Leader's Voice
飽くことなき知的好奇心を原動力に、自分が選んだ道をまい進
プロフィール
中林 美恵子(なかばやし・みえこ)
埼玉県深谷市生まれ。大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程修了、博士(国際公共政策)。米国ワシントン州立大学大学院政治学部修士課程修了、修士(政治学)。米国在住時に永住権を得て、1992年から約10年にわたり、アメリカ連邦議会・上院予算委員会で公務員として国家予算の編成に携わる。2002年に帰国。独立行政法人・経済産業研究所研究員、跡見学園女子大学准教授、米ジョンズ・ホプキンス大学客員スカラー、中国人民大学招聘教授、衆議院議員(2009~2012)などを経て早稲田大学准教授に。2017年より社会科学部教授。『日経ウーマン』誌の「1994年ウーマン・オブ・ザ・イヤー」受賞。1996年のアトランタ・オリンピックでは聖火ランナーも務めた。
- 目次
- 個としての軸
- コミュニケーション力
優れたリーダーは、優れた人格者でもある
結婚を機に日本に戻ってからは、経済産業省所管の研究所や大学、財政制度審議会や文部科学省の国際委員など、さまざまな分野で仕事をしてきました。人生の岐路で重要な選択をするたびに心掛けてきたのは、自分のライフスタイルや、それまで積み上げてきたものとの整合性です。この「軸」なくして、正しい選択はできません。
人生の選択に際し、もう一つ大事にしているのは、「それは本当に自分がやりたいことか」という、自分への問い掛けです。重大な選択はいつもリスクを伴いますから、「今まで培ってきた全てを失っても、お前はそれをやりたいか」と、自分に問うのです。
衆議院議員への立候補はそうした決断の最たるものでした。当時私は大学の准教授でしたから、そのままいけば定年まで安定して仕事ができるはずでした。選挙に出ないかと、熱心にくどかれても、できればその立場を失いたくはありません。
そんなとき、「あなたはこれまでずっと、現場でやってきた人間でしょ。政権交代が必要だと言っていたのもあなたでしょ。それなのに実行しないの?」と夫に背中を押されたのです。熟考の末、立候補を決めました。
結果はたまたま当選でしたが、私としては落選してもかまわないと、最初から思っていました。全てを犠牲にしても、これは意義ある挑戦だと、十分納得できていたからです。
選挙活動とその後の議員活動は、とても良い経験でした。個人的に最大の収穫だったのは、仕事の延長線上では、なかなか会えないごく普通の町の人たちと、たくさん会って話せたことです。
子供の頃から、人への関心は常にありましたね。具体的な職業やポジションを意識して、それになりたいと思ったことはないのですが、人徳のある人、本質が分かる人に憧れる気持ちは強く、自分もいつか、それなりの知見を持った人間になりたいと思っていました。
社会に出てからは、たくさんの素晴らしいリーダーとの出会いがありましたが、国も分野も異なる彼らに共通するのは、どの人も立派な人格者だったし、そういう人とだけ長いお付き合いが続いているという点です。考え方のバランスが取れていて、いざ決断というときは、威厳を持ってそれができる。と同時に、自分を過信せず、常に自らを振り返る謙虚さも兼ね備えているのです。
私が尊敬するのは、地位や肩書ではなく、優れた人間性や人格を感じさせてくれる人です。自分もそういう人物になりたいと今も本気で思います。突き詰めると、どういう人を立派だと思うかは、自分の心の合わせ鏡のようなものなのかもしれません。もし自分が掲げる理想が、それにふさわしい人を引き寄せるのだとしたら、自分磨きに終わりはないと痛感します。
目の前の小さなことから、最初の一歩を踏み出そう
これからのグローバル社会を生きる若い人たちには、「個としての軸」をしっかり持ってほしいと思います。人は皆、生まれ持ったものがそれぞれ違います。得意なことも、一人一人違います。何が優れている、何が劣っているではなく、あなたはただ当たり前に、生まれながらに他の人とは違う、ユニークな存在なのです。だからこそしっかり自分を見つめ、人と違う自分を最も生かせる道は何かと、考えるべきではないでしょうか。それがあなたの「軸」になります。
「コミュニケーション力」も重要です。これは人との交流を通じて、「異文化理解力」にもつながっていきます。やがてリーダーの立場になれば、今度は「決断力」や「戦略の創出力」も、求められるようになるでしょう。この他に、私は「好奇心」も大切にしています。好奇心があればどんなことだって、楽しく前向きに取り組めますからね。まるで「魔法の粉」のようだと思いませんか?
グローバル人材を目指すといっても、最終的な着地地点は、必ずしも国際的なビジネスや国際機関とは限りません。スケールの大きな考え方、国境にとらわれない人とのつながり、自分のいる地域を日本全体の中で俯瞰し、日本全体を世界の中で俯瞰する広い視野。そんなグローバルなマインドや要素を持っていれば、活動の場がどこであっても、その人はれっきとしたグローバル人材だと思います。
今の若い人たちは、私たちの頃と比べてずっと真面目です。育ちもいいし、考え方も洗練されています。どうすれば地域社会や世界に貢献できるか、真剣に考えている学生もたくさんいて、本当に素晴らしい。
一方、日本の貧しい時代を知らずに育った分、なりふり構わぬ貪欲さには、欠けるように思います。貪欲さは、やっぱり必要ですよ。貪欲に稼いで世界屈指のお金持ちになれば、そのお金で貢献できることが山ほどあります。自己実現のためにも、日本の若者はもう少し、「貪欲」になったほうがいいと思います。
私が勧めたいのは、ぬくぬくと心地良い環境から飛び出して、三カ月でも半年でも、海外で暮らしてみることです。そこでぜひ、「このヤロー!」と腹の底から発奮するような経験をしてほしい。過酷な状況で、「これでもお前が望むことをやりたいか」と自分に尋ねれば、おのずと本音が分かるはずです。
私たちは一人一人が、唯一無二の存在です。だから周りの人と同じであろうと、思わないでください。他人の目を気にしたり誰かと比較したりする暇もありません。高い目標もいいけれど、本当にやりたいことはこれだと確信したら、ちゅうちょせず、目の前の小さなことから手をつけてみましょう。すると物事は動き始めます。学びの連鎖も始動します。
どんなに小さな一歩でも、前に進むたび、次の「目の前のこと」が見つかります。そして五里霧中だったところに、どんどん新しい橋が架かり、進むべき方向が定まっていくのです。どうか自分を信じ、今しかできないチャレンジに、勇気をもって臨んでください。
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