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上村知代氏「多様性を受け入れ、日本の素晴らしさを再認識する」上村知代氏「多様性を受け入れ、日本の素晴らしさを再認識する」
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多様性を受け入れ、日本の素晴らしさを再認識する

米国最大の規模を誇る日米交流団体「ジャパン・ソサエティー」。その日本語教育機関で、ディレクターとして活躍されている上村知代さんは、「グローバルな視点に立つことは日本を知るうえで大切である」と言う。ニューヨークを拠点に人生の大半を海外で過ごされたそのキャリアにおいて、上村さんは何を感じ、学んだのか。日本の大学で英語を教え、米国の大学で日本語を教えてきたご自身の経験に基づきながら、語学指導や語学習得におけるポイントなども含めて寄稿いただいた。

    プロフィール
    上村 知代(かみむら・ともよ)
    早稲田大学第一文学部卒業。オレゴン大学言語学科大学院にて言語学修士号取得。帰国し、東京理科大学工学部の客員講師を務めた後、コロンビア大学経営大学院にてMBAを取得。ソロモン・ブラザーズ投資銀行債権アナリスト、ラトガーズ大学、バルーク大学での日本語教師を経て、2004年よりニュースクール大学の常勤講師兼日本語プログラムのコーディネーターに就任。2014年よりジャパン・ソサエティー(米国)語学センターのディレクターとして、国際理解、多文化共生社会の実現に寄与されている。

    この記事は「GM特別企画」から「Global Frontline」に移行しました。内容の変更はございません。

    文法の知識は不可欠。あとは知識と口を結ぶだけ

    ジャパン・ソサエティーのロビーにて。理事長の櫻井本篤氏と筆者。

    ジャパン・ソサエティーのロビーにて。理事長の櫻井本篤氏と筆者。

     グローバリズム、グローバル人材、グローバル意識……私が日本を離れた40年前は、耳にしなかった言葉です。当時は、国際人、国際化などと言っていました。概念は同じでも、「グローバル」のほうが「世界中」という響きがあるのはなぜでしょうか。どちらにせよ、日本以外の文化の存在を意識することは、日本を知るうえで大変役立ちます。
     グローバルな人間として活躍するためには多種の要素が求められますが、そのなかで特に必要なのは、英語の熟達であることはいうまでもありません。日本の大学で英語を教え、米国の大学で日本語を教えてきた私は、外国語の習得には特別な興味をもっています。どちらの場合も、母国語以外の言語を学習するという意味では変わりませんが、日本の英語学習者のほうがずっと有利な環境にいると思います。なぜなら、日本は、いまや小学校でも英語が取り入れられていますし、日常生活に英単語が溢れているうえ、たいていの日本人はアルファベットを読むことができます。一方、英語になった日本語の単語は限られていて、ひらがなやカタカナ、特に漢字の習得にはかなりの努力が必要です。日本語を学びたくても、ほとんどの場合、独学かあるいは大学に入ってやっと日本語が学べるチャンスが来るのです。この状況を日本に置き換えると、日本人がアラビア語を学ぶような感覚といえるかもしれません。

     英語の熟達のために大切なことが3つあります。1つ目は「文法の知識」です。 日本でも米国でも、学習者達は早く会話を習いたいとせがんできます。でも、彼らは、「こんにちは」あるいは“Hello, how are you?”の後は、文法に基づいた文章で自分の考えを表現するということを忘れてはいないでしょうか。会話は習うものではありません。自発的につくるものなので、文法の基礎知識が不可欠です。いろいろな意見があるでしょうが、しっかりと文法を教える日本の英語教育は、悪くないと思います。普通に勉強していれば英文法の基礎が身につく仕組みになっているからです。日本語学習者も同じですが、文法を知らないと新しい文章が創作できません。日本に数年住んだ米国人は、流暢に日本語会話ができるようにみえますが、聞いたことのある表現以外は出てきません。文法が頭にあれば、あとは知識と口を結ぶだけ。知識がなければ、口からは何も出ようがありません。

    語学習得における心理的要素とは

    授業風景。受講者の能力に合わせた12段階の日本語教室がある。

    授業風景。受講者の能力に合わせた13段階の日本語教室がある。

     2つ目に重要なことは「心理的要素」です。私は心理学の専門家ではありませんが、両国語を教えた経験から、言語の習得には多分に心理的要素が関係すると思うようになりました。日本の英語教育では、話すことは無理だと思い込んでいるケースをたくさん見てきたからです。まずは、話せないという思い込みを捨て、話せるという心理状態に変えることが大切だと思います。
     容易に想像がつきますが、生まれてから一度も聞いたことのない単語を音だけで丸暗記するのには限度があります。よって、日本語学習者が語彙を増やすのはかなり骨の折れる作業です。しかし、長年日本語を教える過程で、私はひとつのコツをつかみました。それは、単語を頭に入れるには、感情を伴うと効果的だということです。これも心理作戦のひとつといえるでしょう。例えば、「たべる」という動詞は、「テーブル」で「タベル」というふうに似た音を利用してこじつける方法です。学習者はなるほどと思うでしょう。「かわいい」と「こわい」は、発音上、英語を話す学習者には区別がつきにくいので、「ひとつ間違うと、『怖い赤ちゃんですね』と言いかねないですよ」と冗談を言って、笑わせています。また「のむ」と「よむ」も音だけでは分かりにくいので、彼らの間違いを皮肉って「ええ?本を飲むんですか?」と聞き返してみんなで笑います。こうすると、両方の単語が印象づけられ心に残ります。私がいう感情とは、笑ったり、感心したりという単純な心理のことなのです。
     同じように、英語を学ぶ際にも心理的要素が影響します。何十年も前に日本で英語を教えていたときには気づかなかったのですが、日本の英語の先生達が英語を話す側の心理を知っていれば、もっと自然に生徒は理解できたのではないかという点がいくつも思い浮かびます。その例が、関係代名詞や関係副詞に関する心理です。ところで、このとっつきにくい文法用語、もっと分かりやすいものにできないかといつも思っています。日本語の関係代名詞に当たる文法事項は、英語では、noun modifier(名詞を修飾するもの)といいますが、これも日本の英語学習者と同様に、日本語学習者はこの用語では何のことだかよく分かりません。

    書道や漢字、経済などの専門性をもったクラスも完備している。

    書道や漢字、ビジネスなどの専門性をもったクラスも完備している。

     愚痴はさておき、英語の“Do you know the girl who carries flowers which she often buys at the supermarket where I work?”を、中学のときに習ったとおりに訳してみると、「私が働く(ところの)スーパーでよく買う(ところの)花を持っている(ところの)少女を知っていますか?」となります。ところが、英語を話す側の心理からすると、「あの娘、知っている?ほら、花を持っている娘よ。あの花、しょっちゅうスーパーで買うのよ。私が勤めているスーパーなのだけどね」というふうに、頭に浮かんだことを単に順番に足しているだけなのです。慣れるととても便利な表現法なので、このように関係代名詞や関係副詞を教えたら、学習者はもっとこの用法になじむことができるのではないでしょうか。日本語は、形容詞、形容動詞、動詞、そして文章までも修飾される名詞の前にくるルールがあるので、英語を無理やり日本語の文法どおりに訳したのでしょうが、これでは、不自然極まりない結果となってしまいます。ハンバーガーという名詞の前に形容詞の「高い」や形容動詞の「有名な」をつけるのは英語も同じですが、「今朝買った」という節をつけて「今朝買ったハンバーガー」となるとちょっと違ってきます。英語ではまずハンバーガーと言ってから、説明が次に続くからです。長い説明文でも名詞の前にきて、その名詞を修飾するのが日本語の特徴です。「(これは)友達がおいしくないから買うなと言ったのに、セールだったからつい買ってしまったハンバーガー(なのです)」などとなると、日本語学習者は、文型を理解するのに一苦労です。

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