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主体性とオープンな姿勢をもちグローバルで多様な世界に飛び込もう 奥村 真介 氏 アデコ株式会社 代表取締役社長

主体性とオープンな姿勢をもちグローバルで多様な世界に飛び込もう

アデコグループはスイスに本社を置き、60を超える国と地域に5200以上の拠点をもつ、世界最大の総合人材サービス企業だ。奥村真介さんは、その日本法人であるアデコ株式会社の社長に43歳の若さで就任、多様な顧客ニーズやグローバル戦略に対応するため、グローバル人材の育成にも注力している。日本人がグローバルな環境で活躍するために何が必要か、奥村さんに聞いた。

プロフィール
奥村 真介(おくむら・しんすけ)
1990年早稲田大学教育学部卒業後、富士銀行(当時)入行。1997年チェースマンハッタン銀行、1998年バークレイズ銀行を経て、1999年GEのヘルスケア部門であるGE横河メディカルシステムに入社、2002年GEメディカルシステムITジャパン最高経理財務責任者(CFO)に就任。2004年GE法人金融部門(現GEキャピタル)のGEフリートサービスに転籍し、常務執行役員マーケティング・営業企画推進統括を経て2006年常務執行役員リージョナルセールスリーダー。2007年アデコに入社。常務取締役、取締役副社長を歴任、2012年1月から現職。

目次

  • リーダーシップ
  • 外資系で働く

自分の意志で決めた外資系企業への転職

「『プロ』のビジネスパーソンを目指そうという気持ちが強かった」と語る奥村さん。その第一歩は新卒で入った銀行から外資系の銀行に移ったときだった、と振り返る。

 自身のキャリアのスタートは新卒で就職した富士銀行(当時)で、実は「グローバル企業で働きたい」とか、「絶対に海外に行って仕事してやる」といった希望をもっていたわけではありませんでした。学生時代は体育会のサッカー部に入っていたのですが、周囲とのレベルの差を感じて途中で辞めてしまい大きな挫折を経験しました。学友にはスポーツにおいて一つの道を突き詰めて輝いている人が多かったこともあり、その人達に比べると劣等感に似た気持ちが拭いきれませんでした。だからこそ、社会に出たらその人たちに劣らないくらいの働きをしたい、学生時代の不完全燃焼感を払拭したい、そう思って就職活動に臨みました。先ほども言ったように「グローバル」を最初から意識していたわけではなかったのですが、逆に国内で働ける仕事でなければ嫌だという意識もありませんでした。事業に発展性があって幅広いことに挑戦できそうな企業で働きたいと考えていたところ、縁あって富士銀行に入行しました。
 仕事のなかで「英語」を意識し始めたのは富士銀行に入って4年目、「国際資金為替部」に配属されてからです。その前は東京・下町の葛飾勤務で、英語なんてまったく使う必要はありませんでした(笑)。国際資金為替部では英語のニュースが読めないと仕事になりませんし、日常的にシドニーやウェリントン、ロンドン、ニューヨーク、あるいは香港、シンガポールといった世界の運用拠点と話す必要があるので、否が応でも英語を使わざるを得ませんでした。ただ、いまから思えば金融業界独自の限られた言葉だけを使ったコミュニケーションでしたので、当時の私の英語力でも何とか対応できたのだと思います。
 富士銀行に6年半ほど勤めた後、外資系の銀行に移りました。周囲には「時期尚早」と反対する人もいましたが、同じ仕事をするなら「プロ」のビジネスパーソンを目指そうという気持ちが強かった。一度飛び出して自分の幅を広げていきたい、当時はそんな気持ちでした。転職後のことを振り返ると、決して順風満帆ではなかったし、葛藤や挫折もたくさんありました。それでも、あのときに自分の意志によって早い段階で最初の一歩を踏み出すことができたのは、自分にとって本当によかったと思います。

英語の利便性が世界をつなげている

 金融業界にいたからだと思うのですが、お金の動きというのは、あらゆる国のあらゆるニュース、指標、行動などがつながりあって一つのフローで流れている。そうしたお金の動きを追って仕事をしていたので、自分のなかで「日本と日本以外」を分けて考える感覚がもともとあまりありませんでした。だからこそ、なんの不安も抱かずに外資系に移ることができたんだと思います。そういう意味ではキャリアのスタートが金融だったことで、意識せずにグローバルな感覚を養えたのかもしれません。
 とはいえ、英語に関してはそれなりに苦労しました。日本人だけの組織で英語を使って仕事をするのと、外国人と同じチームで仕事をするのとではまったく違うことを痛感しました。仕事の話題だけでは間がもたないし、世間話や冗談も含め、コミュニケーションが求められる。そういう点でまず自分の英語力不足を思い知らされました。
 また、キャリアを踏むごとに英語でプレゼンテーションしなければならない機会が増えてきました。そのあたりからですね、もっと自分の英語をブラッシュアップしていかなければならないと真剣に思い始めたのは。実際に英語力が伸び始めたのもそのころからだと思います。
 当時、ある人に「英語で伝えられないと思っていることは、日本語でも伝えられない」と言われた。それが私にとっては「目からうろこ」で、まさにそのとおりだと思いました。自分が熟知していることは、日本語でも英語でも、たとえそれがブロークンな英語だったとしても伝えられるけれど、自分の理解が曖昧なことは決して相手に伝えることはできない。だから言語よりも、まずは伝えたいことの論旨をしっかりと捉えるように心がけるようになりました。
 ビジネス英語に限って言えば、特定の言い回しとかフレームワークは決まっているので、それほど難しく考える必要はないと思います。それに、英語を使ってコミュニケーションしている人は世界中にいますが、数カ国を除けば英語が母国語ではない人たちばかり。つまり、国際人と呼ばれているすべての人が、英語をうまく話せているわけではないということです。ところが日本人は、細かい文法や誤りを気にしすぎるきらいがある。英語として多少不正確だったとしても、趣旨を明確にして自信をもって話せば十分コミュニケーションがとれます。
 アデコは60カ国以上で事業を展開しており、英語が母国語の人のほうがむしろマイノリティです。社内でもさまざまな国の人と話すときには英語を使いますが、お互いの英語が分かりにくいと思うときもあります。それでも伝えたい気持ちがあり、共通の話題をもっているので理解し合えるのです。
 海外で何十カ国もの人達とコミュニケーションをとるときに感じるのは、「英語という言語があってよかった」ということです。この便利な言語がなければ、一体どうやってコミュニケーションをとるのか。こんな便利な英語を、不完全であったとしても使わない手はないという気がします。

日本人はもっと主体性をもってオープンに

年に数回レビューのために訪日するアデコグループCEO パトリック・デ・メスネール氏と。レビュー後に社員も含めた懇親会を開催した際のワンカット。

 いわゆる日本人の「細やかさ」や「おもてなしの心」は、世界随一だろうと思います。これらは本来、日本人の強みなのですが、一方で弱みにもなり得ると思っています。あまり細やかなことばかり気にしていると物事が前に進まない。何かあるたびにその都度、憤慨したり、「自分達とは違う」とか「自分達の常識だったらあんなことはあり得ない」と言ってもしかたがない。そうしたことも受け入れて、前に進むことができるのが大切だと思います。
 それと、おもてなしとか細やかさというと、丁寧にやることが大事だと捉えることが多いのですが、相手がどういう時間軸で成果を求めているのかを忘れてはいけないと思っています。
 例えば、5分しか時間がないのでサッと牛丼だけ食べて帰りたい人に、1時間かけてフルコースを提供しても意味がないですよね。特に、スピードが求められるビジネスにおいては、相手の求める時間軸に応じて提供するサービスを柔軟に変えていくことも重要なポイントだと感じています。
 また、グローバルな環境、例えば多国籍のチームで何かをやるという場合は、基本的にはまず自らが動き、そのうえで人の話も聞くことが理想だと思っています。日本人はこの逆が多い。とにかく人の話をよく聞いてから、「よし、じゃあ自分も動こう」というパターンですね。
 今も将来も「誰かに指示されたとおりに動くのが心地よい」というのであればそれでもいいでしょう。でも、自分が主張し、チームをリードしていきたいと少しでも思うのであれば、まず自らが動くという主体性を見せなければ、従属的についていくだけになってしまいます。何も言わず、自分から動こうとしない人は、「あなたは決定に従いますよね」ということに暗黙のうちに了解しているとみなされる。控えめであることは、決して日本人の強みではないのです。
 特に3.11以降、日本人が非常に忍耐強く勤勉で優しい心をもっている民族だということは、世界中の人に改めて認識されました。そういう点で非常にリスペクトされているとは思いますが、だからこそビジネス上では、そうではない一面、主体性をもって動けることを適切に見せていく必要があると思います。
 控えめと言われているうちはまだいい。もうちょっときつい言い方だと、日本人は「閉じている」と言われます。見せたがらない、閉じていると。だからもっとオープンになる必要があると思います。オープンになって見せ合う。そうすると違いも見えてきますが、違いばかりいくら数えてもしようがないですよね。それよりも英語という便利な言語を使ってコミュニケーションし、お互いに「comfortableだよね」という共通点、歩み寄れるポイントを探すほうが、ビジネスやコミュニケーションをスムーズに進めるためにもずっと効果的で楽しくなると思います。

リーダーはシンプルな言葉でメッセージを発信する

 多国籍なチームを率いていくようなグローバルマネジャーは、まずはシンプルな言葉でメッセージを発信することが第一歩ではないでしょうか。自分が一体何にこだわりをもち、何を求めているのかをなるべく早い段階でチームのメンバーに伝えることが重要だと思います。あとは、オンだけじゃない部分、オフの部分もある程度見せることが、人間性を感じさせ、距離感を縮めることになります。日本人同士のように阿吽の呼吸が通じませんから、ある程度距離感が近くないと相手からのコミュニケーションが入ってこなくなり、ビジネスのうえでは問題を生じることもあります。
 また、人はみな必ずしも常に勤勉とは限らないので、チーム内で共通の指標、測定する指標というものを明確にしておく必要があります。そうしないと、みんな楽しそうに仕事はしているけれど、まったく業績が上がらないということになりかねません。
 「あなたの国、あなたの文化、あなたのこと」をちゃんと尊重している、認めているということを積極的に発信していく必要もあると思います。それが1カ国のみならず複数の国にわたってできればできるほど、その人の人間的総合力が増すのではないでしょうか。

多様な世界に早く飛び込んでほしい

グローバルな環境で活躍したいと思うなら、あえて「心地の悪い」世界に自ら飛び込むことが大事という奥村さん。アデコ社でも、実体験を通じての「ショック体験」を重視している。

 人材を育成するためには、実際に就業体験をさせてみるのが第一歩だと思います。もちろん語学も含め教室(座学)で勉強することも必要ですが、アデコでは、何らかのショックを与えるような実体験を通じてのスキル習得を重視しています。「クラスルームよりショック体験」ですね。
 具体的には実際に私達のお客様のもとに行って仕事をする。そこで「同じ釜の飯を食う」経験をする。あるいは短期のジョブローテーション、ショートタームでの交換留学など、まったく違う部署に行って仕事をするという仕組みもあります。営業の人がお客様相談センターに行ったり、経理の人が営業現場に行ってみるとか、普段と異なる現場に置かれることで仕事のやり方や改善点などが見つかり、研修を受けた人からも、受け入れた部署からも新しい発見があると好評です。
 また、アデコグループではAdecco Academyという社内教育機関があり、各国から人材を集め短期の研修などを実施しています。アデコの場合、本当にいろいろな国から参加してくるので、母国語が英語以外という人の割合が9割に達することもあります。
 やはり、一様な環境から多様な環境に飛び込むことによるショック経験というものが、最も人に変化を与えると思います。私が新卒で入った銀行から外資系の銀行に飛び込んでいったのもそう。いまでも、あれが自分で踏み出した多様性への第一歩だったと思っています。
 もちろん多様な環境に飛び込むことが、結果として失敗につながることもあるかもしれません。私にも失敗や挫折がありました。そんなときこそ、前向きな思考が重要になる。どんなに頑張ってもコントロールできないことよりも、まずは自分がコントロールできることに集中するほうが大事です。逆にコントロールできることに着手することなく、コントロールできないことにくよくよしていたら、それはもったいないことですよね。
 これからグローバルな環境で活躍したいと思うなら、自国の文化にちゃんと自信をもったうえで、あえて自分の居心地のよい場所から飛び出してほしい。早いうちに「心地の悪い」世界に自ら飛び込んだ経験は、たとえ失敗したり挫折したりしても必ずあとで生きてくると思います。

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