは日本でビジネスを展開し、うまくいったら外に出ていこうと考える。本当にグローバルなビジネスを展開しようとするときに、こうした考えが逆に障害になってくるのではないでしょうか。
 そのうえ、日本語という固有の言語をほかの国の人がほとんど話せないことによって、いままですごく守られてきました。今後、日本全体の英語リテラシーが上がり、国内企業でも日本語ではなく英語でコミュニケーションを取ることが要求されるようになったときに、果たして我々日本人に十分な競争力があるでしょうか。かなり多くの人が仕事を失うことになると思います。日本語という参入障壁がなくなった途端、いろいろな国の人がどんどん入ってきますから。

至誠は天に通ず――。チームをリードするために

 グローバルな視野に立ち人材をマネジメントする「グローバルマネジャー」には、どのようなスキルやマインドセットが必要になってくるか。私は最終的には「オーセンティックである」こと、日本語では表現しづらいのですが「嘘偽りがない」こと、これが非常に大事だと思います。
 短期的には、プレゼンのスキルに長けているだとか、語学ができるとか、非常に戦略的な素養が高いとか、一人ひとりがもっている強みを活かして、チームをリードできますが、中・長期的に本当に人がついてくるかどうかというのは、結局その人の人間性であり、信頼できるかどうかなんですよね。
 多国籍の環境のなかで信頼を得るには、言葉や人種、宗教的バックグラウンドなどに目を向けるのではなく、顧客や市場に対してチームの一人ひとりがどういうアプローチをしているか。そこに自分の興味を集中するべきだし、一人ひとりの良いところ、仕事のクオリティを認めたうえで、自分が正しいと思うことを繰り返し伝えていくことが必要です。
 本当に思っていることを言わずにごまかしたり、言い繕ったりしても、必ずバレてしまいます。グローバルになればなるほど、メンバーのバックグラウンドや環境が複雑になればなるほど、最後は自分にも周囲にも嘘をつかないことがすごく重要だと思います。

人はチャレンジングな仕事によって成長する

 ジョンソン・エンド・ジョンソンではさまざまなトレーニングプログラムが設定されています。役職が上がっていくほど、多様なトレーニングを受けることになります。それも、クラスルームで講義を聞くというようなものではなく、自分達でグローバルなチームをつくり、いろいろな課題に対して解決策を提案するというオン・ザ・ジョブ・トレーニング(OJT)の要素を含んだトレーニングが増えます。
 プレゼンテーションする相手もCEOをはじめとしたトップの人達なのでいい加減なことはできないし、チームの仲間も優秀な人達なので、非常にいい経験になります。シニアを対象にしたトレーニングはより実践的で、実際に会社が抱えている課題を解決するという色合いが強くなります。仕事をしながら学んでいくということで、広い意味でのOJTだと思います。
 ただし、どんなにトレーニングを受けても、人が本当に育つのは実際の仕事を通してだと思います。人を育てるのに一番いいのは、チャレンジングな仕事を与えること、いままでやったことのない仕事をやらせてみることです。
 私の場合、いまの職に就いたのは入社24年目で、自分にとっては14個目の仕事になります。つまり入社以来ずっと1年か2年で新しいポジションに移っているわけです。本人としては、いまのポジションでようやく物事がうまく回り出したと思ったら、今度はあっちに行けと言われるのですから、いつも「せめてあと1、2年はやらせてほしい」と言っていました(笑)。
 でも新しいところに行くと、やっぱり新しいチャレンジがあって面白いんですよ。しばらくすると、新しい仕事に没頭するようになります。短期間で成果を出さなければならないので、いつも勉強していなければいけないし、いつもストレッチしていなければいけない。そのような継続したストレッチが一番大事なんですね。
 私自身は一流大学を出ているわけではないし、仕事も1、2年で変わリ続けたので、MBAなどを取得する機会もありませんでした。でもこの会社で素晴らしいリーダー達に出会い、常にストレッチのアサインメントがあり、それで結果を出せば認めてくれて、ひとつずつバーが上がり勉強をさせてもらったと感謝しています。
 グローバルな舞台で活躍したいと思うのなら、一刻も早くグローバルなマインドセットをもった人のなかに身を置く経験をしたほうがいいと思います。必ずしも海外に出なければならないということではありません。日本にいてもそういう環境に身を置くことは可能です。そういう経験がないと、ボーダーレスという感覚が実感値として分からないと思うんですよ。改めて日本のいいところも見えてきますし。
 アジアで仕事をしていると、どの国の人も本当にみんな優秀だし、一生懸命だし、必死です。いまの若い人はたいへんだと思いますよ。ボーダーレス化、グローバル化するなかで、競争していかなければならない。いまはそういう世界であり、それがニューリアリティなんです。そのなかでちゃんと競争していけるような日本でなければいけないし、それを担える若い日本人がもっともっと育ってくれることを期待しています。

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