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日本を世界に開く。内閣官房の官僚からグローバル企業のマーケティングイノベーターに 加治慶光氏 アクセンチュア株式会社 チーフ・マーケティング・イノベーター

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日本を世界に開く。内閣官房の官僚からグローバル企業のマーケティングイノベーターに

英語という共通言語を身につけ、自らの信念にしたがって、世界が直面する課題に対峙すること——。加治慶光さんが挙げる「グローバルに活躍する人材に求められる要件」は明快だ。企業戦略やマーケティングの領域など数々の組織でビジネスの最前線に立ち、また政府の立場から日本の国際広報活動にも足跡を残してきた加治さんに、グローバル時代における日本と日本人の役割を語ってもらう。

プロフィール
加治 慶光(かじ・よしみつ)
青山学院大学経済学部卒業。富士銀行、東急エージェンシー・インターナショナル、レオ・バーネット協同を経て、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院にてMBA修了。日本コカ・コーラ勤務の後、タイム・ワーナーで映画宣伝部長、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントで、バイス・プレジデントマーケティング統括などを歴任。日産自動車にて高級車担当マーケティング・ダイレクターを務める。2016年東京オリンピック・パラリンピック招致委員会にエグゼクティブ・ディレクターとして出向。内閣官房官邸国際広報室参事官を経て、現職。文部科学省参与も務めている。

目次

  • コミュニケーション力
  • 多様性活用力

「インサイダー」になるしたたかさ

アメリカの大手広告代理店 レオ・バーネット時代に世界各国から集まった同僚達と。

 日産自動車に移ったあとの転機は、2007年10月の東京モーターショーで訪れます。日産自動車は Nissan GT-Rという、時速300キロ超、当時としては世界最速の市販車を発表しました。同じスペックの市販車と比較すると半額以下の価格設定で登場したスーパースポーツカーによって、同社のブースは大人気でした。
 ただ、少し引いてみると、そのときのモーターショーにアメリカ三大自動車メーカーの役員は1人も来ていませんでした。世界的に見て日本市場の魅力が薄れてきているのだと痛感しました。一方、ブースには中国やインドの技術者が次々に訪れ、超音波、レーザー、エックス線を組み合わせた箱形のデバイスをかざして天板の厚さなどを調べていく。日本の技術はすぐにキャッチアップされることになる、とも思いました。
 日本の全就労人口は約6300万人。その約9パーセント、540万人が自動車産業に従事しています。日本の産業の屋台骨が揺らいでいると感じました。
 翌2008年5月、日産自動車のゴーン会長は、中期経営計画で電気自動車の量産モデルを市場投入していくと宣言しました。世界同時に電気自動車を売り出すなら、各国で充電仕様に合った同じインフラをつくり、それぞれの国から助成金を得て、価格を抑えなければならない。グローバルな視点で戦略を組み立てていたのです。そんなころ、東京が2016年のオリンピック・パラリンピック招致活動に入ると知りました。石原慎太郎都知事(当時)がそれをきっかけに、日本の環境技術を高め、人類のサステナビリティに貢献するという。オリンピック・パラリンピックの期日が決まれば、太陽光発電や電気自動車の技術開発が一気に進むと。これは絶対に招致しなければと思いました。それで招致委員会に出向しました。
 招致活動では、チームとして完成度の高いプレゼンテーションができたと思います。ただ、最も重要な半年間に、自民党から民主党への政権交代が起きるなど、国内が政情変化を迎える時期でやむを得ない部分もありました。
 このとき感じたのは、良いものをつくれば売れるというわけではないということです。技術力で発展してきた日本は90年代半ばまで、良いものをつくれば売れると考えてきた。マーケティングができていなかったといえますが、特にロビイングという発想がありませんでした。しかし、招致活動ではリオデジャネイロもマドリッドもインサイダーとして国際オリンピック委員に働きかけている。さらにいえば、日産自動車が世界で電気自動車を売りはじめることができるのは、ゴーン会長がヨーロッパ工業会の会長であり、インサイダーであったことも大きな要因のひとつだといえます。
 日本も多種多様な方法でロビイングするしたたかさを身につけなければ。自分がやってみたい、日本の魅力を世界に伝えていきたいと思いました。
 その後、いったん日産自動車に戻り、電気自動車のグローバル導入に携わりました。国際会議に出て、電気自動車の充電仕様や助成金などについて協議するために多くの国内外の政府関係者と議論しました。このとき、熱心に仕事をする素晴らしい日本の政府関係者が大勢いることを知りました。間もなく、政府が内閣官房内閣広報室を立ち上げ、国際広報の担当者を公募していることを知り応募しました。
 就任直後にダボス会議(世界経済フォーラム)が開かれ、広報を担当しました。2カ月後、東日本大震災と福島の原発事故が起き、政府としてFacebook、Twitterを使って英語で海外に発信する仕事も手掛けました。さらにそれから政権交代があり、2020年の東京オリンピック・パラリンピック招致活動もあって忙しかった。2年間の任期を1年延長しました。最初数名で始まった官邸国際広報室は数倍にメンバーが増え、組織も安定しています。

和を以て貴しと為す力こそ

これからの国際社会において、日本の「和を以て貴しと為す」という精神が新しい役割を果たすのでは、と加治さんは指摘する。

 私は大学を出た時点では英語も話せず、物事を整理して考えることもできなかった。しかし、訓練によってある程度できるようになりました。訓練をすることはとても重要だと感じています。
 日本人の「謙譲の美徳」は大切な美点です。ただ、状況に応じてその美徳をスイッチオン・オフする必要もある。日産自動車時代、上司はフランス人、イギリス人、オーストラリア人、アメリカ人、同僚はインド人、中国人ということがありました。みんなが積極的に話しているのに発言できないような瞬間がありました。それは日本人の美徳としての謙譲の精神からなのか、勇気がないからなのか、自問自答してしまうことがあります。しかし、そこを見極めて、ときには割り込まないと意見は届きません。
 そのためにも、よく人の話を聞く。そして、ここぞというとき割って入る。そうこうしているうちに、日本人はあまり話さないが、言うべきことは言うという評価が高まります。
 今年、中国で世界経済フォーラムが選んだヤンググローバルリーダーの会議がありました。私はそのうちの約30名の人々とともに、奈良の東大寺に行きました。参加者のひとりが高僧に「自分達は世界を良くしたいと思って勉強しているが、アドバイスはあるか」と聞きました。すると高僧は「人には誰でも無知と欲と怒りという毒があり、それが悲惨を生み出す。毒に冒されそうな自分を認識し、悲惨さから目を離さないことが大事だ。日本も原爆を受け、戦争の悲惨さから目を逸らさなかった。だから70年もの平和なのだ」と話しました。
 私自身は日本の「和を以て貴しと為す」という精神は、これからの国際社会のなかで、新しい役割を果たすのではないかと考えています。いまの国際社会はかつてのような先進国中心の世界ではありません。しかし先進国と新興国は、それぞれが抱える課題も向かおうとする方向も未だに乖離していて、一致点が見いだせない。例えば、その距離を少しずつでも縮めていくために、歴史的に多様なものを取り入れてきた日本の価値観が役に立つのではないかと感じています。

グローバル人材育成プログラムについて

IIBCは、国境のみならず、あらゆる境界を越えて世界で活躍する人材を育てたいと考えています。グローバル化やデジタル化で世界がますます複雑化していく時代に大切な「個としての軸」「決断力」「戦略・ビジネスモデル創出力」「異文化理解力」「多様性活用力」「コミュニケーション力」。グローバル人材育成プログラムは、これらを学び、考え、育む機会を、EVENTやARTICLEを通じて提供していきます。

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